表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第六章 にやにやしているフワンと、カボチャの種

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/132

第四話「冬と、フワンが一人で抱えているもの」


冬になった。

雪が降った。

マティアスは今年も来た。


エルザは台所にいた。

フワンは縁側にいた。

ナギが、川の方を向いて縁側にいた。

いつも通りだった。


その夜、縁側に三人で出た。

お茶を飲んだ。

しばらく、誰も何も言わなかった。

音が吸い込まれていた。

静かだった。

それから、フワンが言った。

「マティアスさん」

「なんだ」

「重いものを持っている時、引き出しに入れるといいんですよね」

マティアスは少し間を置いた。

「そうかもしれない」

「引き出しに入れられないものは、どうしますか」

「ここに持ち歩く」

「ここというのは」

「持ち歩けば、いつか形になるかもしれない。形にならなくても、持ち歩ける」

フワンはしばらく雪を見ていた。

「そうですか」

「そうだ」

「持ち歩ける、ということが大事なんですか」

「そうかもしれない」

フワンは少し間を置いた。

それから、静かに言った。

「じゃあ、大丈夫です」

「何がだ」

「持ち歩けているので」

マティアスはフワンを見た。

フワンは雪を見ていた。

にやにやしていなかった。

ただ、静かな顔をしていた。

何かを抱えたまま、静かにしていた。

「フワン」

「なんですか」

「重いか」

フワンは少し間を置いた。

「……少し」

「そうか」

「でも持ち歩けています」

「そうか」

「マティアスさんが来てくれるから、持ち歩けています」

マティアスは返事をしなかった。

しなかったが、フワンの隣に、少し長く座っていた。

エルザは何も言わなかった。

ただ、お茶を飲んでいた。

三人で、雪の夜を見ていた。

誰も何も言わなかった。

それで十分だった。

春まで、まだ少しあった。

でも今年の冬は、去年の冬とは少し違う冬だった。

フワンが「持ち歩けている」と言った冬だった。

それだけのことが、今夜の縁側を、今まで一番温かい場所にしていた。

鎧は、今夜も着ていた。

ただ——今夜の隙間からは、雪の冷たさと、縁側の温かさが、両方通り抜けていた。

それで十分だった。


翌朝、引き出しを開けた。

フワンの手紙が入っていた。

カボチャを渡しました、それ以上は書きません、という手紙が。

カイルの手紙も入っていた。

深く掘るな、という手紙が。

それから、カボチャの種が一粒あった。

春にフワンが渡してくれた種が。

全部あった。

閉めた。

それから便箋を出した。

誰にも送らない手紙を書いた。


フワンが重いものを持ち歩いている。

カイルも、何かを知っていて、深く掘るなと言っている。

私には、まだ形が見えない。

ただ、フワンが「持ち歩けている」と言った。

それで十分だった。

来年の春、また行く。

その時に見えるものが、見えるかもしれない。

見えなくても、行く。

ずっとだ。


折って、入れた。

閉めた。

窓の外では、雪が降り続けていた。

静かだった。

春まで、まだ少しあった。


つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