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勇者は魔王を倒すと消えるらしい。 だから最愛の彼を偽勇者にして世界を騙すことにしました 〜713回ループした悪役令嬢の狂愛物語〜  作者: 薄氷薄明


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22. 迷宮の荒稼ぎと光り輝く蹂躙劇

 



 辺境都市フレリアの近郊に口を開く、『黄昏の地下迷宮』。

 かつてCランクの昇格依頼で第一階層の入り口を探索したこのダンジョンに、勇者パーティー『白銀の誓い』の4人は再び足を踏み入れていた。


「よし。Bランクに昇格したことで、この迷宮の第二階層への立ち入りが許可されました。今日の目標は、第二階層に群生する希少鉱石と、Bランク魔物の魔石の乱獲……もとい、安全な討伐と素材回収です!」


 先頭を歩くアリアが、手元の分厚い採取リストを叩きながら鼻息を荒くする。

 王宮からの横槍を心配する必要がなくなった今、有能な聖女の興味は「いかに効率よくパーティーの活動資金を稼ぐか」という極めて実利的な方向へ全振りされていた。


「アリア様、足元にご注意を。第二階層は第一階層に比べて道が険しく、魔物の凶暴性も跳ね上がります。……セレスティア様、どうか僕の背中から離れないでください」


 ゼノが、サファイアブルーの瞳で暗闇を鋭く睨みつけながら、セレスを庇うように一歩前へ出る。


「ええ、頼りにしておりますわ、ゼノ様」


 セレスは優雅に微笑みながら、扇子の裏で静かに魔力を練り上げた。


(王都の煩わしい問題はお父様が片付けてくれました。ここからは、ゼノ様の『勇者としての実績』をひたすら積み上げるターンですわ。……さあ、どんどんかかってきなさいな、高価な素材(魔物)たち)


 真の勇者による、愛する人への重すぎる庇護欲と、ダンジョン生態系への容赦ない殺意が静かに満ちていく。


 ゼノの完璧な索敵と、セレスの密かな隠密バフにより、第一階層は文字通り「ただの散歩」で通過した。

 そして、空気が一段と冷たくなる第二階層に足を踏み入れてすぐのことだった。


『ゴォォォォォォォォッ!!』


 迷宮の奥から、地響きを立てて数体の巨大な魔物が現れた。

 全身が青白い水晶で構成されたBランク魔物、『クリスタル・ゴーレム』の群れだ。


「出たね、クリスタル・ゴーレム! あの子たちのコアと装甲は、魔力伝導率が最高クラスの超高級素材だよ!」


 アリアが「歩く金貨」を見つけたように目を輝かせる。


「水晶の装甲か……物理攻撃を反射する厄介な性質を持っているな。ゼノ、俺の魔法で先に――」

「不要です。セレスティア様たちに近づく前に、すべて粉砕します」


 ラキシスが前に出ようとするのを制し、ゼノが腰のミスリル剣を抜き放つ。


 チャキッ、という澄んだ音。


(硬い装甲? 反射? ……させませんわ。ゼノ様の剣を阻むものは、この世のすべて私が裏から破壊します)


 セレスは涼しい顔で微笑みながら、無詠唱で不可視の魔法を群れに叩き込んだ。


水晶結合崩壊クリスタル・ブレイク

極大重量付与ヘビー・ウェイト


 クリスタル・ゴーレムたちの巨体が突如として見えない重圧に押し潰され、その強固な水晶の装甲に、ピキピキと無数の亀裂が走る。


 そして、ゼノの神速の踏み込みが炸裂した。


「はぁっ!」


 ――ピュルルルルル!! シャラララララァァァーーンッ!!!

『アァァ〜〜〜〜♪(※大ボリュームの天使風のコーラス)』


 ゼノの剣が振られるたびに、薄暗い第二階層が真昼のように黄金の光で照らし出され、荘厳すぎる賛美歌が迷宮内にこだまする。


 ラキシスの特効魔道具によって『伝説の聖剣』と化したゼノの剣撃は、セレスのデバフによってガラス細工のように脆くなったゴーレムたちを、まるで飴細工のように易々と両断し、粉砕していった。


 ガシャァァァァンッ!!


 わずか数秒。


 目も眩むような光の乱舞とコーラスが終わると、そこには無傷で剣を納めるゼノと、綺麗に解体された大量の最高級水晶、そして純度の高い魔石だけが転がっていた。


「……セレスティア様。脅威は排除しました。ただ、やはりこの音と光は――」


「素晴らしい剣筋ですわ、ゼノ様! あんなに硬そうな魔物を一撃で……! あなたの神々しい光のおかげで、迷宮の暗闇も少しも怖くありませんでしたわ」


「……っ。……あなたが、そうおっしゃるなら」


 ゼノは羞恥で耳まで赤くしながらも、主からの称賛に抗えず、ストイックに口を引き結んだ。


「さあさあ、お喋りしてる暇はないよ! ラキシスさん、その空間収納の魔道具袋を広げて! 端から全部回収するよ!!」


 アリアが凄まじい手際で、砕け散った水晶と魔石を次々と袋に放り込んでいく。

 その後も、第二階層を突き進む『白銀の誓い』の歩みは止まらなかった。


 ミスリルを食らうBランクの『鋼鉄大蟻』の群れが現れれば、ゼノが黄金のとコーラスと共に一瞬で唐竹割りにし。

 希少な毒腺を持つ『暗殺毒蛇』が死角から襲いかかろうとすれば、セレスが裏から不可視の重力魔法で地に縫い付け、ゼノが「踏み潰して」光の粒子へと変えた。


「すごいすごい! これだけで金貨数百枚は下らないよ! まさに宝の山だね!」


「フハハハハ! 迷宮の壁面を利用した光の乱反射も完璧だ! 勇者の神々しさが120%増しになっているぞ!!」


 聖女と天才魔術師がホクホク顔で素材を乱獲し続ける間、ゼノだけは、延々と鳴り響くコーラスと光に精神をゴリゴリと削られながら、一切の妥協なく魔物を斬り伏せ続けた。



 数時間後。


「……前方に、魔法陣が見えます。第二階層の最奥、帰還用の『転移陣』ですね」


 ゼノの報告に、パンパンに膨れ上がった魔法袋を3つも抱えたラキシスとアリアが歓声を上げた。


「完璧なタイミングですわね。袋も一杯になったようですし、今日はここまでにしましょうか」


 セレスが優雅に扇子を広げる。


 彼女は汗一つかいていない。それどころか、愛する彼が魔物を圧倒し続ける(ように完璧に裏工作をした)姿を心ゆくまで堪能し、最高に満ち足りた気分だった。


「……はい。周囲に魔物の気配はありません。転移陣の安全は僕が確保しました」


 ゼノは大きく息を吐き、光り輝く剣をそっと鞘に納めた。


 その顔には、強力な魔物と連戦した肉体的な疲労ではなく、明らかに「無駄に派手すぎる演出」に耐え抜いた精神的な疲労が色濃く刻まれている。


(……ゼノ様、お疲れ様。でも、これでまたギルドでのあなたの評価は絶対的なものになりますわ)


 セレスは静かに微笑みながら、彼を労うようにそっと背中に触れ、共に青白く光る転移陣の上へと乗った。


「それじゃあ、帰還して換金祭りといこうか!」


 アリアの明るい声を合図に、転移陣が眩く光り輝く。



 『白銀の誓い』としての初めての本格的なダンジョン攻略は、ゼノの精神的疲労と引き換えに、莫大な資金と最高級の素材、そして「第二階層を無傷で突破した」という成果を引っ提げて、大成功のうちに幕を閉じたのであった。





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