192 大きいのか、小さいのか判断に困る恋愛喜劇1
大きいのか、小さいのか判断に迷う恋愛事情
今更といえば今更だが、マルクスとソフィアちゃんがハッサム村を訪れたのにはちゃんと目的がある。
村の見学やアクティビティは、その目的を果たすまでの待ち時間でしかない。
「お嬢、リビオンさんが見つかったそうです。」
「OK、報告御苦労だよ、リットン君。」
やっとか。
朝のお茶をまったりと楽しみつつその報告を受けた私の心に浮かんだのは、呆れと安堵だった。村に戻って早数日、うち独自の空気感に2人がすっかり馴染むぐらいの時間、待ったり探したりして、やっとやつの所在ははっきりした。
そんなにフラフラしている男ではないはずなのだが、昨年に起きた帝国の侵略のアレコレで北の砦と行ったり来たりの生活らしく、村人たちもその所在を把握しておらず、時間がかかってしまったそうだ。
「ストラは悪くない。この村にも来たかった。」
「そうです、リビオン叔父上はそう言う人ですから。」
「うん、なんかごめんね。」
そんなわけで、私は、マルクス達を引き連れて、彼の元を訪ねたのだが・・・。
たどり着いた場所では、件の男が畑に組み敷かれていた。
「お嬢、助けてくれってばよ。」
情けない声で助け求める男は、リビオン・ルーサー、マルクス達がハッサム村を訪れた理由である。
数年前から村に住み着いている獣人の兄ちゃんで、独特な口調と獣人特有の人懐こさですぐに村になじみ、ほっかむりをして朝から農作業している姿が似合う田舎の男だ。
その正体は、前獣王であるマクベス王の弟さんで、ラジーバの王子である。マルクス達にとっては憧れの叔父さんらしい。
そんなおじさんが地面に倒され、その上では、背の高い女性が腰かけ、勝ち誇った顔で鼻を鳴らしていた。3メートルに近い巨体に長い手足、やや不愛想ながらもよく見ると愛嬌のある顔。一度見れば彼女のことを忘れないであろうそんな特徴のある女性。
「ジレンさんじゃん、久しぶりー。」
「うん、ストラ様、お久しぶり。おじゃましてます。」
「ジレンさんなら、大歓迎だよー。」
ジレンさん。彼女はラジーバの傭兵で、留学中は護衛としていろんな場所に付き合ってくれた人だ。寡黙ながら女性らしい気遣いもできるいい人で、旅先では何かと助けられた。あと、めっちゃ強い。
王国へ帰るときも護衛として一緒に来てくれたけど、王国についてからは、知り合いに会うからとふらっと旅立ってしまった。いずれは訪ねてくれると言ってくれていたけど、まさかハッサム村にまできてくれるなんて、正直めっちゃ嬉しい。
「用事は済んだの?」
「うん、今、済ます。やっと捕まえた。」
相変わらず淡々とした話し方だけど、そこには確固たる覚悟と喜びが見えた。詳しく聞くまでもなく、彼女の知り合いがリビオンで、出会うまでにそれなりに苦労があったということだろう。
「こ、これは。」
「正直に話せ。」
「・・・はい。」
格付けは済んでいる。そもそも村に住むことを決めた段階でリビオンは私やハッサム家の人達に忠誠を誓っているので、命令には逆らえない。まあ、最近は北の方へ遠征しているので、そこの責任者であるボルド将軍にも忠誠を誓ったりしているので、そのあたりは曖昧ではあるけど。今回もきっとそんな感じだろう。
「じ、じつは、こいつは私の弟子。」
「弟子で、許嫁。」
「おい。」
「うん、事実。」
気になるワードにマルクス達を見るが首を横に振られる。これはしっかり聞きだす必要があるな。必要とあれば魔法で脅すことも視野に入れつつ睨んでいると、リビオンはあっさりゲロッた。
リビオンは、ラジーバの王族であり、名の知れた武人でもあったため、彼を獣王へと推す声も多かった。しかし、王位に興味のなかった彼は、兄であるマクベス王と権力争いを嫌い、腕磨きと称して各地を放浪し、必要があれば国へ帰るという生活をしていた。
