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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第十五章 マティアスと、カイルと、カイルの父の独白

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第一話「鷹の封蝋と、古い記憶」


カイル・フォン・シュトラールは、父の書斎にいた。

父が体調を崩してから、書斎に入るのは久しぶりだった。

机の上を片付けていた時、引き出しの奥に、鍵のかかった小箱を見つけた。

鍵は、父の寝室の、机の裏に貼りつけてあった。

見つけたのは、偶然だった。

開けるかどうか、少し迷った。

迷った時間は、そう長くなかった。


中には、一枚の押し花と、古い書き付けがあった。

白くて、小さな花だった。

名前を、カイルは知っていた。

ヴァイス村に咲く花と、同じ花だった。

書き付けは、父の字だった。若い頃の字だった。今よりも角ばっていた。


「見なかったことにする、と誓った夜のことを、時々思い出す」

そう書いてあった。

続きがあった。


「二つの揺り籠があった。片方には赤子が眠っていた。もう片方は、空だった。いや——空ではなかった。私が、そこから連れ出した」


カイルは、しばらく、その紙を見ていた。

手が、止まっていた。

父の部屋の方から、咳の音がした。

カイルは書き付けを畳んだ。

懐に入れた。

書斎を出た。


つづく


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