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『戦闘力5の三十路ギャンブラー、異世界で「命の代償」を強いる――最強の騎士も魔王も、俺の賭場からは逃げられない』  作者: 仁胡 黒


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第42話:三矢の虚実、嘘つきの正論

聖域の門番、ナンバー10・慎羅しんらが突きつけたのは、五感を研ぎ澄まさねえ限り突破不可能な心理博打。

第一射、放たれた矢は霧の彼方へと消え、慎羅は平然と「十点満点」を宣言しました。

右目の光を失ったエイトにとって、頼れるのは微かな風切り音と、博徒として積み上げてきた「疑う力」のみ。

三奈と樹、二人の強烈な個性が火花を散らす傍らで、命懸けの「嘘喰い」が始まります。

「……第一射。命中を確認。……『十点(満点)』だ」


慎羅の声は、霧の冷たさに溶け込むほどに静かだった。

弓を引き絞る指先、放たれた瞬間の呼吸、そして残された残響。そのどこにも、動揺の欠片すら見当たらない。


「さあ、八番。……これが『真実』か『虚偽』か。選択を」


エイトは左目だけで慎羅の横顔を凝視した。

一メートル先さえ白く濁るこの霧の中、矢がどこに当たったかを視覚で判断するのは不可能だ。


「……十点満点、ね。一発目から最高得点を引いたってわけか。……随分と自信満々じゃねえか」


「マスター。……彼の心拍数、一定すぎて機械みたい。……でも、右の口角が0.2ミリ下がった。これは『獲物が罠にかかった』時の動き。……私の調べでは、彼は嘘を吐いている。……間違いない。カプッ」


三奈が淡々と、しかし極めて冷徹な分析を耳元で囁く。その視線は慎羅の喉元を正確に捉えていた。

……最後に耳を噛まなければ完璧だった。


「うふふ、三奈さん。おいたはいけませんよぉ? ……慎羅さんと一緒に、あなたの背骨も『弓なり』に曲げて差し上げましょうかぁ?」


樹がおっとりとした微笑みのまま、傍らの石柱にそっと手を添える。メキメキ……という鈍い音と共に石柱に指の形が深く刻まれ、慎羅の眉が僅かに跳ねた。


「……二人とも、静かにしてろ。……今、こいつと『対話』してんだよ」


エイトは包帯の奥で、失った右目の奥が疼くのを感じた。

(……音だ。……矢が空気を切り裂く音。……確かに真っ直ぐだった。だが、的を叩いた衝撃音が、僅かに、本当に僅かに『軽かった』気がする……)


だが、そこでエイトは思考を反転させる。

慎羅は「守護者」だ。誇り高いナンバー持ちが、一発目から「十点」という分かりやすい嘘を吐くだろうか? いや、むしろ「十点」という真実を突きつけることで、二発目以降の疑心を煽るのが定石ではないか。


「……天の声、ジャッジだ。こいつの宣言、期待値はどうなってる?」


【天の声8】

[ 報告:聴覚情報のノイズが大きく、確実な判定は不能。……ただし、対象の指先の毛細血管の収縮を確認。……緊張ではなく、『集中』の状態です。 ]


「集中、か……」


エイトは不敵な笑みを浮かべた。

慎羅の目は、嘘をついている者の目ではない。だが、博徒の直感が別の答えを囁く。


「……慎羅。あんたは『十点』と言ったな」


「いかにも」


「……答えは『虚偽ブラフ』だ」


慎羅の瞳が、一瞬だけ鋭く細められた。

三奈が僅かに頷き、樹が期待に満ちた目で結果を待つ。


「……理由は」


「あんたの腕なら十点なんて造作もねえだろうさ。……だが、今の一射、あんたは『的』じゃなくて、俺の『左足の延長線上』にある岩を狙った。……着弾の音が少しだけ高かったのは、木製の的じゃなく硬い石に当たった音だ」


霧の向こう、慎羅が指を鳴らすと、霧が僅かに晴れていく。

そこにあったのは、十点の的のすぐ隣、エイトが指摘した通りの岩に深々と突き刺さった銀の矢だった。


「……正解だ。……一射目から我の術中に嵌まらぬとはな。……面白い」


「……ハッ、一勝だな。……だが、心臓に悪いぜ」


エイトは冷や汗を拭った。

だが、慎羅の纏う空気は、より一層静謐さを増していく。


「……では、第二射。……次は、音だけでは測らせぬぞ」


慎羅が二本目の矢を番える。

一美(イチカ)の待つ塔へ至るための試練は、ここからが本番だった。

第42話、お読みいただきありがとうございました。


「三矢の虚実」第一戦。慎羅の「十点」という宣言を、エイトは「着弾音の違い」で見事にブラフだと見抜きました。

三奈のデータと、樹の(物理的な)圧力が絶妙に慎羅を揺さぶる中、エイトの博徒としての聴覚が冴え渡ります。


次回、第四十三話。

慎羅が放つ第二射。今度は音が「完璧な命中」を告げます。

しかし、慎羅の口から出た宣言は「零点ハズレ」。

矛盾する音と宣言。エイトは己の耳を信じるのか、それとも相手の「心」を信じるのか。


どうぞお楽しみに。

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