第二話「王都から来た男」
それから数年が経った。
春のある日、村に知らない男が来た。
身なりが良かった。
村の誰とも違う歩き方をしていた。
アルブレヒトとも、マティアスとも、カイルとも、違う気配だった。
うまく言えなかったが、フワンはそう感じた。
男は、井戸端でフワンを見つけると、まっすぐに近づいてきた。
「お前が、フワンか」
フワンは何も答えなかった。
「探していた。長く」
「誰に頼まれて」
男はそれには答えなかった。
代わりに、こう言った。
「お前の家に伝わる歌を、知っているな」
フワンの中で、何かが冷たくなった。
「知らない」
「嘘をつくな。お前の村で、お前以外に誰が知っている」
「知らない」
フワンはもう一度言った。
声は震えていなかった。
震えてはいけない、と分かっていた。
男はしばらくフワンを見ていた。
それから、懐から何かを取り出そうとした。
その時、フワンは、足元にあったカボチャを拾い上げた。
今朝、畑から運んできたばかりの、まだ土のついたカボチャだった。
「これを持っていってください」
「……何の真似だ」
「うちの村の、名物です。お土産に」
男は、しばらくフワンを見た。
それから、カボチャを見た。
フワンは、目を逸らさなかった。
「お前——」
「持っていってください」
フワンは、カボチャを男の腕に押しつけた。
男は、反射的に受け取った。
両手が、塞がった。
「武器は持っていません」とフワンは言った。「ただのカボチャです。でも、両手で持つと、それなりに重いですよ」
男は、しばらく黙っていた。
それから、低く笑った。
「……お前、何歳だ」
「十六です」
「十六にしては、肝が据わっている」
「褒め言葉として受け取ります」
男は、カボチャを抱えたまま、村の入り口の方を見た。
それから、フワンを見た。
「今日のところは、帰る」
「またいらっしゃるんですか」
「分からん」
男は背を向けた。
歩き始めた。
カボチャを、まだ抱えたままだった。
フワンは、その背中が見えなくなるまで、見ていた。
それから、井戸の縁に座り込んだ。
膝が、少し震えていた。
震えていい場面は、もう終わっていた。
つづく




