29ページ目 悪意にさらされる少女
少しの休息のあと私たちは虎兄さんに話を聞くことになった。場所は応接室、虎兄さん曰くここぐらいでしか内密な話ができないらしい。
シャルと私は中で話を聞いて、神里は外で次の敵襲への警戒をすることになった。
「で〜君たちはどのくらいここについて知ってるのかな〜?」
「基本的なことぐらいかな。派閥だったり、人間への差別がひどいとかなんとか」
「なるほど〜、じゃあ〜今回あの子から教えてもらった情報共有から行こうか〜」
虎兄さんがいつも通り機械をいじる。出てきたホログラムからは例の通り魔アンドロイドについて様々な情報だった。
「まず〜、今回襲ってきたのはアイアンズ過激派のファイヤーマニス。人間、改造人間とも嫌う集団だね〜」
「では、個人を狙った犯行という認識で良くて?」
「そう思ってたんだけどね〜」
「なにか引っかかる点がありまして?」
「アンドロイドには名前の代わりに型番っていうのが存在するんだ〜」
「それがどうかしましたの?」
「今回の子はWAー37ー564。WAは戦闘用、37は製造された年の下二桁、567はその年に何番目に作られたのかを表してるんだ〜」
「平均がよくわからないからなんとも言えないけど、567って多い方なの?」
「多いね〜。大体一年で作られるアンドロイドは100から200。それに戦闘用で37年製は結構いいものだね〜」
「結局なにか言いたいんですの?」
「・・・う〜ん。なんというが通り魔にしては高性能すぎるんだよね〜。なんというかその〜」
虎兄さんが悩む。私も少し気になる点がある。まず、虎兄さん個人を狙った点についてだ。私たちが観測に来てから犯行まで少し時間があった。改造人間とただの人間、狙うならより確実に殺せるであろう人間を狙ったほうがいい。それに武器があまりにもお粗末だ。これだけ武器が豊富なのに相手はナイフ一本。普通なら銃のほうが確実なはず。これではまるで…。
「自爆テロがメインじゃ…」
ポツリと言った一言だった。二人はこちらを見て驚く。
「なんでそう思ったの?」
あの虎兄さんが真面目に来てくる。いつものふわふわとした雰囲気はない。何故か背筋が凍る。まるで本物の虎に睨まれたかのような感覚。
私は笑顔を取り繕う。心のドロドロとしたなにかを抑えながら答える。
「武器のレベルが低すぎる。この街ではそこら辺にいい武器が売られてる。私ならナイフで犯行に及ぶならそこら辺で武器を買うね」
「もしかしたら資金不足でってことも考えられるよね」
それもそうだ。でも私が違和感を持ったのはそこだけじゃない。一回目の爆発。工房から離れていた私たちを巻き込む威力。あれは通り魔が失敗したときの別プランだったのかも知れない。しかし、このことを言えば私たちがただの人間でないと勘付かれる。できればただの旅人という設定は活かして損はない。なら―――
「自爆のタイミングも違和感がある。君だけを狙った犯行なら切られたタイミングで自爆するべきだった。そうしたほうが情報漏洩のリスクもない」
「へぇ〜。それで?」
「それに恨むべき対象も殺せる。それをしなかったということは目的が君ではなくこの工房だった可能性のほうが高い。」
「なるほど、君の言いたいことはわかった」
一通り私の考えを聞いた虎兄さんは少し考えたあと、こちらを見る。その時にはいつものふわふわとした虎兄さんに戻っていた。
「まさかただの旅人にここまで当てられるとは〜。すごい観察力だね〜」
どうやら私は試されていたらしい。山場は乗り切っただろう。虎兄さんは満足の行く回答を得られたのか話を続ける。
「さて、ここからは他言無用でお願いね〜」
「わかった」
「ここ工房スパイネットはマキナだけで運営している個人店なんだ〜」
「あら、お二人でではなくて?」
「僕は経理などの事務仕事は手伝っていてメインは医者なんだ〜。職人として働いているのはマキナだけだよ〜」
「もしかしてここにある機械全部…」
「そう、マキナの作品だよ〜。多分この街で使われている日用品のほとんどがマキナが発明したものだろうね〜」
なるほど、そりゃ狙われるわけだ。おそらく過激派の奴らは改造人間が作ったという事実が気に入らないのだろう。うん、通り魔の知能で察してはいたがあまり高くはないらしい。
「嫉妬による犯行とは実に愚かですわね」
「まぁ、それだけマキナの技術はすごいからね〜」
「で、今回の爆破テロでここを爆発しようとしたのか」
「そういうこと〜。僕への攻撃はカモフラージュかもね〜。お二人さんはどうする〜?」
「ここまで知ってしまったからには付き合いますわ。それでよろしくて?」
「私は問題ないよ」
「じゃあまずはもう少し情報収集からしようかな〜」
そう言ってホログラムに映し出されたの周辺地図だった。この工房を中心にざっと半径30キロ圏内といったところだろうか。そこから3つの点がマークされている。一つはここから5キロほど離れた地点、もう2つはそれぞれが対角線上に位置する形でマークされている。
「これはこの街の周辺地図だよ〜。この工房を中心に各派閥の主要施設をマークしてるよ〜。一番近いマーカーは工房スパナッシュ、西側に原点連合、東側にアイアンズだよ〜。まずは…」
情報を集めるにしてもどうしたものか?私たちの本来の目的はマキナの観測であってこの世界の問題解決ではない。表向きでは手伝うと言ったけどマキナから離れるのも…。さて、どう切り出したものか。そう悩んでいると神里から連絡が入る。
―――聞こえるか少年。
「どうした神里?」
―――お客さんだ。東北東方向と西南西方向、どちらも距離5キロ、人数10人程度。
「了解、そのまま観測を続けて」
「えっと、誰と会話してたの〜?」
「あ…」
忘れてた、アーティファクトは観測対象たちには見えないんだった。脳内に神里の声が響いてますなんて言えない。私が言い訳を考えているとシャルがフォローを入れてくれる。
「実はもう一人いますの。ただ少し恥ずかしがりやで人前に顔を出したくないと。無礼をお許しいただけますの」
「そうなんだ〜。で、そのもう一人はなんて〜?」
「敵影だって。正確の場所はわからないけど東北東方向と西南西方向、距離は5キロほど、10人だって」
「どうするの〜。距離的には一応余裕がありそうだけど〜」
5キロとはいえ敵は20名、やろうと思えば片方を殲滅してもう片方をここで迎え撃つこともできるだろう。だけど、ここで戦えば間違いなく被害が大きくなる。それに
「やられっぱなしなのも癪に障る」
「じゃあ、これの出番っすね」
突然、扉が勢いよく開かれる。声の主は期待と興奮に満ちたマキナだった。