そんな修行の日々の中、彼は才能のある子供に出会い、その子に、武術の手解きをした。獣人が旅先で才能のある人に手ほどきをすることは珍しい事ではない。だが、王族であり、ラジーバでも有数の腕前をもつリビオンが誰かを鍛えるということは、非常に珍しく、本格的に手解きと受けたその子供は、リビオンにとっては唯一の弟子であった。
「その相手がまだ幼い子供だったジレンさんだったと。」
「うん、そして、許嫁。」
「ちが。」
「約束、私が勝てたらお嫁さんにしてくれるって。」
「ちがうからー。」
馬獣人の中でも大柄な彼女は、子どもの時点で大人と顔負けの体格と実力を持っていたが、そのせいで周囲から浮いており、純粋に実力をほめたリビオンに懐いたそうだ。
リビオンもリビオンで、才能もあり自分になつくジレンを可愛がり、弟子としてしばらく鍛えていたそうだ。
そうやって絆を深めていく2人であったが、リビオンは放浪者であり、別れの日は訪れた。
「俺を倒せるぐらい強くなれよ。」
「うん。」
「もし、倒せたら、何でも言うことを聞いてやるよ。」
「じゃあ、勝てたらお嫁さん。」
「ははは、勝てたらな。」
別れを惜しむジレンさんを、リビオンはそう言って励まし約束をしたそうだ。これだけなら微笑ましい師弟愛であるが、その当時からジレンさんはリビオンのお嫁さんになることを心に決めていた。なんなら、幼いながらに求婚もしてたそうだ。それがなんやかんやあって、「倒せたらなんでも言うことを聞いてやる。」と「勝てたら嫁にする」という約束になったそうだ。
「約束を守ってもらうために傭兵としてがんばった。」
「なるほどー。」
「ジレンさんと叔父様の間にそんなことがあったんですね。」
子どもの気まぐれと本気にしてなかったリビオンに対して、ジレンさんは一途で本気だった。寸暇を惜しまず身体を鍛え上げて、傭兵として名をあげ、自信がついたところで、挑んだそうだ。だが、かつての愛弟子相手に本気に慣れないリビオンはのらりくらりと逃げ回り真剣勝負を避けた。
しまいには、行方をくらまし、ラジーバにもめったに帰らなくなったそうな。
「最低だな。」
「最低ですねー。」
「リビオン叔父上、それはさすがに。」
「いやいや、俺だってね。考えがあるの。それにこいつ相手に本気をだすのはちょっと。」
「「「言い訳乙。」」」
行方が分からず困っていたジレンさんだけど、私からハッサム村に住み着いているという情報を獲得し、追いかけたそうだ。
これに関してはマルクス達からも聞いている。まさかこの男、ここ数年はガチ目に行方をくらませていたらしい。
「なるほど、会いたかった知り合いってのがリビオンだったのか。水臭いなー教えてくれたら協力したのに。」
「恥ずかしかった。あと万が一が怖かった。」
「ああ、納得。」
これは恋する乙女ですわー。きっとここに来る前に北にも行っていたに違いない。
「しかし、どうするよ、これ。」
「いや、俺に聞かれても。」
それもそうだ。だが、どうにかしないと畑への被害がでそうなんだよねー。
ストラ 「もう誰も覚えてないんじゃない?」
マルクス 「一応は重要人物だったはず。」
ハルちゃん「じじじ(精霊でも補足できなかった。)」
久しぶりに登場したので補足
リビオン・ルーサー ラジーバの前王マクベス王の弟で、マルクス達の叔父。獣人の成人の儀式としての旅の途中が大人になっても終わらない。数年前にハッサム村の食事にほれ込んで住み着いている。
ジレン 大柄の女性獣人 ラジーバでは有名な傭兵であり、ストラが旅行をしているときは護衛として同行していた。時々、ジリンとなっていることがあるけど、ジレンが正解です。




