第36話:規律の崩壊、博徒の連鎖(ビンゴ)
軍事区中央広場に聳え立った二本の鉄塔。それは、執行官バルトロが提示した死の遊戯盤『爆裂陣取りビンゴ』のステージでした。
戦闘力「5」のエイトにとって、この高所はそれだけで致命的なリスク。
知略と運、そして僅かな寿命を天秤にかけ、エイトは「集団」という怪物に挑みます。
蒸気と鉄の匂いが充満する軍事区中央広場。
エイトとバルトロは、地上三十メートルにまで競り上がった「九マスの鉄板」の上に立っていた。足下は格子状の隙間から遥か下の石畳が見え、強風が三十歳の痩せた体を容赦なく煽る。
【天の声8】
[ ルール確認:『爆裂陣取りビンゴ』 ]
[ 1. 両者は1から63までの数字を、自陣の3x3(九マス)に自由に配置。一箇所に『隠伏爆弾』を設置。 ]
[ 2. ルーレットで選ばれた数字が自陣にあれば点灯。ラインが揃えば『ビンゴ』となり、相手の対応ラインを爆破する。 ]
[ 3. 相手の『隠伏爆弾』の数字を当てた場合、その瞬間に塔が崩壊し、即座に敗北。 ]
「……ヒュウ、高さだけは一丁前だな。バルトロ、その重そうな鎧で落ちたら、さぞいい音がしそうだ」
エイトは右目のノイズを堪え、震える指で煙草に火をつけた。
対するバルトロは、微動だにせず斧を傍らに置いている。彼の周囲のマスには、精鋭の兵士たちが「数字」を背負って直立していた。
「……規律に乱れはない。私は我が軍の精鋭九名に、私の意識(ナンバー11)を分配した。この盤面は、私という一つの生命体の細胞に等しい」
「……へえ。じゃあ、一人が痛がれば、あんたも痛いってわけか」
エイトは手元の操作盤で、自陣の数字を配置していく。
視線は常にバルトロの背後に並ぶ九人の兵士を舐めるように動いていた。
(……「11」の並列化。一見無敵だが、意識を共有してるなら、どこかに「偏り」が出るはずだ。……隠伏爆弾のマスに立つ奴は、無意識に重心が守りに入るか、あるいは……)
エイトはバルトロの右斜め後ろ、ナンバー『56』を背負った兵士の、僅かな「瞬きの回数」の多さを見逃さなかった。
【第一投:規律の弾丸】
広場中央の巨大なルーレットが回転を始める。
重厚な金属音と共に放たれた球は、バルトロの「規律」を反映するように、物理法則に従って冷酷に跳ねる。
「……チェック。まずは貴様の足場から削らせてもらおう」
「『11』……『45』……『3』」
次々と数字が呼ばれる。バルトロの陣地は、着々と「点灯」を増やしていく。
エイトは自陣の数字が呼ばれるたび、足下の鉄板が熱を帯びるのを感じていた。
【天の声8】
[ 演算:次の一投、確率22%であなたの『爆弾』の数字(18)に球が吸い込まれます。……回避しますか? ]
(……回避、じゃねえ。運命が避けてくさ)
エイトは奥歯を噛み締める。
ルーレットの盤面を凝視し、球の回転速度、摩擦係数、風向きを『天の声8』の演算と同期させる。
「……ジャッジ。球の左側に、コンマ一ミリ分の『因果の摩擦』を乗せろ……ッ!」
【天の声8】
[ 消費精神力:18%。……介入開始。球の軌道を0.4度外側へスライドさせます。 ]
脳を針で刺されたような激痛。
だが、その微細な干渉により、球は『18』のポケットの縁をなぞるように弾け――隣の『56』へと滑り込むかと思われたが縁を蹴ってその隣の『2』へ入る。
【第二節:連鎖の引き金】
「……っ!?」
バルトロが初めて眉を動かした。
エイトが選んだのは、自分の爆弾を避けるついでに、先程見抜いたバルトロの「爆弾」の可能性が高い数字を叩くことだった。
「(……当たりか?)……あんたのその完璧な軍隊、一箇所だけ『心拍数』が上がってる奴がいたぜ」
「……貴様、まさか……!」
『2』のマスが、眩い紅蓮に染まる。
バルトロが並列化で繋いでいた兵士たちの間に、初めて「動揺」というノイズが走った。隠伏爆弾の設置場所がバレた恐怖が、全兵士を通してバルトロへ逆流する。
「……まぁいい、爆弾が当たらなくても、これで『ビンゴ』のリーチだ。……アンタが規律を守ろうとすればするほど、お前の『不運』は伝染していくんだよ」
エイトは血の混じった唾を吐き捨て、次のルーレットを見据える。
戦闘力5。残る精神力は半分以下。
だが、盤面の支配権(マスター権限)は、確実にこの三十路の博徒の手に移りつつあった。
第36話、お読みいただきありがとうございました。
自分の爆弾を避けつつ、相手の弱点を突く。博打としての駆け引きがより鮮明になったかと思います。
バルトロの「並列化」が、強みから弱点(恐怖の伝染)へと変わりつつある展開です。
次回、第37話。
崩れ始めるバルトロの規律。そして、追い詰められたバルトロが放つ、ナンバー11の「真の能力」とは。
軍事区編、いよいよクライマックスへ!




