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第一話「鷹の封蝋と、古い記憶」
カイル・フォン・シュトラールは、父の書斎にいた。
父が体調を崩してから、書斎に入るのは久しぶりだった。
机の上を片付けていた時、引き出しの奥に、鍵のかかった小箱を見つけた。
鍵は、父の寝室の、机の裏に貼りつけてあった。
見つけたのは、偶然だった。
開けるかどうか、少し迷った。
迷った時間は、そう長くなかった。
中には、一枚の押し花と、古い書き付けがあった。
白くて、小さな花だった。
名前を、カイルは知っていた。
ヴァイス村に咲く花と、同じ花だった。
書き付けは、父の字だった。若い頃の字だった。今よりも角ばっていた。
「見なかったことにする、と誓った夜のことを、時々思い出す」
そう書いてあった。
続きがあった。
「二つの揺り籠があった。片方には赤子が眠っていた。もう片方は、空だった。いや——空ではなかった。私が、そこから連れ出した」
カイルは、しばらく、その紙を見ていた。
手が、止まっていた。
父の部屋の方から、咳の音がした。
カイルは書き付けを畳んだ。
懐に入れた。
書斎を出た。
つづく




