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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Theater
第二章「古い友人は、だいたい最悪のタイミングで現れる」

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第十話「翌朝と、カイルの独り言と、帰り道の二人」


翌朝、目が覚めた時、天井が木だった。

節目のある、古い木の天井だった。

五度目に見る天井だった。

もう完全に、見慣れていた。

マティアスはしばらく天井を見ていた。

昨夜のことを、順番に思い出した。

エルザが先に言った。

自分が後から言えた。

カイルが戻ってきて、三回鳴いた。

それだけのことだった。

それだけのことが、今朝の天井を、昨日より少し違うものに見せていた。

気のせいかもしれなかった。

今日は、気のせいだと思わないことにした。


台所に行くと、またカイルがいた。

今朝は鍋の前には立っていなかった。

窓際に椅子を運んで、外を見ていた。

春の朝が来ていた。

白い花が、朝の光の中で揺れていた。

カイルはマティアスが入ってきた気配に気づいていたが、振り返らなかった。

マティアスも何も言わなかった。

鍋に水を入れた。火にかけた。

棚から茶葉を出した。

「昨夜は眠れたか」とマティアスは言った。

「よく眠れた」とカイルは言った。

「そうか」

「お前は」

「よく眠れた」

カイルは少し間を置いた。

「そうか」

それだけだった。

鍋が温まるまで、二人は黙っていた。

春の朝の音がした。

鳥が鳴いていた。

どこかで犬が動く音がした。

ルドルフかもしれなかった。

「マティアス」

「なんだ」

「昨夜、言えたか」

マティアスは少し間を置いた。

「言えた」

カイルは窓の外を見たままだった。

「そうか」

「エルザが先に言ってくれた」

「そうか」

「お前が今朝の話をしてくれたおかげかもしれない」

カイルはしばらく黙った。

それから、ごく小さく、息を吐いた。

「そうか」

「ありがとう」

カイルが少し止まった。

振り返った。

マティアスを見た。

マティアスは鍋の前に立ったまま、前を向いていた。

カイルはしばらくマティアスを見た。

それから、また窓の外に視線を戻した。

「どういたしまして」と、静かに言った。

それだけだった。

芝居がかったため息もなかった。

「オッホン」もなかった。

ただ、どういたしまして、と言った。

それが、十五年来のカイル・フォン・シュトラールの、本当の声だった。

お湯が沸いた。

マティアスはお茶を淹れた。

二人分。

カイルに渡した。

カイルは受け取った。

一口飲んだ。

「旨い」

「そうか」

「昨日より旨い」

「材料は同じだ」

「作る理由が変わると旨くなる、と昨日言った」

「お前が言った」

「お前が体現した」

マティアスは少し間を置いた。

「……そうかもしれない」

カイルは窓の外を見た。

白い花が揺れていた。

「名前を知らない花だな」

「そうだ」

「毎年咲く」

「そうだ」

「来年も咲くだろう」

「おそらく」

カイルはお茶を一口飲んだ。

「お前が来年も来る理由が、また一つ増えたな」

マティアスは返事をしなかった。

しなかったが——否定しなかった。

それが答えだった。


朝食は四人で食べた。

フワンが起きてきて、昨日の残りのシチューを温めた。

「マティアスさん、今日は何日いますか」

「あと三日だ」

「三日か」フワンは少し考えた。「短いですね」

「そうだな」

「前より短く感じます」

「なぜだ」

「前は三日あれば長いと思ってたけど、今は三日じゃ足りない気がするから」

マティアスは少し間を置いた。

「そうかもしれない」

フワンがにやにやした。

カイルが「オッホン」と言った。

エルザが笑った。

マティアスはシチューを食べた。

旨かった。


その日の午後、カイルが出発すると言った。

「今日か」とマティアスは言った。

「そうだ。お前たちの残り三日の邪魔はしない」

「邪魔ではない」

「するつもりはないが、しない方がいいだろう」

マティアスは返事をしなかった。

カイルは荷物をまとめた。

エルザが見送りに来た。フワンも来た。犬が何匹かついてきた。

カイルは馬に乗った。

「エルザ」

「なんですか」

「マティアスのことを、よろしく頼む」

「また言うんですね、それ」

「毎回言う」とカイルは言った。「毎回頼む」

エルザは笑った。

「分かりました。毎回引き受けます」

「フワン」

「はい」

「畑は来年、五つ以上実らせろ」

「目標にします」

「目標ではなく、実らせろ」

「……実らせます」

カイルは満足そうな顔をした。

それからマティアスを見た。

「マティアス」

「なんだ」

「言えなかった言葉が、まだあるだろう」

「そうだ」

「焦るな」

「焦っていない」

「ただ」

「なんだ」

カイルは少し間を置いた。

「遠回りしすぎるな」

マティアスは少し考えた。

「善処する」

「お前が善処すると言う時は——」

「今回はする」

カイルは口の端を上げた。

「そうか」

「ああ」

「では」とカイルは言った。「オッホン」

馬が歩き始めた。

「カイルさん」とエルザが言った。

カイルが振り返った。

「また来てください」

カイルはしばらくエルザを見た。

それから、少し笑った。

声を出さない笑い方だった。

「来る」と言った。

馬が進んだ。

足音が遠ざかった。

