第六話「カイルの父の手紙と、枯れた花の続き」
秋になった。
カイルの父から、手紙が来た。
初めてだった。
カイルからではなく、カイルの父から直接来た。
封蝋は、花だった。
小さくて、白い花が押してあった。
名前を知らない花だった。
マティアスくんへ
春に会ってもらった。
ありがとう。
あの後、カイルが言っていた。庭の花と、ヴァイス村の花が同じだと、お前が教えてくれたと。
それで、庭の花から、種を取ってみた。
枯れた花の中に、種が残っていた。
土に入れてみた。
来春、咲くかどうか分からない。
でも、入れた。
報告したかった。
カイルの父より
追伸 カイルから、求婚の話を聞いた。アンナという人とのことだ。良い話だった。
マティアスは手紙を読んだ。
「枯れた花の中に、種が残っていた」という一行のところで、少し止まった。
枯れていても、種は残っていた。
便箋を出した。
カイルの父上へ
手紙を読みました。
種を入れたとのこと。
来春、咲くかどうか、教えてください。
咲いたら、ヴァイス村の花と、また同じかどうか確かめましょう。
お会いできて良かったです。
マティアス
追伸 求婚の話、私のところにも来ました。良い報告でした。
封をした。
それからカイルへの手紙を書いた。
カイル
お父上から手紙が来た。
庭の花の種を、土に入れたとのこと。
良かった。
来年もまた、お父上に会いたい。
お前とアンナが来る時、一緒に来られるか聞いてくれ。
マティアス
封をした。
行商人に渡した。
引き出しを開けた。
カイルの父の手紙を入れた。
それから、一番奥を見た。
最初に書いた手紙があった。
食料を渡すのを忘れた、と書いた手紙。
夕日が好きか嫌いか聞けばよかった、と書いた手紙。
それだけの、二行の手紙だった。
マティアスはそれを、しばらく見た。
それから、また閉めた。
その日の午後、フワンが来た。
畑から戻ってきたところだった。
「マティアスさん」
「なんだ」
「種、見ましたか」
「見ていない」
「畑の二粒、芽が出てから大きくなってます」
二人で畑に行った。
春に並んで出た芽が、今は二本のつるになっていた。
それぞれに、小さな実がついていた。
「実ったか」
「まだ小さいです。秋にもう少し大きくなると思います」
マティアスはその実を見た。
二本のつるから、それぞれ実がついていた。
「並んでいるな」
「そうですね」
「春に芽が出た時も、並んでいた」
「並んでました」
フワンはしばらく実を見ていた。
それから、少し言葉を選ぶように言った。
「マティアスさん」
「なんだ」
「来年も来てくれますよね」
「ああ」
「再来年も」
「ああ」
「ずっと?」
マティアスは少し間を置いた。
「ずっとだ」
フワンがにやにやした。
「カイルさんと、アンナさんと、カイルさんのお父様も、来てくれますか」
「来るだろう」
「楽しみですね」
「そうだな」
窓の方から、エルザの声がした。
「フワン、シチューできたわよ」
「行きます!」
フワンが走った。
腕を大きく振って走った。
マティアスはその後ろ姿を見た。
それから、もう一度、畑の実を見た。
二本のつるに、それぞれ実がついていた。
小さかったが、確かにあった。
それで十分だった。
それだけで十分だった。
つづく




