第20話:鉄錆の門、最初の検銭(チェック)
ついにたどり着いた『鉄錆の迷宮』。
入るだけでも「勝負の痕跡」を要求されるという、まさにギャンブラーのための監獄。
エイトは、かつての勝利の余韻を代償に、さらなる深淵へと足を踏み入れます。
朝日が昇る前。俺たちは宿場町ガイルを後にし、ジャックが指し示した西の荒野へと足を進めていた。
赤茶けた土と、時折混ざる錆びた鉄の破片。風に乗って流れてくるのは、草木の匂いではなく、鼻を突くような金属の腐食臭だ。
「……見えてきたよ、エイト。あれが……迷宮?」
イチカが足を止め、前方を指差した。
そこには、巨大な岩山の腹を無理やり抉じ開けたような、異様な口が開いていた。入り口を塞いでいるのは、幾重にも絡み合った太い鎖と、赤黒く錆びついた巨大な鉄門。
門の傍らには、石像のように動かない一人の門番が立っていた。
全身を継ぎ接ぎの鎧で覆い、手には不釣り合いなほど巨大な天秤を持っている。
「……止まれ。ここから先は、天界の遊技場だ」
門番の声は、兜の奥から響く機械的なものだった。
「入りたければ、まずは参加資格を示せ。持たざる者は、この門を潜ることは叶わぬ」
「……参加資格、ね。こいつのことか?」
俺は、王都でフォルシアンから奪った白銀のメダルを天秤の上に乗せようとした。だが、門番はその手を遮った。
「それは王都の法だ。ここでは通用せぬ。我らが求めるのは、貴公の命に刻まれた『勝負の痕跡』……勝ち取った証を立てよ」
門番が天秤を俺の前に差し出す。
俺は一瞬、眉を顰めたが、すぐにピンときた。あの強欲な王子から毟り取った「戦利品」こそが、この場所での通貨なのだ。
俺は懐から、あの絶体絶命のギャンブルを制した際に手に入れた、眩いばかりに輝く魔力の結晶を取り出した。
「……これで文句ねえだろ。俺たちの命をベットして、勝ち取ったチップだ」
俺がその結晶を天秤に乗せた瞬間。
カラン、という微かな音がして、天秤が大きく傾いた。
「判定、承認。王子のプライドをチップにした黄金の勝負……確かに受理した。貴公には、主の元へ至る挑戦権がある」
地響きを立てて、錆びついた鉄門がゆっくりとせり上がっていく。
門の向こう側からは、カジノの喧騒を何万倍にも増幅したような、狂気じみた回転音が漏れ聞こえてきた。
「……いくぞ、イチカ。ここからは、何があるかわからねぇ、油断するなよ」
「……うん。私、エイトの隣から離れないから」
俺たちは、鉄の匂いに満ちた迷宮の奥底へと、ゆっくりと歩みを進めた。
暗がりの奥で、不気味に赤く光る瞳が、俺たちを値踏みするように見つめていた。
第20話、お読みいただきありがとうございます。
エイトが手にした報酬は、単なる金銭ではなく、次の勝負への「切符」となる……。
次回、第21話。迷宮の深部で、ついに『13』のリボルが姿を現します。
お楽しみに!




