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自由を手に入れた奴隷剣闘士の成り上がり冒険譚  作者: 寛太郎


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報告するまでが依頼

 西門が見えた頃、リックは何度も同じことを確認した。


「グラムさん、受付で聞かれたら、順番に話してくださいね」

「草を採った」

「それだけじゃ駄目です」

「鼠が出た」

「それも必要ですけど、場所と数もです」

「三匹」

「そうです。浅い採取区域に三匹。毒針を飛ばした。グラムさんが一回受けた。解毒薬を使った。ここまで言ってください」

「リックが言えばいい」

「僕も言います。でも、攻撃を受けたのもポイズンラットを倒したのもグラムさんです」


 グラムは採取袋を背負い直した。

 薬草よりも、報告の方が重く感じる。剣で斬れるものなら楽だった。


 冒険者ギルドに戻ると、夕方前の受付は依頼帰りの冒険者たちで混み始めていた。

 革鎧の男がゴブリンの耳を袋から出し、別の女冒険者が泥だらけの靴で水路掃除の報告をしている。受付の奥では職員が木札と紙束を行き来させ、誰かが「討伐証明は別皿に載せてください」と声を張っていた。

グラムたちはミレーヌを見つけ、その列に並んだ。

ミレーヌはグラムの準場になると、すぐに手元の書類を整えた。


「お帰りなさい。初依頼の報告ですね」

「戻った」

「はい。では、結果をお願いします」

「草を採った」


 ミレーヌの筆が止まった。


「……ほかには?」

「鼠が出た」

「鼠」

「斬った」

「斬ったんですか?」


 リックが横から慌てて首を振った。


「斬ってはいません! 鞘と柄で仕留めました。薬草を荒らさないようにしていました」

「そうなのですか」


 ミレーヌはグラムを見る。

 グラムは短く頷いた。


「斬る前に死んだ」

「言い方を選んでください」


 ミレーヌはこめかみに指を当てた。

 受付台の上に、採取袋と布に包まれた毒針が置かれる。

 ミレーヌはまず薬草を広げ、葉の裏、根の状態、茎の折れを確認した。


「薬草は……状態良好です。根の傷みも少ないですね」

「リックに教わった」

「はい。リックさん、補助ありがとうございます」

「い、いえ。僕も途中から一緒に採っただけです」

「では、ポイズンラットについて確認します。出現場所は?」

「草の近くだ」

「採取区域は全部草の近くです」


 リックが小さく手を上げた。


「西門から入って、一つ目の沢を越える手前です。地図だと浅い採取区域の端になります。本来、あまり奥の魔獣が出る場所ではありません」

「数は?」

「三匹です」

「毒針は?」

「全個体が持っていました。一匹目が針を飛ばして、グラムさんの左腕に刺さりました。二匹目は、グラムさんが針を避けて、三匹目は針を撃つ前に抑えました」


 ミレーヌの筆が、また止まった。


「一匹目は受けた。二匹目は避けた。三匹目は撃つ前に抑えた?」

「はい」

「……短時間で?」

「たぶん、一呼吸くらいです」


 近くの依頼板を眺めていたバルドが、肩越しにこちらを見た。


「おい、今の話、もう一回言え」

「一呼吸くらいです」

「そっちじゃねえ。受けて、避けて、先に潰したってところだ」


 リックは困った顔で同じ説明を繰り返した。

 バルドは笑いかけた口元を途中で止める。


「おまえ……見てから合わせたのか」

「一度見たからな」


 グラムは答えた。


「それで済むなら、初心者講習は半日で終わるな」

「終わらないのか」

「終わらねえよ」


 バルドは呆れたように言ったが、その目はグラムの左腕に向いていた。

 ミレーヌも同じ場所を見ていた。


「腕を出してください」

「動く」

「動くかどうかではありません。毒針に刺されたんですよね」


 即答だった。

 グラムは少しだけ首を傾げ、袖をまくった。針の跡はまだ赤く、周囲がわずかに腫れている。毒は解毒薬で広がりを止めていたが、普通の新人なら休ませる傷だ。


「処置は?」

「リックが薬を使った」

「針はすぐ抜きました。解毒薬を傷口に垂らして、残りは飲ませようとしたんですけど、グラムさんがいらないと」

「なぜ飲まなかったのですか」

「動いた」

「だから、動けるかどうかではありません」


 ミレーヌの声が、今度ははっきり強くなった。

 グラムは黙る。

 怒鳴られているわけではない。だが、闘技場で浴びた罵声とは違い、なぜか言葉がまっすぐ自分に向かってきた。


「依頼中の負傷は、依頼結果の一部です。あなたが倒れなかったとしても、毒を受けた事実は残ります。後で症状が出れば、次の依頼にも影響します。同行者にも、ギルドにも、採取区域を使う他の新人にも関係します」

