第二話「即答する理由」
謁見の間は、思ったより質素だった。
椅子も、装飾も、最低限だった。
玉座に座っていたのは、まだ若い男だった。
灰色がかった髪。表情は、ほとんど動かなかった。
「礎の国より参りました、リゼット・ハウゼンと申します」
「ヴィルヘルムだ」
それだけだった。
肩書きを名乗らなかった。
リゼットは少し驚いた。
「……陛下、と、お呼びしてもよろしいでしょうか」
「好きに呼べ」
「では、陛下と」
王は、机の上の書類に目を落としたまま言った。
「検問の緩和について、提案があると聞いた」
「はい」
リゼットは書類を差し出した。
王は受け取って、目を通した。
速かった。
一枚ごとに、数秒しかかけなかった。
「これで全部か」
「はい」
「分かった。受理する」
リゼットは、一瞬、止まった。
「……お考えになる時間は、必要ないのですか」
「必要ない」
「理由を伺っても」
王は、ペンを止めた。
珍しく、間が空いた。
「迷っている時間が、長く続いた時期があった」とヴィルヘルムは言った。「迷っている間に、決まってしまうことがある、と知った」
「決まってしまう、とは」
「人が死ぬ。立場が動く。取り返しのつかないことが、迷っている間に、勝手に進む」
「それで」
「だから、決められることは、すぐに決める。迷う価値のあるものだけ、迷う」
リゼットは、その答えに、少し驚いた。
即答の速さの裏に、これほど具体的な理由を持つ人間を、リゼットは知らなかった。
似ているようで、違う即答だった。
「失礼ながら」とリゼットは言った。「以前、似たように即答する方を、存じておりました。その方は、もう決まっていることを確認しているだけだ、とおっしゃいました」
「私とは違うな」
「ええ」とリゼットは言った。「陛下の即答は、決まっていることの確認ではなく——」
「先に決めなければ、間に合わないものへの、対処だ」
「そうですね」
リゼットは、その違いを、丁寧に胸の中にしまった。
似ているように見えて、根が違う人間を、見誤らないようにする癖が、リゼットにはあった。
つづく




