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『戦闘力5の三十路ギャンブラー、異世界で「命の代償」を強いる――最強の騎士も魔王も、俺の賭場からは逃げられない』  作者: 仁胡 黒


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第38話:死線の果ての報酬、過保護な戦乙女たち

軍事区の絶対規律を粉砕し、ナンバー11・バルトロを退けたエイト。

しかし、精神力の過剰消費と右目の視界喪失という代償は、彼の細い体を無慈悲に蝕んでいました。

静寂に包まれた戦場。一人で朽ち果てようとするエイトの前に、置いてけぼりにされたことに「独自の解釈」を加えた二人の少女が現れます。

ここからは、命のやり取りよりも恐ろしい(?)お説教と言う名の甘やかしタイムの始まりです。

「……ハッ、……静かなもんだな……」


崩壊した鉄塔の残骸。エイトは剥き出しの鉄板に背を預け、震える指で最後の一本の煙草を口に咥えた。

火を点けようとするが、右目の視界は真っ暗で、左目も焦点が合わない。

指先が震え、ライターがカチリと虚しく音を立てるだけだ。


「……三十の身体に、……神様の真似事は、……ちと、荷が重すぎたか……」


自嘲気味に笑い、ライターを地面に落としたその時。

静寂を切り裂くように、しとやかで、どこか艶を含んだ声が耳元に届いた。


「……お困りですか、マスター? ライターの火一つ点けられないなんて。あの夜の情熱はどこへ行ってしまったのでしょう」


「……三奈、か?」


ぼやける視界の先に、少し大人びた笑みを浮かべ、優雅に歩み寄る三奈の姿があった。

彼女はエイトの隣に座ると、彼の手から煙草を抜き取り、自分の唇に一度寄せてから、魔法の火を灯してエイトの口に戻した。


「マスター……置いていくなんてひどい。私と交わした、あの月夜の約束……忘れたなんて言わせない。私たちが愛を誓い合い、共に不運の果てまで歩もうと、熱い吐息の中で囁き合ったあの一時を……」


「……待て。そんな一時ひとときは断じてなかったはずだ。あと、お前が一方的に仕掛けてきただろ、俺たちが会ったのは」


「ふふ、照れなくていい、マスターのそんな強がりも、あの夜の情熱に比べれば些細なこと」


三奈はエイトの頭を、そっと自分の膝の上に引き寄せた。

柔らかな感触。だが、その動作は「これ以上は逃がさない」という確固たる意志に満ちている。


「エイトさん、三奈さんの妄想に付き合ってあげるのは、視力の回復を待ってからにしてください」


三奈の背後から、無機質な包帯を取り出しながら樹が歩み寄ってきた。

彼女の瞳には、冷徹なまでの「治療」への使命感が宿っている。


「……樹、……悪いな、また世話をかける」


「精神力の過剰使用による神経系の焼損。……エイトさん、これがもし『賭け』の結果だと言うなら、あなたの期待値計算は致命的に間違っています。次、一人で勝手に消えようとしたら……今度こそ、私も共に参ります。あなたは、私の旦那様なんですから……逃がしませんよ?」


「……そりゃ、判定ジャッジよりも恐ろしいペナルティだな」


樹は淡々と、しかし手際よくエイトの右目に包帯を巻いていく。

視界が完全に覆われる中、エイトは三奈の膝の温もりと、樹の手の冷たさを同時に感じていた。


「マスター。そんな女にうつつを抜かすなら、もっと私に愛を囁くべき。それ以外は時間の無駄」


三奈がエイトの耳元で、甘く、しかし逃げ場を塞ぐように囁く。


「……勘弁してくれ。…だが、まあ…助かった。……ありがとな」


「うん、もっと感謝するべき」

「いえ、当然のことですわ」


夕暮れの軍事区。

ボロボロの博徒と、彼を支え、あるいは「縛る」二人の少女。

歯車の止まった街で、三十路の不運な日常が、再び騒がしく動き出した。

第38話、お読みいただきありがとうございました。

姦しい二人が戻ったことでようやく本調子を取り戻したエイト。

やかましさに日常の安心感を得てホット一息。


次回、第39話。

バルトロを失い、静寂を取り戻した軍事区。

エイトたちは次の目的地へと向かいますが、その前に「天の声8」から不穏な警告が発せられます。


どうぞお楽しみに。

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