第十二話「秋と、カボチャと、カイルが持ってきたもの」
秋になった。
カイルが来た。
今回は予告があった。
手紙に「秋に行く」と書いてあった。
それだけだったが、マティアスにとっては十分な予告だった。
カイルはマティアスより先にヴァイス村に着いていた。
マティアスが小川沿いの道を北へ進むと、村の入り口にルドルフがいた。
そしてルドルフの隣に、カイルがいた。
馬から下りて、ルドルフの頭を撫でていた。
「オッホン、また会ったな」と、ルドルフに向かって言っていた。
ルドルフは尻尾を振っていた。
マティアスが近づくと、カイルが振り返った。
「遅かったな」
「先に来すぎだ」
「二日前に着いた」
「二日も何をしていた」
「フワンの畑を手伝った」
マティアスは少し止まった。
「お前が畑を」
「できると思っていた」
「思っていただけだったか」
「そうはならなかった」とカイルは言った。「意外と得意だった」
マティアスは馬から下りた。
「それは意外だ」
「私も意外だった」
二人で村に向かって歩き始めた。
ルドルフがついてきた。
「カボチャは実ったか」とマティアスは言った。
「実った」
「何個だ」
「七個」
「七個」
「フワンが泣いた」
「泣いたのか」
「嬉しくて泣いた。去年の三個から七個になったから」
マティアスは少し考えた。
「カイルが手伝ったからではないのか」
「手伝ったのは昨日だけだ。七個は全部フワンの力だ」
「そうか」
「そう伝えたら、また泣いた」
マティアスはルドルフを見た。
ルドルフは尻尾を振り続けていた。
「フワンはよく泣くな」
「感情が豊かだ」とカイルは言った。「良いことだ」
「そうかもしれない」
「お前も昔より泣く理由が増えた」
マティアスは少し止まった。
「私は泣いていない」
「泣く理由が増えた、と言った。泣いたとは言っていない」
「同じことだ」
「違う」とカイルは言った。「泣く理由が増えることと、実際に泣くことは別だ。お前の場合は前者だ。それは良いことだ」
マティアスは返事をしなかった。
しなかったが——否定しなかった。
エルザは丘の上にいた。
秋になっても、白い花はもう散っていたが、丘の上にいた。
マティアスとカイルが登ってくるのを見て、笑った。
「二人一緒に来たのね」
「先に来ていた」とカイルは言った。
「知ってます」とエルザは言った。「二日間、フワンの畑を手伝ってくれたんですよね」
「そうだ」
「カボチャ、七個になりました」
「フワンの力だ」
エルザはカイルを見た。
それからマティアスを見た。
「カイルさんって、さりげないわね」
「さりげなくはない」とカイルは言った。「計算している」
「計算してさりげなくしてるの?」
「そうだ」
エルザが笑った。
マティアスも、ごく小さく、口の端を上げた。
三人で、秋の村を見下ろした。
収穫の終わった畑が見えた。
フワンが犬と走り回っているのが見えた。
小川が、秋の光を受けて光っていた。
「ねえ、カイルさん」とエルザが言った。
「なんだ」
「宿の話、マティアスから聞きました」
カイルが少し止まった。
「手紙を見せたのか」とカイルはマティアスに言った。
「見せた」
「なぜ」
「エルザが読んだ方がいいと思った」
カイルはしばらく黙った。
「その人物と、その後どうなったか」とエルザが聞いた。
カイルは少し間を置いた。
「手紙のやり取りをしている」
エルザが笑った。
「やっぱり」
「やっぱりとは何だ」
「マティアスと同じだと思って」
「どこが同じだ」
「引き出しができたじゃないですか」
カイルは少し黙った。
「……引き出しとは言っていない」
「でも手紙のやり取りをしているんでしょ」
「そうだが」
「引き出しよ」とエルザは言った。断言した。
カイルはしばらく丘の下を見ていた。
それから、静かに言った。
「そうかもしれない」
エルザが笑った。
マティアスも、ごく小さく、笑った。
カイルは二人を見た。
「笑うな」
「笑ってない」とマティアスは言った。
