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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第十五章 マティアスと、カイルと、カイルの父の独白

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第二話「父の告白」


その夜、カイルは父の寝室に入った。

父は寝台に横たわっていた。

以前より、頬がこけていた。

「カイル」と父は言った。「めずらしいな、夜に来るとは」

「聞きたいことがある」

父は、少し目を細めた。

「何だ」

カイルは、懐から書き付けを出した。

父に見せた。

父は、それを見た。

長く、見た。


「……見つけたか」

「見つけた」

父は、しばらく天井を見ていた。

それから、静かに言った。

「お前は、私の実の子ではない」


部屋の中が、静かになった。

蝋燭の火が、小さく揺れていた。

「若い頃、私は王の使いだった」と父は続けた。「ある山中の一軒家で、一晩、世話になった。女が一人で暮らしていた。名乗らなかった」

「その女が」

「歌を歌っていた。名前のない歌だった。旋律だけの、静かな歌だった」

カイルは、何も言わなかった。

父は、しばらく目を閉じていた。


「夜中に、物音がした。覗くつもりはなかった。だが、見てしまった」

「揺り籠が二つ」

「そうだ」父は頷いた。「片方に、赤子が眠っていた。もう片方は——女が、抱き上げて、包みを作っていた。出ていくつもりのようだった」

「なぜ分かった」

「旅装をしていた。荷物をまとめていた。何かから、逃げているようだった」


「私は、女に聞いた。行くあてはあるのか、と。女は答えなかった。答えないことが、答えだった」

「それで」

「私は言った。子供を一人、連れていく余裕があるか、と。女は、しばらく黙っていた。それから、静かに泣いた」

父は、目を開けた。

カイルを、まっすぐに見た。


「私は、その赤子を引き取った。もう一人は、女が連れていった」

「……なぜ、そんなことを」

「理由は、今でもうまく言葉にできない」父は言った。「ただ、あの女が一人で二人を抱えて逃げるのは、無理だと分かった。それだけだ」

「女の名は」

父は、少し間を置いた。

「聞かなかった。聞けば、後で、探しに来るかもしれないと思った」


カイルは、しばらく黙っていた。

それから、聞いた。

「私は——その、もう一人の赤子と、どこかで会っているのか」

父は、カイルを見た。

長く、見た。

「お前が、自分で気づく必要があると思っていた」


カイルは、動かなかった。

動けなかった、という方が正確だったかもしれない。

「マティアスか」

父は、答えなかった。

答えないことが、答えだった。


つづく


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