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第一話「使者の務め」
馬車が国境を越えたのは、雪が解け始めた頃だった。
リゼット・ハウゼンは、窓の外を見ていた。
楯の国の景色は、礎の国とは少し違った。家々の屋根が、急な勾配を持っていた。雪が多い土地だと、聞いていた。
「ハウゼン殿」と、対面に座る文官が言った。「国王陛下への目通りは、明日の朝の予定です」
「分かりました」
「緊張なさいませんか」
「任務ですので」
リゼットは短く答えた。
緊張という言葉は、もう長いこと、自分のものではなかった。
楯の国の王城に着いたのは、夕方だった。
案内された部屋は、簡素だったが、整っていた。
窓から見える庭には、雪がまだ残っていた。雪の下に、何かの芽が、わずかに頭を出していた。
その夜、リゼットは書類に目を通した。
今回の使者の務めは、国境の検問緩和についての交渉だった。
礎の国の文官として、ここに一人で送られた。
責任者として。
また、責任者として。
「いつも、最後に残るのは私だな」
誰にともなく、呟いた。
窓の外の雪が、月明かりに白く光っていた。
つづく




