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自由を手に入れた奴隷剣闘士の成り上がり冒険譚  作者: 寛太郎


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17/25

商隊護衛

 翌朝、グラムは西門の脇で小さな商隊を待っていた。

 腰には剣。背には水袋。昨日受け取った硬貨の小袋は、宿の女主人に言われて鞄の奥へしまってある。持って歩くと落とす、と言われたからだ。

 門の前には荷車が二台あった。積まれているのは布包み、塩漬け肉の樽、安い鍋、農具の替え刃。商人は荷縄を何度も確かめ、御者は馬の首を撫でている。


「お前がグラムか」


 声をかけてきたのは、短い黒髪の剣士だった。年は三十前後。革鎧の上から灰色の外套を羽織り、腰の剣は使い込まれている。


「そうだ」

「俺はセイル。遠望の刃のまとめ役をしてる。今日はうちが主で、お前は補助。文句は?」

「ない」

「よし。返事が短くて助かる」


 セイルは肩越しに仲間を指した。

 斧を担いだ大柄な男がガド。先頭の茂みを見ている弓使いの女がミラ。後ろの荷車に寄りかかって弦を確かめている細身の男がユーリ。

 四人ともCランクだとミレーヌは言っていた。剣士一人、斧一人、弓二人。

 ミラがグラムを上から下まで眺めた。


「本当にFランク? 剣だけ見たら、道を間違えた傭兵にしか見えないんだけど」

「登録はFだ」


 ガドが笑った。


「噂ほど怖い顔じゃねえな。いや、怖い顔ではあるか」

「ガド、余計なこと言うな。荷主が青くなってる」


 ユーリが静かに言うと、商人が慌てて笑顔を作った。


「い、いえ。頼もしい方が多いのはありがたいです」

「なら出発しよう」


 セイルは地図をたたみ、グラムの横へ来た。


「最初は二台目の左を任せる。馬の腹に近づきすぎるな。蹴られる」

「俺は敵ではない」

「敵じゃなくても蹴る。馬はそういう生き物だ」

「分かった」


 グラムは半歩だけ離れた。

 ミラが先に立ち、道の端を軽く見ながら進む。セイルは一台目の右。ガドは二台の間。ユーリは後方。グラムは二台目の左側についた。

 街道はセントレアを離れるほど道幅が狭くなる。轍の間に草が伸び、ところどころ泥が乾いて固まっていた。荷車は速くない。人の歩幅に合わせて進む。


「遅いな」


 グラムが言うと、ガドが振り返った。


「荷車は走らねえよ」

「襲われたら不利だ」

「だから先に見つけるんだろ」


 ミラが前方で手を上げた。

 全員が止まる。商人まで息を止めた。

 ミラは膝をつき、道端の草を指で払った。小さな足跡が、斜めに街道を横切っている。


「マナウルフ。三、いや四。まだ新しい」

「近いか」


 セイルが聞く。


「向こうはまだ気づいてないか」


 グラムは森の奥を見た。気配はほぼ無い。だが、ミラの視線は迷っていない。


「見えない」

「見えた時は、向こうもこっちを見てるよ」


 ミラは軽く笑い、弓を構え直した。

 セイルは商人に向き直る。


「荷車を寄せる。右の木陰まで。馬を急がせるな」

「は、はい」

「ガド、前輪。ユーリ、後ろを見る。グラム、二台目の馬の横にいてくれ。そいつが倒れると道が詰まる」

「ああ」


 荷車がゆっくり道端へ寄る。

 その途中で、森の奥から低いうなり声がした。

 灰色の影が一つ、草の間に浮かぶ。次に二つ。さらに奥で尾が揺れた。

 マナウルフだった。

 普通の狼より一回り大きく、毛並みの下に青白い魔力の筋が走っている。目は人を見ていない。荷馬の喉と、御者の手元を見ていた。


「来る」


 グラムは剣に手をかけた。


 

