第五話「冬と、カイルの訪問と、引き出しの地図が二枚になった日」
冬になった。
雪が降った。
マティアスの引き出しには、手紙が増え続けていた。エルザから、フワンから、カイルから。三方向から手紙が来る生活というのは、マティアスにとって前例のないことだった。
実務的に言えば、返事を書く量が三倍になった。
実務的ではない言い方をすれば——引き出しを開けるのが、前より少し楽しみになっていた。
そのことは、誰にも言わなかった。
カイルには特に言わなかった。言ったら何かに使われる。十五年で学んでいた。
十二月の初め、カイルが来た。
予告なしだった。
マティアスが報告書を書いていると、ドアが叩かれた。
「入れ」
カイルだった。
今回は軍服ではなかった。上質な外套を着ていた。旅装だった。頬に旅の疲れが出ていたが、背筋は一分も乱れていなかった。
「オッホン」
「また来たのか」
「また来た」
カイルは椅子を引いて座った。今回は少し、疲れた座り方だった。
マティアスはカイルを見た。
「ヴァイス村に寄ってきたのか」
「そうだ」
「何日いた」
「三日」
「何があった」
カイルは少し間を置いた。外套の埃を払った。
「特に何もなかった」
「それだけのために三日いたのか」
「そういうことになる」
マティアスはカイルを見た。
カイルは窓の外を見ていた。雪が降っていた。
「エルザは元気か」
「元気だ。よく食べていた」
「フワンは」
「かぼちゃを三つ収穫したことを、まだ誇りに思っていた。来年は五つにすると言っていた」
「犬は」
「全員元気だった。ミミが少し痩せていた」
「そうか」
「ルドルフが私の足元に来た。また来たのかという顔をしていた」
「犬にそういう顔ができるのか」
「できる」とカイルは断言した。「あの犬はそういう犬だ」
マティアスは少し間を置いた。
「何かあったか」
「何もなかったと言った」
「お前が三日いて何もないことはない」
カイルはしばらく黙った。
それから、外套の内側から何かを取り出した。
小さな包みだった。
机の上に置いた。
「エルザから預かった」
マティアスは包みを見た。
「何だ」
「開けろ」
開けた。
中に入っていたのは、小さな陶器の器だった。蓋がついていた。
開けると——シチューだった。
冷めていた。三日かけて運んだのだから当然だった。
小さな紙が添えてあった。
一言だけ書いてあった。
カイルさんに頼んだ。冷めててごめん。
マティアスはしばらく陶器の器を見た。
カイルが言った。
「冷めている」
「分かっている」
「温め直すか」
「このままでいい」
カイルはマティアスを見た。
マティアスは蓋を閉めた。引き出しを開けた。そっと入れた。
カイルがまた言った。
「引き出しにしまうのか」
「ああ」
「食べないのか」
「後で食べる」
「冷めたままで食べるのか」
「冷めていても旨い」
カイルはしばらくマティアスを見た。
それから、静かに言った。
「そうか」
それだけだった。
珍しく、それだけだった。
その夜、カイルは本部に泊まった。
夕食の後、二人で窓の外の雪を見ていた。
「マティアス」
「なんだ」
「お前、来年の春まで待てるか」
マティアスは少し間を置いた。
「待てる」
「本当か」
「待てると言った」
「お前の顔は待てると言っていない」
「余計なことを言うな」
カイルは少し笑った。声を出さない笑い方だった。
「お前が引き出しに手紙をしまうようになって、シチューまで引き出しにしまうようになった」
「だから何だ」
「だから何でもない」とカイルは言った。「ただ、良かったと思っている」
マティアスは返事をしなかった。
窓の外で、雪が降り続けていた。
「カイル」
「なんだ」
「お前はなぜそこまでする」
カイルは少し考えた。
「お前が士官学校三年目の冬、羅針盤を逆に読んで三時間歩き続けた時、私は隣にいた」
「知っている」
「その時思った。この男は、一人では正しい方向に歩けない時がある、と」
「それは侮辱か」
「事実だ」とカイルは言った。「そしてその時また思った。ならば私が隣にいればいい、と」
マティアスはカイルを見た。
カイルは窓の外を見ていた。雪の中に、自分だけに見えるものを見ているような目だった。
「お前が正しい方向に歩いている時は、私は何もしなくていい。ただ、迷った時に隣にいる。それだけだ」
「……そうか」
「今のお前は、正しい方向に歩いている」
マティアスは返事をしなかった。
しなかったが——
「ありがとう」と言った。
カイルが少し止まった。
それから、「オッホン」と言った。
「今のは何だ」
「照れた」とカイルは言った。
マティアスは少し笑った。声を出さない笑い方だった。
翌朝、カイルは出発した。
見送りながら、マティアスは言った。
「次に来る時は予告しろ」
「善処する」
「お前が善処すると言う時は、しない時だ」
「十五年で学んだか」
「そうだ」
カイルは馬に乗った。振り返った。
「春になったら行け。早めに行け」
「分かっている」
「エルザに、冬の村を見せてもらえと伝えておいた」
マティアスは少し止まった。
「何をしてきたんだ、お前は」
「友人の幸福を確認してきた」とカイルは言った。「それだけだ」
馬が歩き始めた。
「オッホン。では」
足音が遠ざかった。
雪の中に、蹄の跡が残った。
マティアスはしばらくその跡を見ていた。
それから部屋に戻った。
引き出しを開けた。
陶器の器があった。
取り出した。
温め直した。
食べた。
旨かった。
冷めていた時より、温かい方が旨かった。
それでも、冷めたままでも旨かったことは、変わらなかった。
その日の夜、マティアスは二通手紙を書いた。
一通はエルザへ。
エルザ
シチューが届いた。
カイルが三日かけて運んでくれた。
冷めていたが、旨かった。温め直した後も、旨かった。
冬の村を見たいと思っている。
春まで待てるかどうか、正直なところ自信がない。
マティアス
もう一通はカイルへ。
カイル
三日かけて運んでくれたことを、礼を言う。
お前が隣を歩いてくれていることを、今頃になって言葉にできた気がする。
遅くなった。
マティアス
追伸 春になったら行く。早めに行く。
二通書き終えた。
封をした。
引き出しを開けた。
地図が一枚あった。
東街道から外れて、小川沿いに北へ二里。
それとは別に、もう一枚便箋を取り出した。
冬の村への道を、カイルから聞いた別ルートで書いた。
雪道用の迂回路だった。
引き出しに入れた。
地図が二枚になった。
閉めた。
窓の外では、雪が降り続けていた。
春まで、まだ遠かった。
遠かったが——今年の冬は、引き出しが重かった。
シチューの器も、地図二枚も、手紙の束も、全部入っていた。
重かった。
悪くなかった。
鎧の隙間から、冬の冷たい空気が入ってきた。
それでも、隙間は閉じなかった。
閉じる理由が、なかった。
つづく




