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『戦闘力5の三十路ギャンブラー、異世界で「命の代償」を強いる――最強の騎士も魔王も、俺の賭場からは逃げられない』  作者: 仁胡 黒


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第37話:規律の崩壊、五十六番目の不運

前話、ルーレットの球が56番の縁を叩いた瞬間のこと。エイトは見逃しませんでした。その数字を背負う兵士の瞳に宿った、規律を上書きするほどの「死の恐怖」を。

バルトロがどれほど全軍の意識を同調させようとも、そこに一人の「人間」がいる限り、確率は揺らぎます。

精神力は残り僅か。右目の視界も限界。

三十歳の博徒が、軍事区の絶対規律を粉砕する最後の一投に挑みます。

「……ふぅ……。バルトロ、……あんたの部下は優秀だな。……特にお前の右後ろ、五十六番のアイツだ」


鉄塔の上、エイトは血の混じった唾を吐き捨て、歪んだ笑みを浮かべた。

バルトロの背後に立つナンバー『56』の兵士。その指先が、先程の「ニアミス」以降、微かに、本当に微かに震え続けている。


「……五十六番だと? 貴様、何を――」


「……あいつ、死ぬのが怖くてたまらねえんだよ。……規律だの同調だの言ったところで、自分の足元に爆弾が埋まってるって知っちまえば、そりゃあ心臓も跳ねるわな」


バルトロの黄金の瞳が険しさを増す。


「……無意味な揺さぶりだ。『全軍同調フル・シンクロ』。……我らに個の恐怖など存在せん」


バルトロが斧を掲げると、広場に展開する数千の兵士たちが一斉に軍靴を鳴らした。

その振動が、ルーレットの盤面に目に見えない「規律バイアス」を生む。


【天の声8】

[ 警告:高密度の思念介入を確認。……球の軌道がバルトロの意志に固定されつつあります。……このままでは、あなたの爆弾『18番』へ確実に誘導されます。 ]


(……ああ、わかってる。正面からじゃ、数百人の『思い込み』には勝てねえ)


次の投球。放たれた球は、バルトロが望むままにエイトの敗北(18番)へ向かって、磁石に吸い寄せられるように加速する。


(……だがな。……規律の鎖ってのは、一箇所でも『個』が目覚めれば、そこから腐り落ちるんだよ!)


エイトは、右目のノイズを逆手に取り、因果が最も脆弱になっている一点を凝視した。

ターゲットは、球ではなく、あの震える『56番』の兵士。


「……天の声! ジャッジだ。……あいつが隠し持ってる『手紙』……一瞬だけ、風で舞い上げろ!」


【天の声8】

[ 介入対象:物理現象(局所的な突風)。[ヒット]……消費精神力:18%。……実行。 ]


脳を焼かれるような熱がエイトの意識を削る。

だが、その瞬間。

軍事区の冷たい風が渦を巻き、『56番』の兵士の懐から、封の切られた一通の手紙を盤上へと踊らせた。


「なっ……!? 貴様、貴様ァッ!!」


バルトロが叫ぶ。完璧だった『同調』に、致命的な「私情」が混入した。

手紙に綴られた故郷の家族の声。兵士の脳裏に、規律ではなく「生きたい」という本能が爆発する。

その一人の強烈な「個の叫び」が、ルーレットを支配していた無機質な磁場を、ガラスのように粉砕した。


「……規律に殉じるなんて、三十のオッサンには信じられねえんだよ。……誰もが、自分だけの不運と……守りてえモンを抱えて生きてるんだ」


制御を失った球は、エイトの『18番』をわずかに飛び越え、迷うことなく吸い込まれた。

そこは、兵士が死に物狂いで守ろうとし、そしてエイトが「確信」していた、死神の住処。


――『56』。


「……チェックメイトだ、バルトロ」


――カチリ。


【天の声8】

[ 判定:クリティカル。……敵陣『隠伏爆弾』への直撃。 ]


次の瞬間。

バルトロの足下の鉄板が、内側から噴き出す紅蓮の炎によって爆ぜた。


「グ、……オォォォォォォォォッ!!」


断末魔の叫びと共に、巨漢の執行官と九人の兵士、そして巨大な鉄の塔が、軍事区の暗雲へと真っ逆さまに墜落していく。

爆風に煽られながら、エイトは崩れかけた自陣の鉄板に横たわり、鉛色の空を見上げた。


「……ハッ、……ざまぁねえな……」


右目の視界は完全に消失し、意識が遠のく。

だが、耳に届いたのは、軍事区を呪縛していた巨大な歯車が、その回転を止める鈍い金属音だった。

第37話、お読みいただきありがとうございました。

バルトロを撃破し、軍事区の歯車を止めたエイト。

しかし、その代償はあまりに大きく……。


次回、第38話。

静まり返った監獄広場。墜落したバルトロの残骸の向こうから、エイトを呼ぶ三奈と樹の声が聞こえます。

再会した二人が目にするのは、血塗れで倒れ、右目の光を失ったエイトの姿でした。


物語は、フォルトゥーナを揺るがす更なる事態へと進みます!

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