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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Theater
第二章 古い友人は、だいたい最悪のタイミングで現れる

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第八話「カイルの話と、鎧を持たない男の話」


翌朝、目が覚めた時、天井が木だった。

節目のある、古い木の天井だった。

四度目に見る天井だった。

もう、見慣れていた。

マティアスはしばらく天井を見ていた。

隣の部屋から、音がした。

台所で誰かが動いている音だった。

エルザではなかった。

足音が違った。

もう少し重い。

マティアスは起き上がった。


台所にいたのはカイルだった。

鍋の前に立っていた。

軍服ではなく、外套を羽織ったままだった。

鍋の中を、少し困った顔でかき混ぜていた。

マティアスは戸口に立った。

「何をしている」

カイルが振り返った。

少し驚いた顔をした。珍しかった。

「……朝食を作ろうとしている」

「作れるのか」

「作れると思っていたが」

「思っていたが、何だ」

「思っていただけだった」

マティアスは鍋を覗いた。

何かが煮えていた。何かは分からなかった。

「何を作ろうとした」

「スープだ」

「スープに見えない」

「見えないが、スープのつもりだ」

マティアスは少し考えた。

それから、カイルの隣に立った。

鍋を引き取った。

「座っていろ」

「お前が作れるのか」

「お前よりはできる」

カイルは少し間を置いた。

それから椅子に座った。

足を組んだ。袖を直した。舞台の上の俳優のように様になっていたが、今朝だけは少し、それが崩れていた。

マティアスは鍋の中を確認した。

野菜が入っていた。水が多すぎた。塩が足りなかった。

「いつから台所にいた」

「夜明け前から」

「眠れなかったのか」

カイルは少し間を置いた。

「そうかもしれない」

マティアスは鍋をかき混ぜながら、カイルを見た。

カイルは窓の外を見ていた。

春の朝が来ていた。

白い花が、朝の光の中で揺れていた。

「カイル」

「なんだ」

「お前は眠れない時があるのか」

「人間だからな」

「そういう意味ではない」

カイルは少し黙った。

窓の外を見たままだった。

「たまにある」

「何かあった時か」

「そうだな」

「昨夜は何かあったか」

カイルはしばらく答えなかった。

鍋が、静かに煮えていた。

「……懐かしかった」と、カイルは言った。

「何がだ」

「昨夜の食卓が」

マティアスは鍋をかき混ぜ続けた。

「懐かしいとは、どういう意味だ」

カイルは少し考えた。

「私の家は、子供の頃から食卓が静かだった。フォン・シュトラール家というのは、そういう家だった。格式があって、作法があって、誰も余計なことを喋らない食卓だった」

「そうか」

「嫌いではなかった。それが当たり前だったから」

「だが」

「昨夜は違った」とカイルは言った。「犬がうろうろして、フワンがにやにやして、エルザが笑って、お前がシチューを食べていた。それだけのことが、妙に」

カイルは少し止まった。

「……妙に、温かかった」

マティアスは返事をしなかった。

しなかったが、スープに塩を足した。

少し考えて、もう少し足した。

「カイル」

「なんだ」

「お前にはいないのか」

「何が」

「引き出しに手紙を送る相手が」

カイルは少し間を置いた。

それから、短く笑った。

声を出さない笑い方だった。

「いない」

「そうか」

「今のところは、だ」

「今のところ、とはどういう意味だ」

「将来のことは分からないという意味だ」

マティアスはスープをかき混ぜながら、少し考えた。

「お前のような男に手紙を送る人間が現れたとしたら、相当な胆力の持ち主だ」

カイルが少し止まった。

「……それは褒めているのか」

「事実だ」

「事実として褒めているのか、事実として貶しているのか」

「どちらとも取れる」

カイルはしばらく黙った。

それから、また声を出さない笑い方で笑った。

「お前、少し意地が悪くなったな」

「そうかもしれない」

「誰かの影響か」

「さあ」

「エルザの影響だろう」

「さあ」

カイルはまた笑った。

今度は少し声が出た。

マティアスは、それを聞きながら、スープに野菜を足した。


エルザが起きてきたのは、それから少し後だった。

台所を見た。

マティアスが鍋の前にいた。

カイルが椅子に座っていた。

「……何があったの」

「カイルがスープを作ろうとしていた」とマティアスは言った。

「作れなかった」とカイルは言った。

エルザはしばらく二人を見た。

それから、くすっと笑った。

「カイルさん、料理できないの?」

「できると思っていた」

「思っていただけだったのね」