「口の端が上がっている」
「気のせいだ」
「お前がよく言う言葉だ」
「お前から学んだ」
カイルはしばらく黙った。
それから、また丘の下を見た。
「オッホン」
「何が言いたい」とエルザが言った。
「何も」とカイルは言った。
「また鳴いた」
「気のせいだ」
エルザが笑った。
夕食は四人だった。
フワンが最初にカボチャのことを話した。
「七個なんですよ」
「知っている」とマティアスは言った。
「カイルさんから聞きましたか」
「そうだ」
「来年は十個にします」
「十個か」とカイルは言った。「目標ではなく、実らせろ」
「実らせます」
「良い返事だ」
フワンがにやにやした。
カイルのシチューの食べ方を、フワンがこっそり観察していた。
カイルは気づいていたが、何も言わなかった。
エルザがそれを見て、小さく笑った。
マティアスはシチューを食べていた。
旨かった。
秋のシチューは、夏のものより少し濃かった。
野菜が違うからだろう、とマティアスは思った。
「旨いか」とエルザが聞いた。
「ああ」
「今まで食べた中で一番?」
「そうだ」
「毎回言うのね」
「毎回一番旨い」
エルザが笑った。
フワンがにやにやした。
カイルが「オッホン」と言った。
それから、静かに言った。
「エルザ」
「なんですか」
「料理が上手くなったな」
エルザは少し驚いた顔をした。
「カイルさんに言われると、本当な気がする」
「本当だ。私は食に関して嘘をつかない」
「知ってます」
カイルはシチューをもう一口食べた。
「それから」
「なんですか」
「マティアスが毎回一番旨いと言うのは、料理の話だけではないと思う」
エルザが止まった。
フワンが天井を見た。
マティアスはシチューを見た。
「……カイルさん」とエルザは言った。
「なんだ」
「それを言うのは反則よ」
「事実だ」
「反則な事実よ」
カイルは満足そうな顔をした。
マティアスは返事をしなかった。
シチューをもう一口食べた。
旨かった。
反論する言葉が、見つからなかった。
夜、カイルとマティアスが縁側に出た。
エルザとフワンは台所を片付けていた。
二人で、秋の夜空を見た。
夏より星が少なかった。でも、見えている星が、夏より大きく見えた。
「マティアス」
「なんだ」
「言えていない言葉は、まだあるか」
「ある」
「どのくらい」
「数えていない」
「今夜は言えそうか」
マティアスは少し考えた。
「分からない」
「エルザが待っている」
「知っている」
「待たせすぎるな」
「分かっている」
カイルは星を見た。
「お前が引き出しに手紙を入れ始めた頃、私は何も言わなかった」
「そうだな」
「羅針盤の話をした時も、最初から答えを言わなかった」
「そうだな」
「今夜も、答えは言わない」
「それは知っている」
「ただ」
「なんだ」
カイルは星を見たままだった。
「言えない言葉があとひとつだけになった時、それはもう言える言葉だ」
マティアスは少し間を置いた。
「どういう意味だ」
「最後の一つになった時、それ以上後回しにする理由がなくなる」とカイルは言った。「それだけだ」
マティアスはしばらく星を見た。
「あとひとつかどうか、自分では分からない」
「そうかもしれない」
「どうすれば分かる」
カイルは少し考えた。
「エルザに聞けばいい」
「エルザに聞くのか」
「言えていない言葉がいくつあるか、エルザは分かっているかもしれない」
「それは」
「違うか」
マティアスは黙った。
星が、秋の空に揺れていた。
「……違わないかもしれない」
カイルは「オッホン」と言った。
「何が言いたい」
「何も」
「また鳴いた」
「気のせいだ」
マティアスは少し間を置いた。
それから、立ち上がった。
台所の方へ向かった。
カイルは縁側に残った。
星を見ていた。
秋の夜が、静かに続いていた。
台所では、エルザが一人で片付けをしていた。
フワンはもう寝ていた。
マティアスが入ってくると、エルザが振り返った。
「カイルさんは?」
「縁側にいる」
