第27話:因果の断層、粛清者の足音
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禁忌の儀式の裏側で繰り広げられる、三奈の「お掃除」タイム。
天界の粛清者を相手に、三奈は一切の容赦なくその毒舌と圧倒的な力を見せつけます。
しかし、天界の執念は、さらなる上位存在の介入を招いていました。
ガランの小屋の中に、物理法則を無視した極彩色の光が渦巻いていた。
儀式台の中央で宙に浮くイチカの胸元には、リボルから奪い取った『13』の結晶が、まるで生き物のように脈動しながら沈み込んでいく。
「ぐっ、……あ、あぁぁ……っ!」
イチカの苦悶の声が、狭い小屋の中に反響する。
彼女の『器』が、異質な因果を取り込もうとして激しく拒絶反応を起こしているのだ。その余波は、周囲の空間さえも歪ませ、壁に掛けられた工具がガタガタと震え、床の石材には蜘蛛の巣状の亀裂が走っていた。
「耐えろ、イチカ! ……ガラン、まだか!」
「焦らすな、博徒! ……今、貴様の『8』の循環を、こいつの『13』の断絶に無理やり噛み合わせているところだ! 一歩間違えれば、貴様の腕ごと因果の渦に呑み込まれるぞ!」
ガランの魔導義手が、過負荷でバチバチと紫色の火花を散らしている。
エイトは、儀式台から伸びる光の奔流の中に右手を突っ込んでいた。
左手の『8』の紋章が、かつてないほどの熱を帯び、エイトの視界を真っ白に染め上げる。
戦闘力5。だが、今この瞬間、エイトの体内を流れる「運命の奔流」は、天界の計算式を遥かに上回る出力を叩き出していた。
「マスター……。右手の因果結合、90%を突破。……でも、外が騒がしくなってきたよ」
三奈が、エイトの背中にそっと寄り添う。
その声はいつになく低く、冷徹な響きを帯びていた。彼女の瞳は既に小屋の壁を透過し、崖の下から迫りくる「不浄な存在」を捉えている。
「……来たか。天界の回し者どもが」
「うん。……マスターは今、イチカちゃんとの連結で動けないもんね。……夜のベッドでも……痛い。動けないのにチョップしないで。まだ変なこと言ってない。」
涙目で抗議する三奈。…いや、変なこと言おうとしたろ…。
「まあ、今は我慢してあげる。……ここは、私の出番だね」
三奈はエイトの耳元で、甘く、情熱的に囁いた。
彼女の手が、エイトの肩からゆっくりと離れる。
その瞬間、三奈の纏う空気が一変した。
エイトに向ける慈愛に満ちた表情は消え、そこにあるのは、侵入者を塵一つ残さず排除しようとする、完璧な「暗殺者」の貌だった。
「三奈、無理はするなよ。」
「了解。……マスターの運命を汚す奴らは、一匹残らず『掃除』しちゃおう」
三奈は気配を遮断して小屋の扉を開け、荒野の断崖へと躍り出る。
外の空気が、不自然なほどに凍りついていた。
崖の下、砂埃を巻き上げて迫りくるのは、純白の法衣に身を包んだ集団。
天界の直属組織、異端粛清局『セラフィム』の実行部隊だ。
その先頭に立つのは、黄金の仮面を被り、身の丈を超える巨大な十字架型の魔導兵器を担いだ男だった。
「……見つけたぞ。天の理を乱すバグ共め。……誰かいるな?気配を消しても解るぞ…その小屋の中にいる『欠損した器』と、汚らわしい『8』の持ち主共々抹殺する」
黄金の仮面の男が、機械的な声で宣告する。
その足元からは、大地を割るほどの重圧が放たれていた。
三奈はその様子を、心底退屈そうに、そして蔑むような目で見下ろした。
彼女は自分の長い髪を指先で弄びながら、崖下の集団に向けて、可憐に、けれど猛毒を含んだ笑みを投げかける。
「……へえー、私のマスターを汚らわしいなんて言うなんて……よほど死にたいんだね…」
周囲が氷つくような三奈の言葉が発せられた瞬間、崖下の空気は一気に沸騰した。
天界の粛清者に対し、これほどまでに無礼な言葉を吐く存在など、この世界の常識ではあり得ないからだ。
「……何だと? 貴様、今の言葉を……」
「あはっ、耳まで腐ってるの? おっさん。……いいよ、何度でも言ってあげる。……そんな趣味の悪い仮面で顔を隠して、天界の犬やってる惨めなおっさん。……マスターを侮辱した罪で殺してあげる。」
三奈の罵倒は止まらない。
彼女にとって、エイト以外の存在は、利用価値があるか、排除対象であるかの二択でしかない。そして今、目の前でエイトを侮辱した「おっさん」は、彼女の中で最も優先度の高い「ゴミ」に分類された。
「……万死に値する。……全機、突撃! 周囲を、中の異端者は魂ごと消去せよ!」
黄金の仮面の男の号令と共に、白い法衣の集団が一斉に崖を駆け上がる。
その手には、高密度の魔力が充填された光の槍が握られていた。
「……掃除の時間だよ」
三奈が指を鳴らす。
次の瞬間、彼女の背後に展開されたのは、数千、数万という不可視の「黒糸」。
天界の技術を逆解析し、エイトとの主従関係の中で独自に進化させた、因果干渉糸だ。
「……あはははっ! ほらほら、どうしたの? 天界のエリートさんたち。……そんな鈍い動きじゃ、マスターの視界に入る資格すらないよ!」
三奈は舞うように崖の上を駆け、迫りくる槍を紙一重で回避していく。
彼女の手が振られるたびに、白い法衣の男たちが、まるで見えない刃に斬られたかのように、次々と血飛沫を上げて崩れ落ちていった。。
「くっ、……この悪魔め、ただのガキではないのか……!? 何だ、この不気味な魔力は……!」
「……おっさん。……一つ教えてあげる。……私のマスターはね、世界で一番格好良くて、一番運命に愛されてるんだよ。……そんな素敵な人を狙うなんて、……身の程を知りなよ」
三奈の瞳が、深紅の殺意に染まる。
彼女は黄金の仮面の男の目の前へと一瞬で肉薄し、その喉元に、因果を凍結させる鋭い指先を突き立てた。
「……が、はっ……!?」
「……さようなら、無能なおっさん。……地獄で自分の運命を呪いなよ」
三奈の指が弾ける。
凄まじい衝撃波が黄金の仮面を粉砕し、男の身体を崖下へと叩き落とした。
だが、三奈の表情に安堵の色はない。
彼女は視線を空へと向けた。
雲が割れ、そこから巨大な「光の輪」が降りてくる。
天界が、本気でこの「バグ」を消去するために、さらなる上位の力を差し向けてきたのだ。
「……うーん、しつこいなぁ。……でも、マスターが儀式を終えるまで、指一本触れさせないよ」
三奈は乱れた服を整え、不敵に微笑んだ。
背後の小屋からは、エイトの咆哮と、イチカの魂が安定へと向かう、純白の閃光が漏れ始めていた。
第27話、お読みいただきありがとうございます。
三奈の活躍する話になりました。
エイトの「運命力」を誰よりも信じているからこそ、彼を侮辱する者には容赦しない三奈の格好良さが伝わっていれば幸いです。
次回、第28話。
ついに儀式が完了。新たな力を得たイチカと、それを見届けるエイト。
しかし、空から降り注ぐ「天の審判」を前に、エイトは人生最大の、そして最も無謀な『賭け』を宣言します。
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お楽しみに!




