76/132
第六話「見なかったことにする、夜」
カイルの父は、窓から離れた。
体が、勝手に動いた。
壁に、背をつけた。
心臓が、うるさかった。
なぜ、王が、ここに。
なぜ、この女が、王と。
二つの揺り籠のことが、頭の中で、また像を結んだ。
考えるほどに、恐ろしくなった。
知ってはいけないものを、知ってしまった気がした。
王に仕える者として、これは、報告すべきことなのか。
それとも——
外で、しばらく話し声が続いていた。
それから、静かになった。
足音が、家の中に入ってきた。
カイルの父は、目を閉じた。
眠っているふりをした。
本当に眠っているように、呼吸を整えた。
誰かが、部屋の前を通り過ぎる気配がした。
止まった。
長く、止まった。
カイルの父は、目を閉じたまま、動かなかった。
気配が、また動いた。
離れていった。
朝まで、目を開けなかった。
開けなくても、眠れなかった。
つづく




