第19話:鉄錆(てつさび)の迷宮と、十三番目の死神
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新たな目的地『鉄錆の迷宮』。そこに君臨するのは、不吉な『13』を背負い、一度も死の弾丸を引き当てたことがないというリボル。
一美の命を繋ぐ触媒を求め、エイトは『天界』の悪意が渦巻く迷宮へと足を踏み入れます。
「……あんた、いいツラしてるな。……俺の指先を『骨の動き』で見抜くなんて、戦場帰りの傭兵でもそうはいかねえ」
ジャックは、自分も安酒を煽り、声を一段と潜めた。
「……いいか、よく聞け。この町から西へ半日歩いた場所に、『鉄錆の迷宮』って呼ばれる古代遺構がある。……元々はただの炭鉱だったんだが、数年前から様子が変わっちまった」
「……様子が変わった?」
イチカが、不安そうに身を乗り出す。
「ああ。……あそこは今、『天界』に色濃く汚染されてる。……迷宮全体が、まるで意思を持つ巨大な遊技場に変貌してやがるんだ。……しかも、そこを根城にしてる『主』が、最悪だ」
ジャックは、テーブルの上に指で『13』という不吉な数字をなぞった。
「管理番号000013。……通称『死神のリボル』。……ヤツは、迷宮に迷い込んだ冒険者に強制的なゲームを吹っかけ、負けた奴の魔力も、命も、まるごと奪い取ってやがる。……『6』のリクドウや『4』の王子がまともに見えるほど、ヤツの嗜好は狂ってるぜ」
『13』。
ニカの『2』から始まり、『4』、『6』と続いてきた偶数の系譜。だが、その果てに存在するのは、九を越え、十をも越えた未知の領域か。
…それと男が偶数とは限らないみたいだな。
「……そいつのゲームってのは、何だ?」
「……『ロシアンルーレット』。……といっても、ただの銃じゃねえ。……六つの薬室に、一発だけ『天界の制裁』を込めた魔導銃だ。……それを互いのこめかみに当て、運だけを頼りに引き金を引く。……ヤツはこの数年間、一度も『ハズレ』を引いたことがねえらしい」
「……一度も、ね。……そいつは運が良いか、あるいは……『天界』そのものを味方に付けてやがるかだ」
俺は、懐の銀貨を弄びながら考えに耽った。
確率を越えた無敗。そこには必ず、数字の権能による「理」が存在する。そして、それを統べる『天界』の何者かが、リボルのような駒を使って何かを試している……そんな予感がした。
「……エイト。行かなきゃ、ダメかな?」
イチカが、俺の服の裾をそっと握りしめる。
「……わざわざ、そんな危ない人のところへ」
「……残念ながら、避けては通れねえ。……ニカの情報じゃ、王都の外で『器』を完全に安定させるための触媒が、その迷宮の最深部にあるって話だったからな」
俺は立ち上がり、空になったグラスをテーブルに置いた。
三十路の体に、安酒の熱が心地よく回っている。
「……ジャック。情報は助かったぜ。……宿代代わりに、これを受け取れ」
俺は、手に置いた数枚の銀貨が微かな光を放つのを確認してから、ジャックの前へと滑らせた。
「……あんたのイカサマ、次はもっと上手くやりな。……肘が少し、外側に開きすぎだぜ」
「……ハハッ! ……地獄へ行くまで覚えておくよ、博徒さん!」
ジャックの笑い声を背に、俺たちは酒場を出た。
夜の冷たい空気が、火照った顔を冷やしていく。
「……三奈。予備の弾薬と、食料の補填は済んだか?」
「はい、マスター。……それと、王都から放たれた『追っ手』の反応も、微弱ながら感知しています。……のんびりしている時間はなさそうですね」
「……ああ。……夜明けと同時に出発する。……次は、命を懸けた『六分の一』の勝負だ」
暗闇に沈む町の向こう。
鉄の匂いを孕んだ不気味な風が、俺たちの髪を揺らしていた。
第19話、いかがでしたでしょうか?
ロシアンルーレットという極限の状況。
「戦闘力5」のエイトが、この「死の確率」をどう支配するのか。
次回、第20話。迷宮突入!
錆びついた鉄門の先に待つ、リボルの洗礼とは。
お楽しみに!