「そうか」
エルザは食器を棚に戻していた。
マティアスは少し間を置いた。
「エルザ」
「なに」
「一つ聞いていいか」
エルザが振り返った。
マティアスを見た。
まっすぐに、見た。
「どうぞ」
「私が言えていない言葉が、いくつあるか——お前には分かるか」
エルザはしばらくマティアスを見た。
それから、静かに笑った。
声を出さない笑い方だった。
「分かるわよ」
「いくつだ」
「一つ」
マティアスは少し止まった。
「一つか」
「そうよ」
「何だか分かるか」
「分かる」
「言ってくれるか」
エルザは少し考えた。
「それはあなたが言うことよ」
「そうか」
「そうよ」
マティアスはしばらく台所の棚を見た。
整頓された棚だった。
食器が並んでいた。
いつも四人分になっていた。
「エルザ」
「なに」
「最後の一つになった時、それはもう言える言葉だと——カイルが言っていた」
エルザは何も言わなかった。
待っていた。
マティアスは台所の棚を見た。
それから、エルザを見た。
「結婚してくれ」
台所が静かになった。
食器の音も、虫の声も、全部遠くなった。
エルザはしばらく、マティアスを見ていた。
大きな目が、まっすぐにこちらを見ていた。
それから、ゆっくりと、笑った。
泣きながら笑った。
声を出して笑った。
泣きながら、声を出して、笑った。
「言えたじゃない」
「ああ」
「最後の一つね」
「そうだ」
「ずっと、それだったわよ」
「そうか」
「ずっと分かってた」
「そうか」
「だから待ってた」
マティアスは返事をしなかった。
しなかったが——台所を横切って、エルザの前まで歩いた。
止まった。
「返事を聞いていない」
エルザは泣きながら笑ったまま、言った。
「するわよ、決まってるじゃない」
「そうか」
「そうよ」
「……よかった」
エルザがまた笑った。
「またよかったって言った」
「よかったんだ」
「よかったわよ、私も」
縁側の方から、音がした。
咳払いの音だった。
「オッホン」
カイルだった。
「聞いていたのか」とマティアスが言った。
「聞こえてしまった」とカイルは言った。
「聞こえてしまったとは何だ」
「縁側に座っていたら、聞こえてしまった」
「縁側と台所は離れている」
「風向きが良かった」
マティアスはカイルを見た。
カイルは窓の外に立っていた。
澄ました顔をしていたが、その目が、珍しく潤んでいた。
エルザが笑った。
「カイルさん、泣いてる」
「泣いていない」
「目が光ってる」
「秋の夜露だ」
「室内に夜露は降らないわよ」
「オッホン」
カイルは窓の外を向いた。
星を見ていた。
マティアスはカイルを見た。
カイルの横顔が、秋の夜の光の中にあった。
「カイル」
「なんだ」
「ありがとう」
カイルは星を見たまま、答えた。
「どういたしまして」
今夜も、芝居がかったため息はなかった。
「オッホン」もなかった。
ただ、どういたしまして、と言った。
それが、十五年来のカイル・フォン・シュトラールの、本当の声だった。
秋の夜が続いていた。
星が、空に満ちていた。
白い花は散っていたが、来年の春にはまた咲く。
マティアスはそれを知っていた。
鎧は、今夜も着ていた。
ただ——今夜だけは。
重さを感じなかった。
最後の言葉が、言えた夜だった。
引き出しの中に、もう言えていない言葉はなかった。
全部、言えた。
全部、ここにあった。
それで十分だった。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
春になれば、また白い花が咲く。
名前を知らない花が、また咲く。
来年の春は、少し違う春になるだろう。
それが、どういう春になるか。
今はまだ、分からなかった。
でも——
夜明け前の空のように、まだ決まっていない時間が、そこにあった。
橙色になるか、灰色になるか、まだ分からない時間が。
何にでもなれる気がする時間が。
それを、今夜だけは、全部、許すことにした。
第二章 完




