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『戦闘力5の三十路ギャンブラー、異世界で「命の代償」を強いる――最強の騎士も魔王も、俺の賭場からは逃げられない』  作者: 仁胡 黒


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第39話:不運(ハード)な目覚めと静かなる女の戦い6:49

軍事区の戦いを終え、宿屋の一室で泥のように眠っていたエイト。

しかし、彼を待っていたのは安らかな休息ではなく、二人の女性による静謐かつ苛烈な「看病権」の争奪戦でした。

右目の視界を失い、戦闘力力「5」の限界を露呈した三十路の博徒を巡り、淡々とした毒舌と、ほわほわした殺気が火花を散らします。

「……ん、……ハッ、……」

エイトが意識を浮上させた時、最初に感じたのは鼻腔をくすぐる朝粥の匂いと、逃げ場のない「圧」だった。

右目は包帯で固められ、かろうじて開いた左目の先には、無表情にリンゴを切り分ける三奈の姿があった。

「おはよう、マスター。昨夜、私の指を握り締めながら『行かないでくれ、三奈』と泣いてすがった姿…可愛かった」

「……縋ってねえし、泣いてねえ。……あと、可愛いとかやめろ……」

「却下。あなたの管理は私の仕事。私にすべてを捧げると誓ったと、思い込むまで何度でもその脳に刻み込む」

三奈は淡々とした口調で、一切の感情を排したまま、一切れのリンゴをエイトの口へねじ込んだ。

噛み砕く間も与えぬ、事務的でいて強引な手際だ。

「おい、三奈、……ちょっとペースが、」

「あらぁ、三奈さん。エイトさんが困っていますよぉ? 看病はもっと、こう……まごころを込めないとぉ」

背後から、樹の綿菓子のように柔らかい声が響いた。

彼女はいつものように、おっとりとした微笑みを浮かべて立っている。

だが、彼女が手にしている木製の盆は、その指の力だけでミシミシと不穏な悲鳴を上げていた。

「おはようございます、旦那様。……、私がじっくりと真心を込めて(指の力で)磨り潰した、この特製お粥を召し上がってください」

「い、樹……。……力が入りすぎた…、加減してくれ…」

「うふふ、気のせいですよぉ。……三奈さん。そこを空けていただけますか? 」

樹の背後から、目に見えるような黒いオーラが立ち上る。声はどこまでも優しいが、空気の密度が明らかに変わっていた。

「……それはムリ。マスターに必要なのは、か弱くて傍で支える私。邪魔をするなら、たとえ樹でも容赦はしない」

三奈の視線が鋭く、攻撃的な色を帯びる。

対する樹も、にこにことした笑顔のまま、一切退く気配を見せない。

「……やめろ。……俺は、イチカを助けに行かなきゃならねえんだ。……こんなところで遊んでる暇はねえ……」

エイトが震える腕で上体を起こすと、二人の視線が同時に突き刺さった。

「「座って(ください)」」

「……はい」

戦闘力「5」の博徒に、拒否権はなかった。

右目の痛みが、二人の圧によってもはや些細なことに思えてくる。

【天の声8】

[ 解析:現在の室内の緊張状態は、軍事区の爆発よりも高い破壊エネルギーを秘めています。……生存のため、両者の要求を50:50で受諾することを推奨します。 ]

(……そんな器用なこと、できるかよ。……まあ、このやかましさが今はありがてえ)

エイトは左目で見えない天井を仰ぎ、これから始まる「地獄の朝食」に覚悟を決めた。

④ あとがき

第39話、お読みいただきありがとうございました。

孤独な戦いから一変、三奈と樹による看病合戦が始まり、やかましくもあるけど、ホッとするエイト。

彼の女難はまだまだ続く?

次回、第40話。

軍事区を脱出し、中央の『白亜の塔』を目指す一行。

しかし、道中でエイトの「右目の代償」が、予想以上の不運を呼び寄せることになります。

どうぞお楽しみに。

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