第二話「父の告白」
その夜、カイルは父の寝室に入った。
父は寝台に横たわっていた。
以前より、頬がこけていた。
「カイル」と父は言った。「めずらしいな、夜に来るとは」
「聞きたいことがある」
父は、少し目を細めた。
「何だ」
カイルは、懐から書き付けを出した。
父に見せた。
父は、それを見た。
長く、見た。
「……見つけたか」
「見つけた」
父は、しばらく天井を見ていた。
それから、静かに言った。
「お前は、私の実の子ではない」
部屋の中が、静かになった。
蝋燭の火が、小さく揺れていた。
「若い頃、私は王の使いだった」と父は続けた。「ある山中の一軒家で、一晩、世話になった。女が一人で暮らしていた。名乗らなかった」
「その女が」
「歌を歌っていた。名前のない歌だった。旋律だけの、静かな歌だった」
カイルは、何も言わなかった。
父は、しばらく目を閉じていた。
「夜中に、物音がした。覗くつもりはなかった。だが、見てしまった」
「揺り籠が二つ」
「そうだ」父は頷いた。「片方に、赤子が眠っていた。もう片方は——女が、抱き上げて、包みを作っていた。出ていくつもりのようだった」
「なぜ分かった」
「旅装をしていた。荷物をまとめていた。何かから、逃げているようだった」
「私は、女に聞いた。行くあてはあるのか、と。女は答えなかった。答えないことが、答えだった」
「それで」
「私は言った。子供を一人、連れていく余裕があるか、と。女は、しばらく黙っていた。それから、静かに泣いた」
父は、目を開けた。
カイルを、まっすぐに見た。
「私は、その赤子を引き取った。もう一人は、女が連れていった」
「……なぜ、そんなことを」
「理由は、今でもうまく言葉にできない」父は言った。「ただ、あの女が一人で二人を抱えて逃げるのは、無理だと分かった。それだけだ」
「女の名は」
父は、少し間を置いた。
「聞かなかった。聞けば、後で、探しに来るかもしれないと思った」
カイルは、しばらく黙っていた。
それから、聞いた。
「私は——その、もう一人の赤子と、どこかで会っているのか」
父は、カイルを見た。
長く、見た。
「お前が、自分で気づく必要があると思っていた」
カイルは、動かなかった。
動けなかった、という方が正確だったかもしれない。
「マティアスか」
父は、答えなかった。
答えないことが、答えだった。
つづく