 最初に飛び出した一匹へ、ミラの矢が刺さる。肩を射抜かれたマナウルフが横へ転がった。二匹目はその影に隠れて、低く荷馬へ迫る。

 二匹目が荷馬の脚へ跳んだ瞬間、グラムは横から剣を振った。首を断つほどではない。軌道を変え、地面へ叩き落とす。続けて足で胸を押さえ、短く刃を入れた。

 馬がいななき、御者が手綱を引く。


「馬、抑えて!」


 ユーリが叫びながら、後ろから回り込んだ三匹目へ矢を放つ。矢は外れたが、マナウルフの足を止めた。

 そこへガドが踏み込み、斧の腹で横殴りにする。


「魔石は壊してねぇだろうな」

「多分」

「多分かよ!」


 ガドが吠える間に、セイルが一匹を仕留めた。

 残りは二匹。

 片方は傷を負い、森へ下がろうとしている。もう片方は大きい。群れの中心だろう。荷車ではなく、ミラを狙って回り込んでいた。


「ミラ、右」


 グラムが言った。


「分かってる!」


 ミラは笑っていた。矢をつがえたまま、わざと半歩だけ下がる。

 大きなマナウルフが跳ぶ。

 その着地点へ、グラムは先に入った。

 ミラの矢が横腹へ刺さる。マナウルフの体がわずかに傾いた。グラムはその傾きに合わせ、下から剣を入れる。毛皮と筋肉を裂き、刃が喉の奥へ抜けた。

 重い体が、グラムの足元へ崩れる。

 森へ逃げかけた一匹には、ユーリの二本目の矢が届いた。

 静かになった。

 商人が荷台の陰から顔を出す。


「お、終わりましたか?」

「たぶんね」


 ミラが弓を下ろし、グラムを見た。


「今の、私を助けた?」

「助けた」

「ナイス」


 ミラは笑った。

 セイルは倒れたマナウルフの数を確認し、商人に手早く説明した。


「四体討伐。一体は少し先に倒れてる。荷馬に怪我なし。車輪も無事。ここで長居はしない。血の匂いで別のが来る」

「は、はい」

「グラム、そっちの大きいの、魔石を取れるか?」

「取れる」

「割るなよ。報告が面倒になる」

「割らない」


 グラムはしゃがみ、マナウルフの胸元に刃を入れた。

 マッドタスクボアより小さい。ガタースライムの核より見つけやすい。だが、毛皮の下で骨が邪魔をする。力を入れすぎないように刃を滑らせ、魔石を取り出す。

 ガドが横で見ていた。

「本当にFランクか、お前」

「そうだ」


 ユーリが淡々と言った。


「でも、荷馬から離れなかった。そこは助かりました」

「離れるなと言われた」

「言われても離れる人は離れます」


 グラムは返す言葉を探したが、見つからなかった。

 商隊は予定より少し遅れて、北西の小さな休憩場へ着いた。井戸と古い石囲いだけの場所で、旅人が荷を直すために使うらしい。

 だが、そこにいるはずの別の小荷隊はいなかった。

 壊れた木箱が一つ、道端に転がっている。布の切れ端が枝に引っかかり、地面には新しい轍が途中で乱れていた。

 セイルの顔から笑みが消えた。


「ミラ」

「ええ」


 ミラはしゃがみ、泥の上の跡を指でなぞった。


「マナウルフの足跡はある。でも、妙だな。食い散らかした感じじゃない」


 ユーリが周囲を見回す。


「荷は少し残っています。盗賊なら、もっと持っていくはずです」


 グラムは草の倒れ方を見た。

 誰かが引きずられた跡がある。血は少ない。荷車の轍から離れて、森の方へ続いていた。


「人が一人、森へ行った」

「自分でか?」


 ガドが斧を握り直す。


「分からない」


 その時、森の奥から声がした。


「……助けてくれ」


 かすれた男の声だった。


「こっちだ……足をやった……」


 商人が顔色を変える。

 ミラは弓を構えたまま、すぐには動かなかった。セイルも剣を抜かない。ただ、グラムの方を見た。

 グラムは森の奥を見つめていた。

 声は弱い。だが、息の間が合わない。


「行かないのか」


 ガドが低く聞く。

 グラムは首を横に振った。


「何か違う」


 森の奥で、また同じ声がした。


「早く……助けてくれ……」


 その声は今度は少し近づいていた。


最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

是非、評価 リアクション 感想をお願いします!

誤字脱字の指摘も歓迎です!

よろしくお願いいたします!


この作品とは別で「スローライフってそういう事じゃなくって」という作品を書いております!

この奴隷剣闘士よりも情景描写や心理描写に焦点を当てた作品となっております。気になる方はぜひそちらも読んでください!!

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