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『戦闘力5の三十路ギャンブラー、異世界で「命の代償」を強いる――最強の騎士も魔王も、俺の賭場からは逃げられない』  作者: 仁胡 黒


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第31話:七の記憶、執着の極北

『統治権・ポーカー』という死線を越えた先に待っていたのは、勝利の余韻をかき消す最悪の再会でした。

かつて現世で、エイトが守ろうとして、そして守りきれなかった少女・一美。

あの惨劇の夜、闇に潜んでいた本当の「怪物」が、神の数字を冠してエイトの前に現れます。

エイトが背負い続けてきた「救えなかった後悔」さえも、彼女にとっては愛のスパイスに過ぎなかったのか。

狂気の愛が世界を塗り替える、フォルトゥーナ編の真の開幕です。

「……VIPルームだと? 笑えねえ冗談だ」

カジノの最上階へ向かうエレベーターの中で、エイトは血の混じった唾を吐き捨てた。

隣には、殺気を隠さない三奈と、泰然自若としながらも周囲を圧する樹。そして三奈の背で、まだ眠り続けるイチカ。

『――ようこそ。ずっと、ずっと……待っていたわ。エイト君――』

扉が開いた瞬間、甘ったるい香水の匂いが鼻を突いた。

そこは豪華絢爛な装飾が施されながらも、どこか病院の無菌室のような、薄気味悪い清潔さに満ちた部屋だった。

部屋の中央、ティーテーブルに腰掛けていた女性が、ゆっくりとこちらを振り向いた。

「……あ、……」

エイトの視界が、ぐらりと揺れた。

脳内に響く「天の声」が、かつてないほどの激しい警告音を鳴らす。

【 警告:……ザー……計測不能な因果の干渉を確認……。……この個体は……キケン、…… 】

「あら、そんなに震えて。……でも無理ないわよね。あの日、あんなに怖がらせちゃったもの」

女神セブン――いや、その女は優雅に立ち上がり、黄金の瞳でエイトを射抜いた。

その顔は、エイトが一生忘れることのできない、あの惨劇の夜に一瞬だけ街灯の下で見えた「影」そのものだった。

「……厭生いとう……七花ななか

エイトの喉が、引き攣った音を立てる。

現世での記憶。一美という少女をストーカーから守ろうとして、結局救えなかった、あの雨の夜。

エイトは一美を狙う「何者か」を必死に追っていた。だが、違ったのだ。

「エイト君は本当に優しいわ。一美さんのこと、一生懸命守ろうとしてたものね。……でも残念。私が殺したかったのは彼女じゃないの。彼女を殺せば、あなたが絶望して、私のことだけを見てくれると思ったから」

「……何だと……?」

「 ふふ、私はあなたをずっと見ていた。あなたが彼女に向ける笑顔が、私のものになればいいのにって。だからあの日、彼女を消したの。……そして、あなたをこの世界へ招待した。私だけの神様エイトにするために」

七花は恍惚とした表情で、エイトに歩み寄る。

「ちょっと! 近寄らないで!」

三奈が叫び、指先から黒糸を放つ。樹も同時に、空気を破裂させるような剛拳を叩きつけた。

だが。

「……不運ね」

七花が指を鳴らす。

次の瞬間、三奈の糸は自身の脚に絡まり、彼女はその場に転倒した。樹の拳は、ありえない角度で滑った床のせいで空を切り、自重で自身の腕に亀裂を走らせる。

『確率』を支配する。彼女の周囲では、物理法則さえも彼女の「幸運」へと強制的に書き換えられるのだ。

「……三奈! 樹!」

「……いいのよ、そんな低い数字の女たちは。……それよりも、その子が一番邪魔ね」

七花の視線が、三奈の背負うイチカに固定される。

「エイト君を支える『1』。私の愛を邪魔する、不潔な因果の混じり物……」

「……やめろ、七花! ターゲットは俺だろうが!」

エイトが割って入ろうとするが、足が動かない。床が磁石のようにエイトを吸い付け、一歩も前に進ませない。

「……エイト」

その時、イチカの目が開いた。

彼女は弱々しく、しかしはっきりと、自分を呼ぶエイトの名を呼んだ。

「イチカ!」

「……逃げて……。この女は……『システム』そのもの……」

「あら、起きたのね。でもお別れよ、泥棒猫。エイト君の隣は、私の指定席なの」

七花が手をかざすと、イチカの体が重力に逆らって宙へ浮き上がる。

「……返せ! イチカを返せ!」

エイトは『8』の能力を無理やり起動しようとするが、脳を焼くような痛みが走るだけだった。七花の権限は、エイトが持つ書き換え能力の遥か上位にある。

「この子は、私のコレクションにするわ。エイト君が泣いて私に縋るまで、大切に飼ってあげる。……あの日と同じように、また何も救えなかった絶望に溺れて、私を呼んで?」

「……テメェ!!」

エイトの叫びを嘲笑うように、七花の背後に巨大な『7』のゲートが出現する。

「また会いましょう、エイト君。次は、あなたが全部捨てて私のところに来るのを待ってるわね。……愛してるわ」

光が収まったとき、そこには動けなくなった三奈と樹、そして――イチカの温もりが消えた、空っぽのテーブルだけが残されていた。

エイトは膝をつき、拳を床に叩きつけた。

「……厭生……七花……っ!」

救えなかった一美。そして、今また奪われたイチカ。

最弱の男の、真の意味での「復讐」が、ここから始まる。

第31話、お読みいただきありがとうございました。

ついに明かされた、現世から続く因縁の真実。

エイトが背負っていた後悔は、七花という歪んだ執着心によって意図的に作り出されたものでした。自分を愛させるために、周囲のすべてを壊す女。その狂気が、天界のシステムと結びつき、絶対的な「女神」として君臨しています。

イチカという絶対の光を奪われ、再び「無力な自分」を突きつけられたエイト。

しかし、今回の彼は独りではありません。ニカ、三奈、そして樹。

次回、第32話。

奪われたイチカを取り戻すため、エイトはギャンブラーとしてではなく、一人の「男」として、天界のルールを破壊する作戦に打って出ます。

「神殺しの攻略法」、開幕です。

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