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『戦闘力5の三十路ギャンブラー、異世界で「命の代償」を強いる――最強の騎士も魔王も、俺の賭場からは逃げられない』  作者: 仁胡 黒


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第22話:死の六連奏(ロシアンルーレット)、確率の檻を穿つ指先

第22話をお読みいただきありがとうございます。

死神リボルとの、命を賭けたロシアンルーレット。

理不尽な先攻、そして天界システムを味方に付けたイカサマ。

決着に向けたカウントダウンが始める…。

「くくっ、……いいぜ。その『生き様』ってやつ、俺の弾丸で穴だらけにしてやんよ」


リボルの背後で、壁に埋め込まれた無数のスロットマシンが一斉に加速する。

リールが回転するたびに、地響きのような唸りが大広間を満たし、侵入者の神経をじりじりと削り取っていく。ここは、ただの迷宮ではない。天界システムが人間という『駒』を使って、運命の収束を愉しむための巨大な賭場なのだ。


「マスター……。この空気、やっぱりおかしい。あいつの周りだけ、確率の『波』が止まって見える……。これ、まともにやったら絶対に負ける……」


三奈が俺の腕を軽く叩きながら、小声で忠告してくる。彼女の瞳には、いつもの飄々とした余裕はなく、この異様な空間に対する本能的な忌避感が滲んでいた。彼女にとって、この主従関係という『遊び』を続けるためにも、ここで俺に死なれては困るのだろう。


「わかってるさ、三奈。……だが、ギャンブルってのは、理不尽であればあるほど『綻び』が出るもんさ」

「エイト…、気を付けて…」


俺はイチカの震える手を優しく解き、一歩、また一歩とリボルが座る鉄屑の玉座へと近づいていく。

足元を流れる回収溝からは、先ほど消滅した男の『成れの果て』である魔力の残滓が、冷たい風となって吹き上がっていた。


「さあ、席につけよ。敗北者ぁ………ルールは単純だ」


リボルが巨大な魔導リボルバーを、無造作にテーブル代わりの鉄板の上に置いた。

ガラン、と重厚な金属音が響く。その銃身には、不吉な管理番号13が刻まれ、内部からは時折、生き物の呻き声のような微かな駆動音が漏れていた。


薬室シリンダーは六つ。そのうちの一発に、俺の『魔力』と天界の『裁定』を込めた特製弾を込める。……あとは交互にこめかみに当てて、引き金を引く。……それだけだ。外せば、次の奴に回す。……当たりを引いた奴の『存在データ』は、この迷宮の一部として永久に再構築される。……シンプルだろぉ?」


「……ああ、分かりやすくていい。だが、先攻と後攻はどう決める? ……まさか、あんたが勝手に決めるわけじゃねえだろ?」


俺の問いに、リボルは三つの赤い瞳を爛々と輝かせた。


「ヒャハッ! 決まってるだろ。……こいつだ」


リボルがどこからか取り出したのは、一枚の錆びついたコインだった。

表面には『生』、裏面には『死』の文字が刻まれている。


「こいつを放り投げ、天が決めた順序に従う。『死』が出たら、テメエが先攻……文句はねえな?」


「マスター、あれはダメ! あいつのコイン、投げた瞬間に因果律を書き換える気配がする……。絶対に先攻(不利な方)を押し付けられる!」


三奈が焦ったように叫ぶ。だが、俺はそれを右手で制した。

イチカは恐怖で声も出せないようで、俺の背中で祈るように手を組んでいる。


「……いいぜ。投げろよ」


俺が頷くと同時に、リボルがコインを高く弾いた。

カラン、カラン、という高い音が、迷宮の静寂の中で異常なほど長く響く。

スローモーションのように回転するコイン。その軌道が、明らかに不自然な『力』によって歪められ、俺の目の前へと落ちてきた。


刻まれていたのは――『死』。


「くくっ……。天界はテメーに『先攻』という名の死刑宣告を下したようだぜ、8番よぉ。……さあ、選べ。その震える手で、自分の運命を回しやがれ」


リボルが嘲笑いながら、魔導銃を差し出してくる。

一発。確率は六分の一。

だが、三奈が指摘した通り、この空間そのものがリボルの味方をしているのなら、その確率はもはや意味をなさない。


俺は、冷たく重い魔導銃を手に取った。

掌から伝わるのは、おぞましいほどの殺意と、拒絶。

シリンダーを軽く回すと、チチチ……という、心臓の鼓動を急かすような音が響いた。


(……待てよ。この感覚……)


俺は、シリンダーが止まる瞬間の『重さ』の偏りに、僅かな違和感を覚えた。

普通の銃なら、弾が入っている薬室が重心の影響を受ける。だが、これは魔導銃だ。因果そのものを弾丸にしているはずの。


俺はチラリと、背後の三奈に視線を送った。

三奈は俺の意図を察したのか、一瞬だけ瞳の奥に鋭い知性を宿らせ、小さく、本当に小さく頷いた。彼女の『見立て』も、この銃の異常を捉えたらしい。


「……どうした? 怖じ気づいたか? さっさと引けよ。それとも、後ろの女どもに身代わりでも頼むかぁ?」


「……まさか。……これは俺のギャンブルだ、誰にも譲る気はねえよ…」


俺は、魔導銃をゆっくりと自分の右のこめかみに当てた。

銃口の冷たさが、思考を研ぎ澄ませていく。


(戦闘力5の俺が、この化け物に勝つ唯一の方法……。それは、確率を信じることじゃない。……こいつが敷いた『レール』を、逆方向に全力で走り抜けることだ)


俺は目を閉じ、指先に意識を集中させた。

イチカの「負けないで、エイト……!」という悲鳴に近い祈りが聞こえる。

三奈が、いつでも俺の身体を回収できるように、魔力の糸を指先に隠しているのも見えた。


「……じゃあ、一発目。……頂くぜ」


カチリ。


静寂を切り裂く、乾いた撃鉄の音。


――弾は、出なかった。


「……ふぅ。……一発目、セーフだ。……あんたの番だぜ、リボル」


俺は、背中を流れる冷や汗を拭うこともせず、不敵な笑みを浮かべて銃をテーブルへ戻した。

リボルの赤い瞳が、僅かに細められる。

「……ほう。運だけは良いらしいじゃねえか。……だが、次はねえぜ」


リボルが、大きな手で銃を掴み取る。

その瞬間、俺は確信した。

こいつは、シリンダーを回す時に『指先の魔力』で、弾丸の位置を微妙にずらしている。

天界システムの力を借りた、絶対的なイカサマ。


だが、それこそが俺の狙いだ。

ルールを破る奴は、ルールによって自滅する。


「……三奈。……次は、もっと面白くなるぜ。……しっかりと見ておけよ」


俺の言葉に、三奈は「……マスター。うん、了解。一番特等席で、マスターの『勝ち筋』を見届けさせてもらう」と、いつもの調子を少しだけ取り戻して応えた。


絶体絶命の二発目。

シリンダーが再び回転し、死神の指先が引き金にかかる。

だが、俺はその時、リボルの背後のスロット台に映り込んだ『数字』の変化を見逃さなかった。

第22話、いかがでしたでしょうか。

システムの力で負けないリボル。エイトと三奈のコンビネーションで活路を見出す。

次回、第23話。

リボルの二発目。そして、エイトが仕掛ける『確率の罠』。

「イカサマにはイカサマを」――三十路の博徒が、死神の銃口を逆手に取る戦術とは!?

お楽しみに!

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