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自由を手に入れた奴隷剣闘士の成り上がり冒険譚  作者: 寛太郎


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帰還

 セントレアの門が見えたころ、エドはようやく少し眠った。


 荷台の端で毛布にくるまり、まだ時々肩を震わせている。商人たちは誰も大きな声を出さなかった。遠望の刃の四人も、帰り道ではほとんど喋らない。


 ミラだけが、何度かグラムを見た。


「頬、まだ血が出てる」

「浅い」

「それ、治療院で言ったら怒られるやつだよ」

「ノルンにも言われた」

「じゃあ言われ慣れてるんだ」


 ミラは笑ったが、矢筒の紐を握る手は固かった。森の奥で聞いた助けを呼ぶ声が、まだ残っているのだろう。

 ギルドへ戻ると、受付の前にいた若い職員が、最初に布包みを見た。

 リーナだった。


「……それ、普通の討伐素材じゃないですよね」

「人獣だ」


 グラムが答えると、リーナは一拍置いてから、奥へ顔を向けた。


「ミレーヌさん。赤札です」


 受付のざわめきが、少し低くなった。

 ミレーヌは羽ペンを置いた。返事をするまで、ほんの少し間があった。


「ハイゼさんを呼んでください。素材はダリオさんへ。エドさんは、先に椅子へ」

「はい」


 リーナが小走りで奥へ消える。いつもより足音が大きい。

 セイルは布包みを受付台に置かず、腕に抱えたまま待っていた。


「台、汚れるよね?」

「ですね。できれば奥へ」

「わかった」


 ミレーヌはエドの方へ回った。名前を確認し、怪我の具合を見て、すぐに別の紙を出す。


「歩けますか」

「は、はい。少しなら」

「治療院へ送ります。証言は後で大丈夫です。今は座ってください」


 エドは何か言おうとして、口を閉じた。椅子に腰を下ろしたあとも、自分の喉に手を当てている。

 自分の声を盗まれた。

 たぶん、それが一番気味悪いのだろうと、グラムは思った。


「人獣か」


 奥から出てきた男は、細身で、片目の下に古い傷があった。声は低い。怒鳴ってはいないのに、周りが自然と道を空ける。

 ハイゼ、とミレーヌが呼んだ。


「ヴォイスエイプと思われます。荷運び一名を拉致。声真似あり。救出済み。討伐済みです」

「現場は」

「北西街道の休憩場から森側です」


 ハイゼはうなずき、赤い札を一枚取り出した。そこに短い字で何かを書き、セイルへ向ける。


「代表者の名を」

「遠望の刃、セイル」

「同行者」

「ガド、ミラ、ユーリ。あと、グラム」


 ハイゼの視線がグラムで止まった。


「例の新人か」

「そう呼ばれているのか」

「何かと話題になってるからな」


 ハイゼはそれ以上は言わず、赤札を机の端へ置いた。


「ギルド長はまだ戻っていない。副長へ上げる。エドの証言は治療後でいい」

「分かりました」


 そこで、素材場の方から太い声が飛んだ。


「おい、赤札の素材持ってきたのは誰だ。こっちへ寄こせ。受付で広げるな」


 ダリオだった。

 セイルが苦笑し、布包みを持ってそちらへ向かう。グラムも続こうとしたが、ミレーヌに袖をつままれた。


「グラムさんは頬を見せてください」

「大した怪我ではない」

「それでもです」



 ミレーヌは布を水に浸し、グラムの頬を拭いた。薬は染みた。顔には出さなかったが、ミレーヌが手を止める。


「痛いなら、言ってくださいね」

「痛くはない、少し染みる」

「わかりました」


 ミレーヌが頬の傷を確認し終えたと同時くらいに、ダリオが布包みの中身を検めながら声を上げた。


「魔石は誰が抜いた」

「グラムだ」


 セイルが答える。

 ダリオはグラムを見た。眉間に皺を寄せ、もう一度魔石を見て、それから鼻で笑った。


「悪くねぇ仕事だ。だがまぁ、今後はしたい丸ごと俺の所にもってこい」

「欠けていたか?」

「いいや、大丈夫だ。だが俺ならもっと金になるように素材を回収してやる」


 受付の空気が、少しだけ戻った。

 栗毛の女性が会計窓口から顔を出す。


「ミレーヌさん立て込んでるので、私から伝えておきますね。赤札分の精算は後日です。通常護衛分も、証言が揃うまで仮計算になります」


その女性はペトラと名乗った。


「報酬は減るのか」


 グラムが聞くと、ペトラは眼鏡を押し上げた。


「増える可能性もあります。減る可能性もあります。今回は増えるでしょうね」

「そうか」

「人獣を討伐したんだ。減るもんかよ。これで3日はたらふく酒を呑めるぜ」

「ガドさんはお酒控えた方がいいですよ。体に障ります」

「いいんだよ」

「ガド、酒を飲むと弱くなるぞ」

「おい、グラムお前もかよ。酒はな、心の傷を治す効果があるんだ」

「そうなのか」

「ちょっとガド!嘘教えるのやめなさいよ」


ペトラ、ガド、グラムの会話にミラが割り込む


「酒に注ぎ込むのは勝手だけど、武器の手入れとか忘れないでよ?」

「わかってるよ。じゃあな、グラム。俺は酒場に行ってくるわ」

「ああ」


ガドはグラムに片手をあげ酒場の方に歩いて行った。


「俺も帰るか」


報酬の支払いは後日になるらしい。それならば明日からの依頼に備えて今日は休むべきだとグラムは判断してした。


ギルドから出て開拓の礎に帰るグラムを、誰かがじっと見つめていた。



 

最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

是非、評価 リアクション 感想をお願いします!

誤字脱字の指摘も歓迎です!

よろしくお願いいたします!


この作品とは別で「スローライフってそういう事じゃなくって」という作品を書いております!

この奴隷剣闘士よりも情景描写や心理描写に焦点を当てた作品となっております。気になる方はぜひそちらも読んでください!!

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