125/132
第一話「グレーテの手紙」
カイルの父が亡くなったのは、それから半年後のことだった。
遺品の整理は、カイルが一人で行った。
書斎の、あの小箱の奥に、もう一枚、紙が入っていた。
今度は、父の字ではなかった。
古い、丸みのある字だった。
カイルは、それをマティアスに見せた。
「乳母のグレーテという女性を、覚えているか」
「覚えている」とマティアスは言った。「私を育てた人だ」
「彼女が、お前の伯爵に宛てて書いた手紙の写しが、父の手元にあった。なぜ父が持っていたのかは、分からない。ただ、内容が——」
カイルは、言葉を切った。
「読んだ方が早い」
マティアスは、手紙を受け取った。
読んだ。
伯爵様へ
お聞きいただきたいことがございます。
マティアス様の母君について、風の噂で耳にしたことがございます。
東の村で、女が一人、赤子を拾ったという話です。
その女は、以前、双子を持っていたが、片方は何者かに連れ去られ、もう片方も、その後、間もなく亡くなった、と申しておりました。
拾った赤子を、亡くなった方の子供の代わりとして育てている、とも。
真偽のほどは分かりません。
ただ、マティアス様の母君を探す上で、何かの手がかりになるかもしれず、お耳に入れておきます。
グレーテ
つづく




