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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第五章 春と、カイルの父と、庭に咲いていた花

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第五話「カイルの求婚と、隣を歩く理由」


夏になった。

カイルから手紙が来た。

鷹の封蝋だった。

今回の鷹は、少し誇らしげに飛んでいた。


マティアス

報告する。

アンナに、求婚した。

返事は「はい」だった。

報告する必要があるかどうか迷ったが、報告することにした。

理由は——お前が引き出しを持つようになった話を、アンナにしたことがあるからだ。

最初は何も入っていなかった男が、少しずつ手紙で満たしていった話を。

それを聞いたアンナが「素敵な話ですね」と言っていた。

だから報告した。

カイル

追伸 オッホン。


マティアスは手紙を読んだ。

もう一度読んだ。

「返事は『はい』だった」という一行のところで、少し止まった。

それから、口の端が上がった。

声は出なかった。

でも、確かに上がった。

便箋を出した。


カイル

報告、受け取った。

よかった。

アンナに伝えてくれ。引き出しを持つようになったのは、お前のおかげでもある、と。

マティアス

追伸 来年、ヴァイス村に来い。アンナも連れてこい。


封をした。

それから、もう一通取り出した。

エルザへの手紙だった。


エルザ

カイルから報告があった。

アンナに求婚した。返事は「はい」だったとのこと。

来年、また全員でヴァイス村に行く。

それだけ伝えたかった。

マティアス

追伸 今夜の夕日は、雲が多い。複雑な色になりそうだ。お前が好きな夕日だ。一人で見るのは、少し惜しい気がした。


封をした。

窓の外では、夕日が沈み始めていた。

橙色が、赤に変わった。

赤が、紫に変わった。

紫が、青に混じった。

複雑な色だった。

変わり続けていた。

マティアスはしばらく、その夕日を見ていた。

一人で見ていたが、一人という感じがしなかった。

引き出しの中に、手紙があったから。

それで十分だった。


その夜遅く、マティアスは誰にも送らない手紙を書いた。

一行だけだった。


カイルにも、引き出しができた。


折って、引き出しに入れた。

エルザの紙の、すぐ下に入れた。

閉めた。

窓の外では、夏の夜が続いていた。


返事は二週間後だった。

エルザからだった。

封蝋の犬が、今回は二匹並んでいた。


マティアス

カイルさんが求婚したのね。

良かったわね。

ねえ、マティアス。

一つ聞いていい?

カイルさんって、アンナさんの隣を、どうして歩きたいと思ったのかしらね。

またね。

エルザ


マティアスは手紙を読んだ。

「どうして歩きたいと思ったのかしらね」という一行を、しばらく見た。

答えは、すぐに出た。

出たが、言葉にするのに少し時間がかかった。

便箋を出した。


エルザ

カイルがなぜアンナの隣を歩きたいと思ったのか、分からない。

ただ、一つだけ言える。

カイルは、十五年間、私の隣を歩いてくれた。

理由を聞いたことはなかった。

今、初めて、理由を考えた。

たぶん、理由はなかったのだと思う。

歩きたいから歩いた。それだけだったのだと思う。

アンナも、たぶん同じだ。

マティアス

追伸 来年、全員でヴァイス村に行く。カイルとアンナも来る。


封をした。

行商人に渡した。

引き出しを開けた。

カイルの手紙を入れた。

閉めた。

窓の外では、夏の夜が深くなっていた。

虫の声がしていた。

来年、全員で丘の上に立つ。

それが、今から楽しみだった。

楽しみ、という言葉が、自然に出てきたことに、マティアスは少し驚いた。

驚いたが、今日は驚いたことに驚かないことにした。


つづく



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