「俺の傷でもか」

「はい。冒険者は一人で戦っているように見えても、繋がってるんです」


 グラムは左腕を見た。

 傷は浅い。痛みも遠い。だが、それだけで終わらせてはいけないらしい。


「分かった。次は報告する」

「今もしてください」

「毒針を受けた。薬を使った。まだ少し痺れがある」


 ミレーヌはようやく頷き、書類に追記した。


「それでいいです。最初からそれを聞きたかったんです」

「長い」

「必要なものです」


 報告書は、グラム一人では完成しなかった。

 ミレーヌが質問し、グラムが短く答え、リックが補足する。

 採取した薬草の本数。状態。出発と帰還のおおよその時刻。ポイズンラット三匹の出現位置。毒針の本数。解毒薬を一本使ったこと。巣の追跡はしていないこと。

 最後に、ミレーヌは布に包まれた針を小皿へ移した。


「これは討伐証明としてではなく、出現報告の証拠として預かります。今回は薬草採取依頼なので、討伐報酬は小額です。ただし、浅い区域にポイズンラットが出た報告は重要です。巡回班に回します」

「小額か」

「依頼外の対応です。ですが、勝手に巣まで追わなかったのは正解です」

「リックが止めた」

「では、リックさんも正解です」


 リックはほっとした顔で息を吐いた。


「よかった……僕、怒られるかと思いました」

「怒られる理由があるのか」

「グラムさんが毒針を刺したまま帰ろうとしたあたりです」

「刺さったのは俺だ」

「だから、それだけじゃないんですって」


 リックの言葉に、ミレーヌが深く頷いた。


「グラムさん。あなたは戦闘能力だけなら、Fランクの範囲ではありません」

「なら、上げるのか」

「上げません」


 返事は早かった。

 グラムは黙って続きを待つ。


「理由は、今の報告です。依頼は、敵を倒して終わりではありません。何が起きたかを説明し、素材や証明を正しく扱い、負傷を隠さず、次に同じ場所へ行く人のために記録を残す。そこまで含めて冒険者の仕事です」

「難しいな」

「慣れれば、簡単ですよ」

「本当か」

「少なくとも、書類は毒針を飛ばしません」


 バルドが横で小さく笑った。


「ミレーヌの書類はたまに刺さるぞ」

「バルドさん?」

「悪かった」


 薬草採取の報酬が支払われた。

 グラムは硬貨を受け取り、全部を袋へいれた。

 グラムは硬貨を見つめた。

 闘技場では、勝っても金は自分のものではなかった。今は少ないが、これは自分で受け取り、自分で使うものだ。

 使い方を誤れば、次の依頼に響く。


「覚えることが多い」

「そのためのFランクです」


 ミレーヌは報告書を整え、別の依頼札を一枚取り出した。


「初依頼は成功です。問題もありましたが、大事には至らず戻り、報告も形になりました」

「リックが形にした」

「それを認められるのは良いことです」


 リックは照れたように視線を落とした。

 ミレーヌは続ける。


「次は、正式な討伐依頼を受けてみますか」

「討伐」


 グラムの目が、少しだけ依頼札へ向く。


「ホーンラビットの討伐です。小型ですが、角が討伐証明部位になります。倒せばいいだけではありません。素材を残して、証明できる形で持ち帰る必要があります」

「兎か」

「はい。ただし、普通の兎ではありません」


 バルドが背後で腕を組んだ。


「今度は、斬れば終わりってわけじゃねえぞ」


 グラムは依頼札を見た。

 薬草、鼠、報告書。その次は、角のある兎。

 自由の国で生きるための戦いは、闘技場の試合より細かい決まりが多い。

 だが、決まりがあるなら覚えればいい。


「受ける」


 グラムは短く言った。

 ミレーヌは、もう一枚の説明書きをそっと重ねた。


「では、まず説明を聞いてください」


 グラムは沈黙した。

 その沈黙を、リックが横で小さく笑った。


最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

是非、評価 リアクション 感想をお願いします!

誤字脱字の指摘も歓迎です!

よろしくお願いいたします!


この作品とは別で「 自由を手に入れた奴隷剣闘士の成り上がり冒険譚」という作品を書いております!

このスローライフよりかなりポップな会話劇を目指して書き始めましたので気になる方はぜひそちらも読んでください!!

最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

是非、評価 リアクション 感想をお願いします!

誤字脱字の指摘も歓迎です!

よろしくお願いいたします!


この作品とは別で「スローライフってそういう事じゃなくって」という作品を書いております!

この奴隷剣闘士よりも情景描写や心理描写に焦点を当てた作品となっております。気になる方はぜひそちらも読んでください!!

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