第四話「引き出しの中の、もう一つの手紙」
三日後、カイルはマティアスの部屋を訪ねた。
ノックをした。
「入れ」
入った。
マティアスは、机で報告書を書いていた。
顔を上げた。
「珍しいな。手紙も出さずに来るとは」
カイルは、椅子に座らなかった。
立ったまま、しばらくマティアスを見ていた。
「どうした」とマティアスは言った。「オッホンも言わずに」
カイルは、懐から、押し花を出した。
机の上に置いた。
マティアスは、それを見た。
表情が、止まった。
「これは」
「ヴァイス村の花だ」とカイルは言った。「見れば分かるだろう」
「なぜお前が持っている」
「私の父の書斎にあった」
マティアスは、押し花を見たまま、動かなかった。
「話がある」とカイルは言った。「長い話だ」
「聞こう」
「その前に、一つ聞いていいか」
「なんだ」
「お前は、母親の話を、伯爵からどこまで聞いている」
マティアスは、少し間を置いた。
「楯の国の元・妃殿下だと聞いた。それ以上は、聞いていない」
「双子だった、とは」
マティアスは、動かなかった。
「……なんだと」
カイルは、椅子を引いた。
今度は、座った。
「長い話だ、と言った」
「聞く」
「オッホン、という前置きは、今日は省く」
「省け」
カイルは、話し始めた。
父の書斎で見つけた押し花のこと。
若い頃の父が、山中の一軒家で出会った、名乗らない女のこと。
二つの揺り籠のこと。
片方を、父が引き取ったこと。
マティアスは、最後まで、何も言わなかった。
話が終わった後も、しばらく、黙っていた。
窓の外で、夕方の風が吹いていた。
「つまり」とマティアスは、ようやく言った。「お前が」
「そうだ」
「私の——」
「双子の片割れだ、ということになる」とカイルは言った。「証拠はない。ただ、状況が、そう示している」
マティアスは、押し花を見た。
白くて、小さな花だった。
名前を知らない花だった。
ヴァイス村の花と、同じ花だった。
「なぜ、今まで黙っていた」
「知ったのが、三日前だ」とカイルは言った。「黙っていたわけではない」
マティアスは、しばらく、窓の外を見ていた。
それから、ごく小さく、口を開いた。
「……道理で」
「何がだ」
「お前が、士官学校の頃から、理由もなく私の隣を歩いていたことに」
カイルは、少し笑った。
「私も、同じことを、三日前に思った」
つづく




