第四話「揺り籠が、二つ」
夜半、目が覚めた。
喉が渇いていた。
水を探して、居間に出た。
女が、起きていた。
揺り籠のそばに、座っていた。
揺り籠は、一つではなかった。
もう一つ、隅にあった。
先ほどは、気づかなかった。
女は、二つの揺り籠を、交互に見ていた。
どちらにも、赤子が眠っていた。
よく似た、小さな寝顔だった。
カイルの父は、声をかけるのをためらった。
女の横顔が、あまりにも静かだったからだ。
静かすぎて、声をかければ、何かが壊れる気がした。
女が、先に気づいた。
「起こしてしまいましたか」
「いえ。喉が渇いただけです」
「水は、そこに」
女は、壺を示した。
カイルの父は、水を飲んだ。
そのまま、部屋に戻ろうとした。
「あの」
女が、呼び止めた。
カイルの父は、振り返った。
女は、二つの揺り籠を見たまま、言った。
「もし——」
言葉を、選んでいるようだった。
「もし、いつか、この子たちのことを、誰かに聞かれることがあったら」
「はい」
「見なかった、と言っていただけますか」
カイルの父は、しばらく、女を見ていた。
理由は、聞かなかった。
聞けば、何かに巻き込まれる気がした。
それに——女の目が、何かを、必死に守ろうとする目だった。
そういう目を、何度か見たことがあった。
王に仕える中で、何度か。
「見ませんでした」とカイルの父は言った。
女は、カイルの父を見た。
それから、深く、頭を下げた。
「ありがとうございます」
それだけだった。
カイルの父は、部屋に戻った。
横になったが、眠れなかった。
二つの揺り籠のことを、考えていた。
よく似た寝顔のことを、考えていた。
この家に、他に誰か、いるのだろうか。
父親は、どこにいるのだろうか。
考えても、答えは出なかった。
出ないまま、朝を待った。
つづく




