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『戦闘力5の三十路ギャンブラー、異世界で「命の代償」を強いる――最強の騎士も魔王も、俺の賭場からは逃げられない』  作者: 仁胡 黒


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【第29話:不落の乙女と、無頼の本能】

第29話をお読みいただきありがとうございます。

満身創痍の一行の前に現れたのは、美しき不動の城壁。

新たなヒロインが登場し火花を散らす、新たな騒動の幕開けです。

天界の審判を退けた荒野に、重苦しい静寂が戻っていた。

エイトは、三奈の肩を借りて辛うじて立っていた。全身の骨が軋み、視界は端から欠けていくような極限状態。だが、休んでいる暇はない。天界の追っ手が引いた後の荒野は、法も理も通用しない「ハイエナ」たちの巣窟と化すからだ。

「……マスター、少し向こうが騒がしいよ。……どうする? 避けて通る?」

三奈が鋭い視線を向けた先。岩陰に隠れるようにして、武装した賊の集団が誰かを囲んでいた。

「……放っておけ。……今の俺たちに、他人の世話を焼く余裕はねえ」

眠るイチカをちらっと見てエイトが吐き捨てるように言った、その時。

円陣の中心から、場違いなほどにおっとりとした女性の声が聞こえてきた。

「あら、あらあら……。あのお、その物騒な棒を振り回すのは危ないですよぉ? 当たったらお怪我をしてしまいます」

「ガタガタ抜かすな、この女! さっさと身ぐるみを剥がせ!」

賊の一人が、殺意に満ちた大斧を彼女の肩へと振り下ろした。

凄まじい衝撃音が響き、砂埃が舞う。……しかし、悲鳴は上がらなかった。

「……え?」

賊が目を見開く。

斧の刃は、彼女の白い肌に食い込むどころか、まるで鋼鉄の塊にぶつかったかのように、根元からバキリと折れ曲がっていた。

そこに立っていたのは、豊かな髪を揺らし、困ったように微笑む大人の女性だった。

「おや……。せっかくのお道具が壊れてしまいましたね。……でも、私のせいで怪我はありませんでしたか?」

「化け物めっ! 全員でかかれ! 殺せ!」

賊たちが一斉に槍や剣を突き出す。だが、樹は避ける素振りすら見せない。

キン、カン、と硬質な音を立てて武器が弾かれ、逆に賊たちの腕が痺れて痺れを切らしていく。

彼女は「あらあら」と、まるでお散歩の途中で雨に降られたような顔で、その蹂躙(?)を見つめていた。

「……あいつ、何なんだ。……特殊能力か?」

エイトが唖然とする。三奈も、暗殺者としての本能が警鐘を鳴らしていた。

「……マスター、あいつ、ヤバい。物理的な防御力が異常だよ。……でも、あいつ……」

その時だった。

乱戦の陰に隠れていた賊のリーダー格が、魔力を込めた黒い短剣を抜き放った。

狙いは、樹が無防備に晒している背中。……それも、因果を無視して防御を貫通する、呪いの暗殺具だった。

「死ね、化け物!」

彼女は、まだ気づいていない。

「……チッ、面倒な…!」

気づけば、エイトは三奈の静止を振り切り、駆け出していた。

ボロボロの体、戦闘力5。本来なら、死地へ飛び込むなど狂気の沙汰だ。

だが、無防備な背中を狙う卑劣な刃を、この男が黙って見ていられるはずがなかった。

「……あぶねえだろ、馬鹿野郎が!」

「え……?」

彼女が振り返った瞬間。

その視界に飛び込んできたのは、自分を庇うように背後に立ち、振り下ろされる黒い刃に自らの額で柄の部分を受け止めた男の背中だった。

鈍い音と共に、エイトの額から鮮血が吹き出し、女の頬に一筋の紅を引く。

「……が、……っ、……はは、……やっぱり、……効くなぁ……」

エイトがよろりと膝をつく。額から流れる血が、その鋭い眼光をさらに凄絶なものに変えていた。

賊のリーダーは、自慢の暗殺具を「戦闘力5のゴミ」に防がれたことに驚愕し、腰を抜かして後ずさった。

「マ、マスター!!」

三奈が背後から飛び出し、一瞬で賊の喉元を黒糸で切り裂く。周囲の賊も、三奈の狂気に満ちた殺意に飲まれ、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

静寂が戻る。

彼女は、目の前で血を流しながらも、不敵に笑うエイトを呆然と見つめていた。

「……あ、あの……。大丈夫ですか? ……私、頑丈さと力には自信があるんです。放っておいても、平気だったのに……」

彼女の声が震えていた。

今まで出会った誰もが、彼女を「化け物」と呼び、あるいは利用しようとしてきた。

彼女を守ろうとした者など、これまでの人生で一人もいなかったのだ。

エイトは、乱暴に額の血を拭うと、ぶっきらぼうに言い放った。

「……関係ねえ。……女を守るのに、理由がいるかよ。……男の、意地だ。……文句あんのか?」

エイトは、ふらつきながらも女へ顔を向けた。

その瞬間、彼女の目にはエイトがとてつもなく巨大な、そして温かい存在に見えた。

「……女性、として……」

彼女の頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。

胸元をぎゅっと押さえ、潤んだ瞳でエイトを凝視した。

「……私はいつきです。……あなたは……えーと……」

「……『えーと』じゃねえ。……エイトだ」

名前を間違えられた(と思い込んだ)エイトが、照れ隠しに声を荒らげる。

そのやり取りを、樹は噛みしめるように何度も反芻した。

「エイトさん! ……決めました、私はあなたのお嫁さんになります。ふふふっ。」

「…………はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

エイトの絶叫が荒野に響き渡った。

隣で三奈の殺気が一気に膨れ上がり、手に持った暗殺用の糸がギリギリと音を立てる。

「……ちょっと、おばさん! 今、なんて言ったの!? 掃除されたいの!? 粉々にされたいの!?」

「まぁ、元気な妹さんですね。……エイトさん、私、お料理も得意なんですよぉ。剛力なので、岩でも何でもすり潰せますから」

「そんなもん食えるか!!」

血まみれの博徒と、愛に狂った暗殺者。

そこに、あらゆる攻撃を無効化する天然の「嫁」候補が加わった。

エイトのギャンブル人生、ここにきて最大級の「トラブル」が押し寄せようとしていた。

第29話、いかがでしたでしょうか。

エイトの「女を守るのは男の意地」…惚れてしまいます。


次回、第30話。

強引にパーティーに居座る樹と、面白くない三奈。

そんな彼女たちが辿り着いた次の街で待っていたのは、ニカが用意した「一攫千金の特等席」でした。

お楽しみに!

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