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勇者は魔王を倒すと消えるらしい。 だから最愛の彼を偽勇者にして世界を騙すことにしました 〜713回ループした悪役令嬢の狂愛物語〜  作者: 薄氷薄明


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29. 違和感と魔王と勇者

 



 大陸各地の厄介な依頼を受け始めるようになってから、早いもので半年が経過していた。

 いかなる過酷な戦場であろうと、ゼノが剣を抜けば神々しい光(と過剰な演出エフェクト)が天地を照らし、すべての脅威を両断した。


 今やゼノの名は、名実ともに『世界が認める伝説の勇者』として大陸全土に轟いている。


 ある日の午後。

 国境沿いの平和な街のカフェテラスで、討伐依頼を終えた4人は優雅なティータイムを楽しんでいた。


「しかし、解せんな」


 テーブルに広げた古文書から顔を上げ、ラキシスがふうっとため息をついた。


「この半年、確かに世界中で魔物の数は爆発的に増えた。……だが、『魔王』が復活する兆しを見せない。いや、魔王軍を名乗るような知性ある魔族すら現れないのだ」


 ラキシスは不思議そうに首を傾げた。


「神話には『世界を滅ぼすほどの巨大な闇が現れる時、それを打ち払うために神が光の勇者を遣わす』とある。だが倒すべき『闇』の情報が一切ない。……そもそも『魔王』とは何なんだ? もしかして、先月討伐したあの馬鹿デカい猪の魔獣が魔王だったのか?」


「いやいや、さすがに猪が魔王ってことはないでしょ……」


 アリアが苦笑いしながら相槌を打つ。

 だが、その内心では全く別のことを考えていた。


(そりゃそうよ。だって、神話の法則から外れてて当然じゃない。ゼノさんは『本物の勇者』じゃないし、セレスちゃんが裏で手を引いてる偽勇者のプロデュースなんだから)


 アリアは国宝級の聖女であり、セレスの最強の共犯者だ。世界の法則がおかしくなっていようが、彼女にとっては「想定内」の出来事だった。


 アリアは話を明るく終わらせようと、パンッと手を叩いた。


「まあまあ、ラキシスさん。魔王がいないなら、それに越したことはないじゃない! 魔物は増えてるけどゼノさんが一振りすれば戦いは終わるし、平和になるし!」


「ええ。アリア様の言う通り、魔王が現れない理由は明白ですしね」


 テラス席の周囲を警戒していたゼノが、お茶を一口飲み、極めて平然と口を開いた。


「そもそも、僕自身が『本物の勇者』じゃないんですから」


「「えっ」」


 セレスとアリアの肩が、ビクッと跳ねた。

 ゼノは二人の動揺に全く気づかず、さも『今日の天気は晴れですね』とでも言うような、当たり前のトーンで語り続ける。


「当たり前じゃないですか。 僕には神聖魔術も光の加護も一切ない。ただ身体能力が高くて剣が振れるだけです。 神が遣わした『本物の勇者』が覚醒しているのか、どこにいるかも定かではありません。 ですが、僕たちが大陸各地に出向いて討伐していたから、『本物の勇者』の役割がなかったのかもしれませんし」


「……全くもってその通りだな」


 ゼノの言葉に、ラキシスが深く頷いた。


「世間はお前を光の勇者だと騒ぎ立てているが、あの光も歌声も、全部俺の魔道具の演出だからな。 だからこそ、世間でゼノという勇者の存在が知れ渡った今、まだ見ぬ『本物の勇者』とやらがどこで何をしているのか、そして『魔王』とは何なのかが、俺は気になったというわけだ」


「はい。世間の噂が一人歩きしているだけで、ラキシスがそれに合わせて勇者っぽく光らせてくれただけです。……僕はあくまで、『白銀の誓い』のメンバーので、セレスティア様を護衛する一介の剣士に過ぎません」


 大真面目に頷き合う野郎陣二人。


 彼らは「なんか世間が勘違いしてるから、演出盛ってノリで合わせてるだけ」と、完全に割り切ってこの茶番をこなしていたのだ。


 アリアは(この人たち、ある意味図太すぎる……!)と内心でツッコミを入れつつ、必死に表情を取り繕った。


「ゼ、ゼノ様! ご自身を卑下なさらないでくださいな!」


 セレスは努めて明るい声を作り、ゼノに向かって微笑みかけた。

 本物の勇者は、今まさにあなたの目の前で冷や汗をかいています。なんてこと、口が裂けても言えるはずがない。


「本物が別にいようといまいと関係ありません。現にこの半年、あなたがその剣で世界中の人々を救ってきたという『事実』は変わらないのですから。……ですから、どうかこれからも、私の誇り高き勇者様でいてくださいな」


「……セレスティア様」


 ゼノはサファイアブルーの瞳でセレスを真っ直ぐに見つめ返し、深く、静かに頷いた。


「はい。世間がどう喚こうと、僕が何者であろうと、やるべきことは変わりません。 僕があなたの盾となります」


 相変わらずの、ブレない忠誠心と平和な午後だった。

 



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