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勇者は魔王を倒すと消えるらしい。 だから最愛の彼を偽勇者にして世界を騙すことにしました 〜713回ループした悪役令嬢の狂愛物語〜  作者: 薄氷薄明


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33. 役割を捨てた者たちの無双劇

 



 神託によって世界の理不尽な真実が明かされた翌朝。

 『白銀の誓い』の4人は、ヴィトリオール王国の騎士団と共に硝子の森の残党処理を迅速に終わらせると、息をつく間もなく次の戦場へと飛んだ。


 魔王の空席によって行き場を失った世界の悪意は、大陸中で原因不明の魔物災害スタンピードを引き起こしている。


 彼らが次に向かったのは、ガレリア帝国東部の防衛砦だった。


「ひぃぃッ! 門が破られるぞ! 弓兵、撃て、撃ち続けろ!!」


 砦の守備隊長が絶望の叫びを上げる。

 城壁の向こう側には、大地を黒く染め上げるほどの魔獣の群れが押し寄せていた。Bランクの重装オークや、空を覆うAランクの毒翼竜。正規軍だけでは半日と持たない絶望的な戦力差だ。


「……ゼノ様。準備はよろしくて?」


 城壁の上に舞い降りたセレスティアは、愛用の扇子を優雅に広げながら、隣に立つゼノに微笑みかけた。


「いつでも。……あなたの命じるままに、すべてを斬り伏せます」


 ゼノが、サファイアブルーの瞳に狂気的なまでの忠誠心を宿し、ミスリルの剣を抜き放つ。


 これまで、セレスは「真の勇者」であることを隠すため、自身に強力な隠蔽デバフをかけ、ゼノの影に隠れて支援するだけに留めていた。


 だが、もう運命を誤魔化す必要はない。


「はぁぁッ!!」


 城壁から飛び降りたゼノが、魔獣の群れの中央に着弾する。

 神速の踏み込みと同時に放たれた斬撃が、暴風となって数十体の重装オークをまとめて紙屑のように吹き飛ばした。

 魔王の証の片鱗を覗かせる、常軌を逸した圧倒的な身体能力。彼が剣を振るうたびに、大地が割れ、魔物の血が雨のように降り注ぐ。


「素晴らしいですわ、ゼノ様。……ですが、あまり無理はなさいませんよう」


 セレスティアが扇子をスッと振り下ろす。

 次の瞬間、空を覆っていた毒翼竜の群れの頭上に、星の瞬きを凝縮したような『純白の光の陣』が展開された。


『ギャァァァァァッ!?』


 降り注ぐ純白の光の柱が、空中の魔物を一瞬にして浄化し、チリ一つ残さず消滅させる。

 真の勇者としての力を一切制限なく解放したセレスの魔法は、ただそこにあるだけで周囲の邪気を払い、味方の疲労すらも回復させるほどの圧倒的な神聖力を誇っていた。


「ゼノさんの物理無双に、セレスちゃんの広域殲滅魔法……! 制限外した二人のシナジー、反則級じゃないの!」


 城壁の上で、アリアが目を丸くして感嘆の声を上げる。

 しかし、彼女もただ見ているだけの聖女ではない。砦の内部には、すでに多くの負傷した兵士たちが運び込まれていた。


「さて、私の仕事はこっちね! ……みんな、ちょっと眩しいけど我慢してね! 『大天使の息吹アーク・ヒール』!!」


 アリアが両手を掲げると、砦全体を包み込むほどの黄金の光が降り注いだ。

 瀕死の重傷を負っていた兵士たちの傷が、みるみるうちに塞がり、失われた体力までもが全快していく。国宝級と謳われる彼女の治癒能力は、野戦病院と化していた砦を、たった一瞬で無傷の要塞へと作り変えてしまった。


「な、なんだこれは……!? 腕がくっついたぞ!?」

「痛みがない! 俺はまだ戦える!!」


 士気を取り戻した兵士たちが、歓声を上げて再び武器を手に取る。


「ふふんっ! 運命には喧嘩を売るけど、目の前の命は見捨てないわよ!」

 アリアがビシッとポーズを決める。


 そんな中、城壁の一角で、一人だけひどく不機嫌な顔をしている男がいた。

 天才魔術師・ラキシスである。


「くそっ……! ゼノの奴が前衛で動き回りすぎるせいで、俺の『超絶・黄金オーロラエフェクト魔道具』の射程に収まらん! それに魔物の数が多すぎて、魔力冷却装置の出力が追いつかないぞ!」


 ラキシスは、これまでは「偽勇者・ゼノ」を演出するために、自作の巨大な魔道具を背負って光や音のバフをかける裏方に徹していた。

 しかし、戦場が広大すぎることと、真の勇者であるセレスが本物の光を放っているため、彼のエフェクト魔道具は完全に『お役御免』になりかけていた。


「ええい、鬱陶しい! こんなポンコツ装置、もう起動している暇はない!」


 ラキシスは苛立たしげに背中の魔道具を放り捨てると、懐から使い込まれた古木の杖を引き抜いた。

 そして、空に向かって杖を突き出し、たった一言、極めて短く詠唱する。


「消し飛べ。『炎帝の息吹インフェルノ・ノヴァ』」


 ゴゥゥゥゥゥゥッッ!!!


 ラキシスの杖の先から放たれた極大の業火が、渦を巻きながら城壁の向こう側へと着弾した。

 瞬間、太陽がもう一つ落ちてきたかのような目眩まし閃光と、大地を揺るがす大爆発が巻き起こる。ゼノとセレスが囲まれていた反対側の斜面に群がっていた数千の魔物が、その一撃だけで跡形もなく灰と化した。


 あまりの威力に、砦の兵士たちはもちろん、ゼノやアリアまでがポカンと口を開けて爆心地を振り返った。


「……あれ?」


 杖を振り抜いたまま、ラキシス自身が一番驚いた顔をしている。


「……魔道具の出力調整なんかするより、普通に俺自身が魔術を行使した方が、圧倒的に強くないか?」


「このポンコツ天才魔術師!!」


 アリアのツッコミが、戦場に響き渡った。


「仕方ないだろう! ゼノを光らせるための裏方作業ばかりで、自分から攻撃魔術を撃つ機会なんて全くなかったんだからな! くそっ、俺のアイデンティティが……っ! ……だが、魔道具はロマンだ!」


「ラキシス様、素晴らしい火力ですわ! その調子で右翼の群れもお願いします!」


 セレスティアが楽しげに笑いながら、新たな魔獣の群れへと純白の光の柱を落とす。

 ゼノも「助かります」と短く応え、さらに深く敵陣へと斬り込んでいった。


 魔王の不在による世界崩壊という、絶望的な状況。

 だが、今の彼らに悲壮感はない。


(……世界が私たちを『勇者』や『魔王』という役割に当てはめて、身勝手な脚本で消そうとするなら)


 セレスは、仲間たちの頼もしい背中を見つめながら、扇子を強く握りしめた。


(私たちは、セレスティアとして、ゼノとして、アリアとして、ラキシスとして。ただの『私たち自身』の意志で、この世界を救ってみせますわ!)



 役割を拒絶し、運命に抗うと決めた反逆者たちの無双劇は、世界の理すらも圧倒する勢いで、押し寄せる災害の波を次々と打ち砕いていくのであった。




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