30ページ目 殲滅する少女
「これ完成したっす!」
そう言ってマキナが渡したのは例のスナイパーライフルだった。銃身のガラス部分には稲妻が見える。バッテリー部分もほんのり青く光っている。他の部分もしっかりと磨かれており新品同様だった。
「光線収束型小銃、コンバージ・レーザーガン。推定射程距離は5キロ。どうすっか?」
「上出来だよマキナ」
「よかったっす」
マキナから銃を受け取り屋上に出る。双眼鏡をとり位置を確認する。
「そことそこだ。少年見えたか?」
確かに東北東方向と西南西方向それぞれ敵影っぽいのが見える。うまく人混みに紛れているようだけどそれぞれ武器を隠して待ってる。東北東方向は通り魔のアンドロイドと同じ奴らが10体、反対側もアンドロイドだが見慣れない杖のようなものを持ってる。
それにしても本当にマキナと虎兄さんには神里のことが見えてないどころか声も聞こえていないらしい。
「そことそこ、シャル見えた?」
神里の声が聞こえない二人にもわかりやすく、そして不自然にならないようにわざとらしく話す。
「おそらく魔法使いの類ですわね。と言っても魔道具に魔法を流し込めるだけのド三流といったところですわね」
シャルからひしひしと怒りが伝わる。よほど気に入らないらしい。それにしてもこの世界にも魔法を使える人がいるのか。マキナたちが驚いてないってことは意外と常識なのかも知れない。
「どうする少年、迎撃するか?」
目の前の軍人は今にも行きたそうにウズウズしている。
「早めに対処できたほうがいいけど…」
さっきのアンドロイドの表情がちらつく。人でなければ躊躇しないけどあれは人の感情そのものだった。アンドロイドも物だと割り切って破壊すべきなのだろう。でも…はたしてそれは正しいことなのだろうか。心の中のドロドロとしたなにかが増えていく。躊躇なんてしてる場合じゃない。頭ではわかってるはずなのに、その決断に踏み切るあと一歩がなかなか踏み出せない。
「何をためらっていますの?」
シャルが尋ねる。その顔は真剣に満ちたものだった。真っ赤な瞳で私を見つめる。
「わたくしたちの目的を忘れないでくださいまし」
そうだ、操琴音。自分の目的を思い出せ。今はマキナの観測に来ているんだ。なら、今ここですべきは奇襲を仕掛けようとしている敵の排除。マキナの安全を守りながら観測を進めるのが最優先だろ。機械だろうが人間だろうが、関係ないはずだ。そこに私情を挟むべきではない。
頬を思いっきり両手で叩く。
「ごめん。私甘えてた。機械だろうと容赦はしない。シャル、魔法使いだっけ?そいつらの対処をお願い。私は反対側のアンドロイドをやる」
「覚悟は決まったのですわね」
「でも、どうやってあんなに遠くの敵とやり合うの?私みたいに遠距離武器なんて持ってたっけ?」
「その点に関しては大丈夫ですわ」
持っていた自分の禁書が宙に浮く。パラパラとページがめくれて世界の欠片のように一冊の禁書を生み出す。
「これなら少し離れても大丈夫ですわ」
これもマキナたちには見えてなかったらしく、特に気にしている様子もない。原理とかはよくわからないけどおそらく取り込んでいたシャルの禁書を一時的に分離したのだろう。詳しいことは後で聞こう。
「では、少し行ってきますわ」
「シャル!これ持っていきな」
そう言ってトランシーバーを渡す―――と見せかけて神里のアーティファクトを渡す。
「じゃあ、頼んだよ」
神里もそれが見えていたのかシャルの方についていく。シャルたちはほうきに乗って魔法使いの方に飛んでいった。
私も準備をする。初めて使う武器なのになぜか手に馴染む。それも長年使っているデザートイーグルと同じくらい感触がいい。説明されなくても私がやっていたであろう“いつも通り”ができる。
「すごいっすね。俺、説明してないっすよ」
感心しているマキナをよそにスコープを覗く。さすが近未来武器といったところだろうか。覗いただけで風速や距離が表示されている。これはやりやすいな、そう心のなかでつぶやきながら静かに相手に標準を合わせる。
完璧に標準を合わせる。相手には気づかれていない。引き金にそっと指をかける。そのまま引き金を引く。直後、とてつもない轟音とともに青い稲妻が発射される。体が大きくそれを敵を貫き跡形もなくなる。私は命中を確認したあと同じ作業を9回繰り返す。ただそれだけ。
撃って、壊れて
撃って、死んで
撃って、みんないなくなる。
スコープ越しに敵の命の散る姿。仲間が死んで取り乱す者、人質を取る者、受け入れる者。敵の無様な姿がはっきりと写る。それでも―――何も感じない。
私が狙撃を行った数秒後にシャルたちの方でも火柱が上がる。双眼鏡で確認するとシャルが魔法を発動してるところだった。あの人、ろくな魔法が使えないとか言ってたけど意外と戦えるらしい。一分もしないうちに敵の殲滅が完了する。
「終わったよ」
ただ呆然と見る二人に告げる。何か言おうとしてマキナは口を開く。しかし、言葉が出てこなかったらしい。虎兄さんも表面上では笑顔だったが、内心は穏やかではなさそうだった。
二人を観察した私の中にはとても小さな疑問と、黒いドロドロとした何かが渦巻くのだった。




