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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第九章 フワンと、秘密の旋律

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第二話「王都から来た男」


それから数年が経った。


春のある日、村に知らない男が来た。

身なりが良かった。

村の誰とも違う歩き方をしていた。

アルブレヒトとも、マティアスとも、カイルとも、違う気配だった。

うまく言えなかったが、フワンはそう感じた。


男は、井戸端でフワンを見つけると、まっすぐに近づいてきた。

「お前が、フワンか」

フワンは何も答えなかった。

「探していた。長く」

「誰に頼まれて」

男はそれには答えなかった。

代わりに、こう言った。

「お前の家に伝わる歌を、知っているな」


フワンの中で、何かが冷たくなった。

「知らない」

「嘘をつくな。お前の村で、お前以外に誰が知っている」

「知らない」

フワンはもう一度言った。

声は震えていなかった。

震えてはいけない、と分かっていた。


男はしばらくフワンを見ていた。

それから、懐から何かを取り出そうとした。


その時、フワンは、足元にあったカボチャを拾い上げた。

今朝、畑から運んできたばかりの、まだ土のついたカボチャだった。


「これを持っていってください」

「……何の真似だ」

「うちの村の、名物です。お土産に」

男は、しばらくフワンを見た。

それから、カボチャを見た。

フワンは、目を逸らさなかった。


「お前——」

「持っていってください」

フワンは、カボチャを男の腕に押しつけた。

男は、反射的に受け取った。

両手が、塞がった。


「武器は持っていません」とフワンは言った。「ただのカボチャです。でも、両手で持つと、それなりに重いですよ」


男は、しばらく黙っていた。

それから、低く笑った。

「……お前、何歳だ」

「十六です」

「十六にしては、肝が据わっている」

「褒め言葉として受け取ります」


男は、カボチャを抱えたまま、村の入り口の方を見た。

それから、フワンを見た。


「今日のところは、帰る」

「またいらっしゃるんですか」

「分からん」

男は背を向けた。

歩き始めた。

カボチャを、まだ抱えたままだった。


フワンは、その背中が見えなくなるまで、見ていた。

それから、井戸の縁に座り込んだ。

膝が、少し震えていた。

震えていい場面は、もう終わっていた。


つづく



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