第三話「血の繋がらない、二つの家族」
「それなら」とマティアスは言った。「エルザとイレーネの間には、血の繋がりがないということだ」
「そうなる」
「私の母とイレーネが、同一人物かどうかは、まだ分からない」
「分からない」とカイルは言った。「だが、もし同一人物だったとしても」
マティアスは、カイルを見た。
「お前とエルザは、血が繋がらない」とカイルは言った。「エルザは、そのイレーネの実の娘ではないのだから」
風が吹いた。
夕日が、少しずつ沈んでいった。
橙色が、赤に変わりつつあった。
マティアスは、しばらく、何も言わなかった。
それから、ごく小さく、息を吐いた。
安堵という言葉が、その息に、一番近かった。
「カイル」
「なんだ」
「エルザに、話すべきか。母親の話が、作り話だったと」
カイルは、少し考えた。
「難しい問いだ」とカイルは言った。「本当のことを知ることが、必ずしも、その人を救うとは限らない」
「そうか」
「エルザは、十九年間、いないはずの妹を探しながら、生きてきた」とカイルは言った。「その時間の全部が、無意味だったとは、私は思わない」
マティアスは、押し花を見た。
白くて、小さな花だった。
名前を知らない花だった。
「話す」とマティアスは言った。
「そうか」
「エルザには、知る権利がある。作り話でも、真実でも、それを決めるのは、エルザ自身だ」
カイルは、しばらくマティアスを見ていた。
それから、静かに笑った。
「それは、正しい判断だ」
「お前の許可を求めてはいない」
「求めていないことは、分かっている」とカイルは言った。「ただ、賛成しているだけだ」
夕日が、沈みきった。
星が、一つ、また一つと、出始めていた。
「オッホン」
「何が言いたい」
「何も」とカイルは言った。「今度こそ、本当に何も」
つづく