「そういうことになる」

エルザはマティアスの隣に来た。鍋を覗いた。

「これ、マティアスが作ったの?」

「そうだ」

「作れるのね」

「カイルよりは」

「それは基準が低すぎるわよ」

カイルが「オッホン」と言った。

エルザが笑った。

マティアスは、ごく小さく、口の端を上げた。


フワンが起きてきて、四人で朝食を食べた。

スープは旨かった。

「マティアスさん、料理できるんですね」とフワンが言った。

「少しだけだ」

「どこで覚えたんですか」

「一人でいることが多かったからだ」

フワンは少し考えた。

「一人の時間が長かったんですね」

「そうだな」

「今は?」

マティアスは少し間を置いた。

「今は、そうでもない」

フワンがにやにやした。

カイルが「オッホン」と言った。

エルザが笑った。

フワンがまたにやにやした。

マティアスは返事をしなかった。

しなかったが、スープをもう一口飲んだ。

旨かった。


午前中、カイルとマティアスで村を歩いた。

エルザとフワンは畑の準備があると言って、別の方向へ行った。

二人だけで歩くのは、三日間の旅道以来だった。

小川沿いを歩いた。

水が春の光を受けて、きらきらと光っていた。

「マティアス」

「なんだ」

「一つ聞いていいか」

「何だ」

「エルザに、まだ言えていない言葉があると言っていたな」

「そうだ」

「何年分あるんだ」

マティアスは少し考えた。

「数えていない」

「一つだけ教えろ」

「なぜ」

「友人として聞きたい」

マティアスはしばらく黙った。

小川の水が、光を受けて揺れていた。

「……一緒にいたい、という言葉が、まだ言えていない」

カイルは何も言わなかった。

少し歩いた。

小川が、また光った。

「それだけか」とカイルは言った。

「それだけではない。ただ、一番言いたくて、一番言えていないものが、それだ」

「なぜ言えない」

「言ったら——」

マティアスは少し止まった。

「言ったら、どうなるか分からないからだ」

「何がどうなると思っている」

「分からない。ただ、言葉にした瞬間に、何かが変わる気がする」

「変わることが怖いのか」

「怖い、という言葉が正確かどうか分からない。ただ」

「ただ?」

マティアスはしばらく黙った。

「変わった後の世界が、今より良いものかどうか、確信が持てない」

カイルは小川を見た。

水が流れていた。

「マティアス」

「なんだ」

「お前は士官学校の時、羅針盤を逆に読んで三時間歩いた」

「それを今言うか」

「聞け」

マティアスは黙った。

「その後、正しい方向に歩き直した。遅くなったが、着いた」

「そうだな」

「今も同じだ」とカイルは言った。「言葉にした後の世界が今より良いかどうか、確信が持てないのは当然だ。行ったことがない場所に確信は持てない」

「そうだな」

「ただ」

「ただ?」

カイルは小川から目を離して、マティアスを見た。

「お前が今いる場所は、三年前のお前がいた場所より、良い場所だろう」

マティアスは返事をしなかった。

「引き出しに手紙があって、冬に雪道を三日半かけてきて、四人で食卓を囲んで、スープを作れるようになった」

「スープは元々作れた」

「昨日より旨かった」

「それは」

「材料が同じでも、作る理由が変わると旨くなることがある」とカイルは言った。「私の見解だ」

マティアスはしばらく黙った。

小川の水が、流れ続けていた。

「……そうかもしれない」

「そういうことだ」

カイルは歩き始めた。

マティアスも歩いた。

二人で、春の小川沿いを歩いた。

しばらく、黙って歩いた。

「カイル」

「なんだ」

「今朝の話だが」

「台所の話か」

「そうだ。お前も、いつか、食卓が賑やかになるかもしれない」

カイルは少し間を置いた。

「そうかもしれない」

「その時は教えろ」

「何のために」

「隣を歩く」

カイルが止まった。

マティアスも止まった。

二人で、小川を見た。

水が流れていた。

春の光が、水面に踊っていた。

「……お前も意地が悪くなったが」とカイルは言った。

「そうかもしれない」

「それから」

「なんだ」

「羅針盤の話を使うのが上手くなった」

「お前が使うから覚えた」

カイルはしばらく黙った。

それから、声を出さない笑い方で笑った。

今日は少し、長く笑った。

マティアスも、ごく小さく、口の端を上げた。

春の風が来た。

白い花の香りが、二人を包んだ。

名前を知らない花の香りが。

鎧は、今日も着ていた。

ただ——今日の隙間からは、春の風が通り抜けていた。

温かかった。

そして、少し先に、言いたい言葉があった。

まだ言えていない言葉が。

でも、今日はそれでいい。

言える日が、来る。

カイルが隣にいた。

それだけで、今日は十分だった。

つづく


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