79/132
第九話「帰路と、墓場まで持っていく荷物」
帰り道、カイルの父は、ずっと黙っていた。
馬の足音だけが、続いていた。
王だった。
間違いなかった。
あの歩き方、あの体つき、月明かりに照らされたあの顔。
何度も見た顔だった。
なぜ、王が。
なぜ、あの女と。
なぜ、赤子が二人も。
問いは、いくつも浮かんだ。
答えは、一つも出なかった。
出す必要も、ないと思った。
これは、自分が抱えて、そのまま墓場まで運ぶべき荷物だ。
そう決めたのは、王都が見えてくる頃だった。
側近への報告は、短かった。
「土地には、一軒家がありました。人が住んでいました」
「誰が」
「女が一人。子供が」
「詳しく」
「すみません。詳しくは、見ておりません。一晩世話になっただけで、朝には発ちましたので」
嘘だった。
生まれて初めてつく、大きな嘘だった。
だが、口にした瞬間、後悔はなかった。
側近は、しばらくカイルの父を見ていた。
それから、頷いた。
「そうか。分かった」
それ以上は、追及されなかった。
帳面には、こう記した。
空欄 女、旅装
それだけだった。
名も、事情も、王のことも、何も書かなかった。
つづく




