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『戦闘力5の三十路ギャンブラー、異世界で「命の代償」を強いる――最強の騎士も魔王も、俺の賭場からは逃げられない』  作者: 仁胡 黒


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第34話:断筆の代償、死に損ないの地図(マップ)

鼠が操るルールブックは女神七花の権能の力。

自分の力ではない鼠の不完全なストーリー進行に抗うエイト。

進化した天の声8の助けを借りて不利なバトルを書き換える。

暗い路地裏の幻影が、ノイズと共に崩壊していく。

エイトの眼前に展開されていた羊皮紙は、燃え盛るように真っ赤なエラー文字で埋め尽くされていた。


「バ、バカな……! 女神様の『法典』が、書き換えられるなんてあり得ない! 判定は絶対なんだ、神のダイスは曲がらないはずだ……!」


鼠が狂ったようにペンを走らせるが、インクは紙に吸い込まれず、血のように床へ滴り落ちる。

エイトは、止まることなく回転を続ける三つのダイスを冷ややかに見下ろした。


「……鼠。お前の言う通り、神のダイスは曲がらねえんだろうな。だが、止まらねえダイスならここにある。……お前が勝つという『結末』に辿り着かせねえ。それが俺の『8』だ」


エイトが一歩踏み出す。

その足取りは重い。右目の視界はノイズで砂嵐のように霞み、削られた寿命の分だけ、魂が薄氷の上を歩いているような心許なさを感じている。


【天の声8】

[ 警告:因果の過負荷。……あなたの存在確率が0.01%単位で剥離しています。……これ以上の『無限リロール』の維持は、勝利の前にあなたの自己崩壊を招きます。 ]


(……一瞬でいい。このネズミが喉元を差し出すまで、俺を繋ぎ止めておけ)


「ヒィッ、来るな! 来るなよ! ――強制イベント発動だ! 第四章『奈落への墜落』! プレイヤーは足元の床を失い、無間の闇へと消える! 難易度(DC)は30だ! 絶対に成功なんてさせないぞ!」


鼠が叫ぶと同時に、カードショップの床がドロドロと溶け始めた。

だが、エイトは止まらない。溶け落ちる床を、空中に浮遊する「確定しないダイス」を足場にして飛び越える。


「……判定の必要はねえ。この物語は、もう俺が書いている」


エイトの手が鼠の首を掴んだ。

その瞬間、回転していたダイスが突如として静止する。

三つともが、あり得ないはずの『8』の目を――ダイスの構造を無視して刻まれた、無限の記号を曝け出していた。


■ 決着:マスター権限の強奪

「あ……あ……」


鼠の持つ『因果の法典ルールブック』が、内側から発火した。

エイトの『8』が、鼠の管理権限を強引に引き剥がし、システムそのものを逆流させたのだ。


【天の声8】

[ 同調シンクロ完了。……『因果の法典』の内部データを強制抽出します。……解析中。 ]


エイトの脳内に、猛烈な勢いでデータが流れ込んでくる。

それはフォルトゥーナという街の「裏の設計図」。

七花が張り巡らせた、この世界を縛る五つの枷の正体。


「……が、ああああッ!!」


鼠の体が、ボロボロと文字データに崩れていく。

彼は「物語の完結」という、自分自身が設定したルールに飲み込まれたのだ。

エイトは鼠が消えゆく間際、その耳元で静かに囁いた。


「……次の因果でニカに会ったら、伝えてくれ。……案外、この世界のギャンブルも悪くねえってな」


鼠は絶叫と共に、一塊の黒い灰となって消滅した。

後に残されたのは、ボロボロに焼け焦げたルールブックの残骸と、エイトの脳内に刻まれた鮮明な地図だけだった。


■ 侵食の爪痕

静寂が戻った地下室で、エイトは壁に寄りかかり、激しく咳き込んだ。

右目はもはや光を捉えず、激痛だけを伝えてくる。

鏡を見るまでもなく分かる。自分の命が、あの日現世で一美を救えなかった時と同じように、取り返しのつかない形で欠け落ちたことが。


【天の声8】

[ 抽出完了。……第一の封印区画が判明しました。 ]

[ フォルトゥーナ北東部、軍事区。通称『鉄錆の監獄アイアン・プリズン』。管理者はナンバー11、バルトロ。 ]


「……『11』か。……上等だ、数字がなんだろうが関係ねえ」


エイトはふらつく足取りで、店を出た。

地下三層の掃き溜めから見上げる地上は、相変わらず眩しく、嘘に満ちている。


(……三奈、樹。……すまねえが、もう少しだけ待ってろ。……一人で行くって決めたんだ)


だが、エイトは知らなかった。

彼が地下で命を削っていたその時、地上では――。


【フォルトゥーナ・外縁部】

「……嫌。……私、マスターが一人で行くなんて、絶対に見過ごせない」


三奈が、震える拳を握りしめていた。

その横では、黄金に染まった腕を布で隠した樹が、静かに、だが鋭い眼光で北東の空を見つめている。


「……エイトさんは、私たちを『幸運』の呪いから守るつもりでしょう。けれど、それは逆です。……彼が一人で『不運』を背負いすぎる。……三奈さん、行きましょう。……私たちの『数字』を、完成させるために」


三奈の瞳に、エイトが見せたことのないような、暗く深い執念が宿る。


「……うん。……マスターが私を必要ないって言うなら……私が、マスターを『必要』な体に書き換えてあげる」


エイトが拒絶したことで、少女たちの因果もまた、歪な形で覚醒を始めていた。

第34話、お読みいただきありがとうございました。


鼠とのバトルの決着。エイトが勝利を手にしたものの、その代償は「寿命」だけでなく、自分を慕う三奈たちの執着を「歪ませる」という形でも現れ始めました。


ついに明かされた次なる目的地、軍事区『鉄錆の監獄』。

そこを統べるナンバー11、バルトロは、鼠のような小物ではなく、本物の武力と恐怖で支配する「執行官」です。


次回、第35話。

監獄都市に潜入したエイトを待ち受けるのは、理屈の通じない「死の審判」。

そして、別行動を開始した三奈と樹が、禁断の「数字の強化」に手を染める……!?


物語はここから、さらに激しい「ナンバー持ち」同士の抗争へと突入します。

どうぞお楽しみに!

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