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『戦闘力5の三十路ギャンブラー、異世界で「命の代償」を強いる――最強の騎士も魔王も、俺の賭場からは逃げられない』  作者: 仁胡 黒


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第32話:因果の取立人(コレクター)、奪われた羅針盤

最愛の少女・イチカを連れ去られ、かつての「一美の惨劇」の再来を突きつけられたエイト。

女神セブン――厭生七花が支配するこの街で、彼は自分を支えていた数少ない繋がりを一つずつ断たれていきます。

現実を知る男が選んだのは、己の命そのものをチップに変える非情な博打でした。

イチカが消えたVIPルームには、静寂だけが突き刺さっていた。

三奈は己の不運に打ちひしがれて膝をつき、樹はひび割れた腕を抱えて黙り込んでいる。エイトは、イチカが座っていた空の椅子を、ただ網膜に焼き付けるように見つめていた。

「……三奈、樹。立て」

低く、乾いた声。

エイトの瞳からは光が消え、代わりに底の見えない漆黒の殺意が揺らめいている。

「マスター……ごめんなさい、私が、もっと……」

「謝るな。あいつの『幸運』は、今の俺たちじゃどうしようもねえ」

エイトはニカの行方を求めてカジノのフロアへ戻った。だが、そこに不敵に笑う相棒の姿はなかった。

あるのは、ニカが愛飲していた毒酒のグラスと、カウンターに残された一枚のメッセージカードだけだ。

『――不運なことに、彼は私の機嫌を損ねてしまったわ。彼のような不純物は、私の世界には必要ないの。――七花』

「ニカまで……消されたって言うのかよ」

エイトはカウンターの裏、ニカが座っていた椅子の脚に、微かな「書き換え」の痕跡を見つけた。

ニカが最期に、自分の『数字』を削って残した因果の座標。

[ 座標:フォルトゥーナ地下三層。情報屋の『ラット』。……七花の城への地図を、奴が握っている。また、次の因果で会おうぜ… ]

「ああ、ニカ…先に待っててくれ」


エイトは三奈と樹に向き合った。

「二人とも。ここから先は俺一人で行く。三奈、お前は街の外で身を隠せ。樹、お前は……その腕を治すのが先だ」

「何言ってるの!? そんなの、絶対無理! 私はマスターを守るために――」

「三奈!」

エイトの静かな、だが逃げ場のない怒号に、三奈が肩を震わせる。

「七花の標的は俺だ。お前らがそばにいれば、あいつは何度でも『不運』を押し付けてくる。これ以上、俺のために壊れるお前らを見たくねえんだ」

三奈の目から涙が零れる。樹は静かに、エイトの決意をその黄金の瞳で見つめ返していた。二人の制止を振り切り、エイトは地下の闇へと足を踏み入れた。

……

【地下三層:廃棄賭場『無間の底』】

そこは、フォルトゥーナの華やかさから見捨てられた、数字ナンバーを剥奪された敗者たちの掃き溜めだった。

悪臭と錆びた鉄の匂いが充満する中、エイトは一軒のカビ臭いカードショップへ入った。

「……ニカの紹介で来た。ラットはどこだ?」

奥から、背中の曲がった小柄な男が這い出してきた。全身に電子デバイスのコードを巻き付けた男は、エイトを見るなり卑屈な笑みを浮かべた。

「ヒッヒッ……ニカさんの紹介か。だがねぇ、お客さん。あの人はもう『消えた』。死人の紹介料じゃあ、俺の口は開かねえよ」

「……金が欲しいのか?」

「いいや、金なんて不確かなもんは信じねえ。俺が欲しいのは……『寿命』だ」

鼠がテーブルに並べたのは、三つの黒いダイス。ダイスには数字ではなく、血管のような赤い回路が刻まれている。

「情報屋の鼠様と勝負だ。あんたが勝てば、女神様の居城へのバックドアのコードをくれてやる。だが、あんたが負ければ……あんたの余命10年分を、このダイスに吸わせてもらう」

エイトは無言で席に着いた。その瞬間、脳内にシステム音声が告げる。

【システム案内が改変しますた。今後は天の声8となりまふ】

透き通るような女性の声が響く。

【天の声8】

[ 解析開始。対象が提示したダイス『クロノス・キューブ』。内部にナノサイズの重力偏向装置を確認。……期待値は極めて低いです。 ]

(……知ってるよ。博打ってのは、イカサマを見抜くところから始まるんだ)

【天の声8】

[ 了解。周囲の因果律に干渉します。実行権限『8』。あなたの視神経に、ダイスの重心と軌道の予測データをオーバーレイします。 ]

エイトの視界に、幾何学的なラインが浮かび上がる。

「いいぜ、乗ってやる。10年じゃ足りねえ。俺の寿命の半分を全部賭けてやる」

「ヒッ……? ……は、半分!? あんた、正気かよ!」

「正気じゃあ、七花のストーカーなんてやってられねえんだよ」

エイトがダイスをカップに入れ、激しく振る。

鼠の顔が驚愕に歪む。彼が仕込んだ電子的な重心制御が、エイトが持つ『8』の振動――無限の循環――によって完全に相殺されていた。

「さあ、始めようぜ。どっちの寿命が先に尽きるか、根比べだ」

エイトの瞳に、冷徹な復讐の炎が宿った。


第32話、お読みいただきありがとうございました。

ニカの失踪、そして三奈・樹との一時的な別れ。エイトを物理的にも精神的にも追い詰め、孤立させることで、彼の中に眠る「博徒の本能」と、【天の声8】とのシンクロ率を高めていく展開を目指しました。

今回の対戦相手『鼠』とのバトルは、単なる勝ち負けではなく、エイトが「失うことを恐れない」という狂気を手に入れたことを示す重要な一戦です。寿命を賭け金にするという非情なルールの中で、エイトがどうやって情報のバックドアを抉じ開けるのか。

次回、第33話。

加速する『寿命賭博』。鼠が隠し持っていた「七花の過去」に関する極秘データが、エイトをさらなる衝撃へと導きます。

そして、エイトに拒絶された三奈と樹が、独自のルートでエイトを追い始める――!?

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