小川沿いの道を、南へ向かった。

しばらく行ったところで、カイルが一度だけ振り返った。

右手が、ほんの少しだけ、持ち上がった。

マティアスのやり方と、同じだった。

エルザが笑った。

フワンがにやにやした。

マティアスはそれを見ていた。

少し間を置いて、言った。

「あいつは昔からそうだ」

「何が」

「見ていないようで、全部見ている」

エルザは少し笑った。

「そうね」

「それから」

「なんだ」

「真似をする」

「カイルさんが?」

「私がよくやることを、さりげなく真似する。気づかないふりをして」

エルザはしばらく考えた。

「右手のこと?」

「そうだ」

「マティアスのやり方と同じだったわね」

「昔からそうだ。士官学校の時から」

エルザはその遠ざかる背中を見た。

もう小さくなっていた。

「なんか」とエルザは言った。

「なんだ」

「カイルさんって、孤独な人なのかな」

マティアスは少し間を置いた。

「そうかもしれない」

「でも、こうして来てくれるのね」

「そうだ」

「友達が少ないのかな」

「多くはないだろう」

「マティアスとは友達なの?」

マティアスはしばらく考えた。

「親友、という言葉が正確かどうか分からない。ただ、十五年間、ずっとそこにいる」

エルザは少し笑った。

「フワンにそれと同じことを言ったって、フワンが教えてくれた」

「そうだったな」

「変わらないのね、あなたって」

「そうかもしれない」

「それでいいわよ」とエルザは言った。

それから、マティアスの腕に、そっと手を添えた。

歩き始めた。

村の方へ向かって。

マティアスはその手を感じながら、歩いた。

フワンが後ろからついてきた。

犬が何匹かついてきた。

春の午後が、村全体を照らしていた。


残り三日は、静かだった。

特別なことは、何もなかった。

畑を見た。小川を歩いた。シチューを食べた。夕日を見た。

二日目の夜、エルザが言った。

「また来る、って言ってくれるわね」

「ああ」

「冬も?」

「そうだ」

「春も?」

「そうだ」

「夏は?」

マティアスは少し考えた。

「カイルが年に三度と言っていた」

「カイルさんの案を採用するの?」

「検討中だ」

エルザが笑った。

「検討、じゃなくて来てよ」

「善処する」

「善処するって言う時は——」

「今回はする」

エルザはしばらくマティアスを見た。

それから、笑った。

「約束ね」

「約束だ」


三日目の朝が来た。

最後の朝だった。

荷物はまとめてあった。

朝食を食べた。

四人分の食卓だったが、カイルがいない分、少し静かだった。

「静かですね」とフワンが言った。

「そうだな」

「カイルさんがいると賑やかですね、あの人」

「そうだな」

「オッホンって言うだけなのに、なんで賑やかになるんだろう」

「そういう人間だ」

フワンはしばらく考えた。

「マティアスさんは静かなのに、いると温かい感じがします」

マティアスは少し止まった。

「……そうか」

「そうですよ。カイルさんは賑やかで、マティアスさんは温かい。どっちもいると、ちょうどいい」

エルザが笑った。

マティアスは返事をしなかった。

しなかったが——シチューをもう一口食べた。

旨かった。


出発の時、フワンが見送りに来た。

犬が全員来た。

ルドルフが足に頭を押しつけた。

マティアスは撫でた。

「またな」

ルドルフは尻尾を振った。

フワンが言った。

「マティアスさん」

「なんだ」

「夏、来てくれますよね」

「……善処する」

「来るってことですね」

「そういうことになるかもしれない」

フワンがにやにやした。

マティアスは馬に乗った。

エルザが見上げていた。

春の光の中で、栗色の髪が揺れていた。

「マティアス」

七度目だった。

呼ばれるたびに、隙間から何かが入ってきた。

今日は、入ってくるものではなく、満ちているものがあった。

昨夜言えた言葉が、まだそこにあった。

「ああ」

「またね」

「ああ」

「夏、来るのね」

「……ああ」

エルザが笑った。

今度は泣いていなかった。

ただ、笑っていた。

それが去年と違うところだった。

去年は泣きながら笑っていた。

今年は、ただ笑っていた。

マティアスはその笑い方を、少しの間、見ていた。

それから馬を向けた。

歩き始めた。

小川沿いの道を、南へ向かった。

しばらく行ったところで、振り返った。

振り返った。

今年は、振り返った。

エルザが手を振っていた。

フワンが犬と走り回っていた。

村が、春の光の中にあった。

白い花が、風に揺れていた。

マティアスは右手を上げた。

去年より、少し高く上げた。

それだけだったが。

それが今年の答えだった。

馬を進めた。

帰り道に入った。

春の風が来た。

白い花の香りが、どこかから漂ってきた。

鎧は、今日も着ていた。

ただ——今年の帰り道は、昨年の帰り道と、少し違った。

振り返れた。

手が、もう少し高く上がった。

言えなかった言葉が、一つ言えた。

引き出しには、まだ言葉があった。

でも焦らなくていい。

夏に言えばいい。

夏に来ると、言ってしまったから。

善処する、と言ったが、今回はする。

それは確かなことだった。

春の道を、一人で行った。

でも、今年だけは、一人という感じがしなかった。

後ろに、何かが続いている気がした。

名前を知らない花の香りが、ずっとついてきた。

村からここまで、ずっとついてきた。

悪くなかった。

つづく


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