第一話「夏と、封蝋のないフワンの手紙」
夏になった。
春の賑やかさが、少し遠くなっていた。
カイルとアンナとカイルの父は、帰っていた。
マティアスも本部に戻っていた。
エルザへの手紙を書いた。返事が来た。
いつも通りだった。
それで十分だった。
フワンから手紙が来たのは、夏の初めだった。
封蝋がなかった。
急いで封をしたらしかった。
マティアスは開けた。
マティアスさんへ
一つだけ話します。
春に、村に知らない人が来ました。
エルザには言っていません。
王都から来た人だということは分かりました。
私が追い返しました。
フワン
追伸 エルザには読ませないでください。
マティアスは手紙を読んだ。
もう一度読んだ。
「私が追い返しました」という一行のところで、長く止まった。
フワンが追い返した。
どうやって。
マティアスはしばらく手紙を見ていた。
それから便箋を出した。
フワンへ
手紙を読んだ。
エルザには見せていない。
一つだけ聞く。
どうやって追い返した。
それから——お前は今、安全か。
マティアス
封をした。
行商人に渡した。
それからカイルへの手紙を書いた。
カイル
フワンから手紙が来た。
春に、村に王都から来た人間が現れたとのこと。
フワンが追い返したとのこと。
知っているか。
マティアス
封をした。
引き出しを開けた。
フワンの手紙を入れた。
閉めた。
窓の外では、夏の空が広がっていた。
雲が多かった。
夕日が、複雑な色になりそうだった。
エルザが好きな夕日だった。
マティアスはしばらくその空を見た。
フワンが追い返した。
そのことが、今夜もここにあった。
引き出しに入れなかったが、ここにあった。
それで十分かどうか、まだ分からなかった。
つづく




