第二話「ヴァイス村への道」
マティアスは、手紙を、しばらく見ていた。
「亡くなった、もう片方の子供」という一文を、二度読んだ。
「これは」とマティアスは言った。「エルザの村の話か」
カイルは、頷いた。
「東の村。双子。片方が連れ去られ、もう片方が亡くなった」
「エルザの母親が、五歳のエルザに語った話と、似ている」
「似ているのではない」とカイルは言った。「同じ話だ。ただし——語られた側から見た話と、外から見た話とでは、内容が違う」
マティアスは、しばらく黙っていた。
「つまり」
「つまり」とカイルは言った。「エルザの母イレーネが産んだ本当の双子は、二人とも、エルザが五歳になる前に、失われている」
「では、エルザは」
カイルは、手紙をもう一度指さした。
「拾われた子供だ」とカイルは言った。「イレーネの実の子ではない」
マティアスは、動かなかった。
窓の外で、夕方の風が吹いていた。
「なぜ、イレーネは、エルザに『妹がいた』と話したんだ」とマティアスは言った。
カイルは、少し考えた。
「本当のことを、そのまま話せなかったんだろう」とカイルは言った。「お前は拾われた子だ、実の親も、実の兄弟もいない、とは、五歳の子供には言えない」
「だから」
「だから、自分の失った双子の記憶を、エルザに重ねて語った。『あなたには、妹がいた』と。エルザに、一人ではないという何かを、持たせたかったんだろう」
マティアスは、窓の外を見た。
夕日が、複雑な色になり始めていた。
「エルザは、それを、ずっと本当のことだと思って、生きてきた」
「そうだ」
「妹を、探しながら」
「そうだ」
つづく




