第四話「カイルから聞いた話と、昔の鎧」
返事が来たのは、二週間後だった。
カイルからだった。
鷹の封蝋。今回の鷹は、羽根の一本一本まで描いてあった。どんどん上手くなっていた。
マティアスは開けた。
マティアス
何を話したか教えろ、とのことだった。
教えよう。
士官学校三年目の冬、お前が演習で盛大に道に迷った話をした。羅針盤を逆に読んで、目的地と正反対の方向に三時間歩き続けたあの話だ。フワンという少年は腹を抱えて笑っていた。良い反応だった。
他には、お前が卒業式の前夜に磨きすぎた軍靴が眩しすぎて翌朝教官に「目が痛い」と言われた話をした。
それから——一つだけ、真面目な話もした。
お前が昔から、誰かに頼ることを苦手としていたこと。全部一人で完結させようとする癖があること。それが鎧になっていたこと。
それを話したのは、エルザという人物に知っておいてほしかったからだ。
怒るなら怒れ。
オッホン。
カイル
追伸 お前が「検討する」と書いた時は、だいたいやる気がある時だ。十五年で学んだ。
マティアスは手紙を読み終えた。
羅針盤の話のところで、少し間を置いた。
磨きすぎた軍靴の話のところで、また間を置いた。
それから、ごく小さく、静かに、ため息をついた。
怒る気にはなれなかった。
カイルが嘘をついたわけではなかった。全部、事実だった。
それが腹立たしかった。
便箋を取り出した。
カイル
怒らない。
ただし、羅針盤の話は余計だった。
軍靴の話も余計だった。
真面目な話については——お前の判断を、今回だけは認める。
マティアス
追伸 「検討する」がどういう意味か、お前に教えた覚えはない。
封をした。
それから少し考えた。
もう一通、便箋を取り出した。
エルザ
カイルから聞いたかもしれないが、改めて自分で話す。
士官学校三年目の冬、私は演習で道に迷った。羅針盤を逆に読んだ。三時間、正反対の方向を歩いた。気づいたのは、日が暮れてからだった。
その時カイルは、何も言わずに隣を歩いていた。
「お前も気づいていたのか」と後から聞いたら、「最初から気づいていた」と言った。
「なぜ言わなかった」と聞いたら、「お前が自分で気づく必要があると思ったからだ」と言った。
それがカイル・フォン・シュトラールという男だ。
昔の私については——鎧しかなかった。隙間もなかった。今より、ずっと重かった。
それだけだ。
マティアス
書き終えた。
封をした。
窓の外は、秋の夕暮れだった。
雲が多かった。
複雑な色の夕日になりそうだった。
マティアスはしばらく、その空を見ていた。
エルザが好きな夕日だった。
エルザからの返事は、十日後だった。
マティアス
羅針盤の話、聞いてた。フワンから。フワンはカイルさんから聞いてた。
でも、あなたが自分で話してくれてよかった。
カイルさんが三時間黙って隣を歩いてたって話、なんか胸に来た。そういう友人が一人いるって、すごいことだと思う。
ねえ、マティアス。
昔の鎧が重かったって書いてくれた。
今より隙間がなかったって。
聞いていい?
その鎧を、初めて重いと思ったのはいつ。
またね。
エルザ
マティアスは手紙を読み終えた。
「初めて重いと思ったのはいつ」という一文を、三回読んだ。
しばらく便箋を前にして、動かなかった。
答えは、すぐに出た。
出たが、言葉にするのに時間がかかった。
エルザ
初めて重いと思ったのは、牢屋の壁越しに笑い声が聞こえた時だ。
穴に落ちた話をしたら、お前が笑った。
その時、鎧が重いと思った。
正確には、鎧を着たまま笑い声を聞いていることが、初めて不便だと思った。
それ以上の説明は、まだうまくできない。
マティアス
書き終えた。
封をした。
引き出しを開けた。
入れた。
閉めた。
窓の外では、夜が来ていた。
雲の多い夜だった。星は見えなかった。
マティアスは少し考えた。
次に会えるのは、来年の春だった。
カイルの言う通り、年に三度は来るべきかもしれなかった。
そのことを、今夜だけは、認めることにした。
誰にも言わなかった。
言う相手が、今夜はここにいなかったから。
その夜、ヴァイス村では。
エルザが手紙を読んで、しばらく動かなかった。
「その鎧を、初めて重いと思ったのはいつ」と自分で聞いておきながら、返ってきた答えに、言葉を失っていた。
フワンが覗き込んだ。
「どうしたの」
「……なんでもない」
「顔が赤いよ」
「なんでもないって言った」
「手紙、マティアスさんから?」
「そうよ」
「何て書いてあったの」
エルザはしばらく黙った。
それから、手紙を胸に押しつけた。
「秘密」
フワンはにやにやした。
「男の話は男の話で、女の話は女の話ですね」
「黙りなさい」
「でも」
「黙れ」
フワンは黙った。
でも、にやにやは止まらなかった。
犬が一匹、エルザの足元に寄ってきた。
ルドルフだった。
エルザはルドルフの頭を撫でた。
「ルドルフ」と小さく言った。
ルドルフは尻尾を振った。
窓の外では、雲の多い夜が続いていた。
星は見えなかった。
でも、その向こうに、同じ夜空があることは、知っていた。
つづく




