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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第十五章 マティアスと、カイルと、カイルの父の独白

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三話「羅針盤の話」


カイルは、しばらく、その場に立っていた。

蝋燭の火が、揺れていた。

「士官学校で、初めて会った時」とカイルは言った。「なぜ、あいつの隣を歩きたいと思ったのか、自分でも分からなかった」

「それは」

「理由がなかった。ただ、隣を歩きたかった」

父は、静かに、カイルを見ていた。


「羅針盤を逆に読んで、三時間、正反対の方向を歩いた夜があった」とカイルは続けた。「私は、最初から気づいていた。だが、何も言わなかった」

「なぜだ」

「あいつが、自分で気づく必要があると思ったからだ、と、あの時は答えた」

カイルは、少し笑った。

自分でも、驚くような笑い方だった。


「今、同じ言葉を、あなたから聞くとは思わなかった」

父は、何も言わなかった。

「血が、繋がっていたのか」とカイルは言った。「だから、あの時、隣を歩きたいと思ったのか」

「分からない」と父は言った。「血の話をするには、私は、あまりに何も知らない。ただ——」

「ただ」

「お前が、あいつのために、ここまでする男に育ったことは、誇りに思っている。血が繋がっていようがいまいが、それは変わらない」


カイルは、窓の外を見た。

夜だった。

星が出ていた。

「マティアスは、知っているのか」

「知らないだろう」と父は言った。「伯爵は、母の身分までは話したかもしれない。だが、双子だったとまでは、話していないはずだ」

「なぜ分かる」

「話していれば、お前を見る目が変わっているはずだ」


カイルは、少し考えた。

確かに、マティアスの目は、いつも通りだった。

「話すべきか」

父は、しばらく黙っていた。

「それは、お前が決めることだ」

「あなたは、どう思う」

「私は、もう長くない」と父は静かに言った。「知っていることを、墓場まで持っていくつもりはなかった。だから、お前に話した。その先は——お前の判断だ」


カイルは、しばらく、星を見ていた。

それから、小さく、息を吐いた。

「オッホン」

父が、わずかに笑った。

「その癖は、母親からもらったものではないと思うが」

「違う」とカイルは言った。「これは、私が自分で見つけた癖だ」

「そうか」

「そうだ」


つづく


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