第三話「秋と、カボチャが十一個実った日」
秋になった。
約束通り、来た。
ルドルフが来た。
ハルトが来た。
今年は外から走ってきた。
春に来た時より、少し大きくなっていた。
「ああ」とマティアスは言った。
ハルトは尻尾を振った。
フワンは畑にいた。
カボチャを見ていた。
マティアスが近づくと、振り返った。
にやにやしていた。
今日のにやにやは、今まで見た中で一番本物だった。
「来てくれた」
「約束だ」
「見てください」
フワンが畑を示した。
マティアスは数えた。
「……十一個だ」
「十一個です」
「春に、十個以上と言っていたな」
「はい」
「一個多い」
「一個多いです」
フワンはにやにやしたまま、泣いていた。
にやにやしながら泣いていた。
「フワン」
「なんですか」
「泣いているのか」
「泣いています」
「なぜだ」
「嬉しいからです」
「カボチャが十一個実ったのが」
「それもですけど」
「なんだ」
「マティアスさんが来てくれたから、見てもらえたので」
マティアスは返事をしなかった。
フワンはにやにやしたまま泣いていた。
マティアスはフワンの頭に手を置いた。
今日は少し長く置いた。
フワンは何も言わなかった。
ただ、にやにやしたまま泣いていた。
それで十分だった。
その夜、三人でシチューを食べた。
カボチャが入っていた。
今年のカボチャだった。
「旨いか」とフワンが聞いた。
「旨い」とマティアスは言った。
「今年のカボチャですよ」
「知っている」
「どうですか、去年と比べて」
「去年より旨い」
フワンがにやにやした。
「なぜだと思いますか」
マティアスは少し考えた。
「来ると約束していたから、実らせたんだろう」
フワンが止まった。
エルザが笑った。
「マティアス、それ良いこと言ったわよ」
「そうか」
フワンはしばらく黙っていた。
それから、目を拭いた。
「また泣いてるの」とエルザが言った。
「泣いてないです」
「目が光ってるわよ」
「カボチャの湯気です」
「カボチャの湯気は目に入らないわよ」
フワンがにやにやした。
マティアスはシチューを食べた。
旨かった。
来ると約束して来たから、旨かった。
来年も来ると思ったら、もっと旨かった。
縁側に出た後、フワンが来た。
エルザは先に休んでいた。
フワンとマティアスの二人になった。
川の音がした。
秋の夜が続いていた。
「マティアスさん」
「なんだ」
「ヴェルタという港町に、行ったことがありますよね」
マティアスは少し止まった。
「そうだ」
「どんな町でしたか」
「騒がしかった」
「海は」
「悪くなかった」
「人は」
「良い人間がいた」
フワンはしばらく川を見ていた。
「そうですか」
それだけ言った。
それ以上は聞かなかった。
マティアスも、それ以上は言わなかった。
しばらくして、フワンが小さく、何かを口ずさんだ。
名前のない歌だった。
低くて、静かな歌だった。
マティアスは、その歌を聞いた。
知っていた。
防波堤で聞いた歌だった。
でも今夜は、それだけではない何かが混じっていた。
歌が終わった。
縁側が静かになった。
川の音だけが残った。
「フワン」
「なんですか」
「良い歌だ」
フワンは少し間を置いた。
「ありがとうございます」
「どこで覚えた」
「……ずっと前から、知っていました」
それだけ言った。
それ以上は言わなかった。
マティアスも、それ以上は聞かなかった。
聞かなかったが——
何かが、今夜、少し動いた気がした。
何が動いたのか、まだ分からなかった。
ただ、動いた。
秋の夜が続いていた。
川が、名前もなく、流れ続けていた。
つづく




