193 大きいのか、小さいのか判断に困る恋愛喜劇2
愛を勝ち取れというお話。
「ところで、お嬢、なんでマルクスとソフィアがここにいるんだってばよ?」
「そこからかい!」
とりあえずジレンさんを解放し、逃げられないようにがちがちに締め上げ、首から下を地面に埋められた状態になったリビオンは、その時になってやっと、甥っ子たちの存在に疑問をもったらしい。このおバカワンコと言いたいところだが、ここ数日はジレンさんの対応をしていたとかですれ違っていたらしい。あと、今更だだ、口の果ての田舎の村に、王族が3人もいるのは不自然なので反論できない。
村人たちも、誰かが伝えただろうと思って、このドタバタをスルーしていたとか・・・。
「いい、落ち着いて聞きなさいよ。。」
仕方ない。そうため息をついたあとで、私はダメワンコに改めて説明した。
獣人の国であるラジーバでは、世情の大きな変化に伴い、マクベス王が引退を決め、長男であるメイナスが新たな王となった。本来は王太子として王の代理となるはずだったのだが、女性の影のなかったメイナスが急に結婚したことで退位となった。相手はラジーバでも実力者として有名なロザートさん。実績、容姿、血筋と文句のつけようのない人選であり満場一致でメイナスは即位した。それにともない、リビオンの王位継承権の順位は引き下げられ、彼が獣王になる可能性はほぼ0となった。
マルクスとソフィアちゃんがハッサム村を訪れたのは、叔父であり王弟であるリビオンに、獣王が代替わりしたことと、この事実を伝えるためだ。国関わる一大事であり、リビオンは王族だ。そのため、一斉告知と共に、信用できる人間としてマルクスに白羽の矢がたった。
「マクベス兄上が引退し、しかもメイナスがロザートと結婚。なんでまたそんな急展開に、いや、まさかお嬢がラジーバへ行ったとは聞いていたけど・・・。」
「叔父上の想像通りかと。」
「大体が、お義姉様の所為ですわね。」
「うん、ストラ様のせい。」
あれれ、どうして私の顔を見て納得するのかな?
ともあれ、次期王が正式に即位したことで、王族というめんどくさい義務からリビオンは解放されたことになる。
「なるほど、理解した。近いうちに帰国して、祝いの言葉を伝えさせてもらうよ。」
本人の知らぬところでの急展開だったが、理解が及ぶと、リビオンはうんうんとうなづいた、その顔に不満はなさそうだ。もとより王位には興味はなかったそうだし、放浪していたのは、無益な争いを生まないためだと言っていたので、甥っ子の成長と祝賀を素直に喜んでいるようだった。
しかしだ。
「正式に伝える前に知れて、よかったわ。」
「そうか、ジレン嬢にとっては、事情を知っているほうが都合がいいのでは。」
「いやいや、それは甘いよマルクス。」
王に嫁いで国母となることに比べれば、今のリビオン嫁ぐのは難易度が低いだろう。そういう意味では、マルクスの意見はもっともだ。
だが、甘い。
今までは王族のしがらみという理由でやんわりと対決を避けられていた。それが無くなった今、大事なのは当人たちの感情の問題となる。そして、こういう状況になったら、全力で雲隠れをするぞ、このタイプは。
その証拠に、埋まっている地面が若干盛り上がっている。隙があれば逃げ出す気満々だ。
「じゃあ、何の憂いもなくなったところで、やっちゃおうか、決闘。」
「なんで、そうなるだってばよ。」
「だって、あんた逃げるでしょ。」
「そんなことはしない、ただ。」
「常在戦場は戦士の基本。」
理由をつけて戦いと恋愛から逃げる腰抜けには逃げる余裕を与えてはいけない。それにジレンさんにはお世話になっているから、彼女が望むなら私は全力で応援するぞ。
「一応聞くんだけ、ジレンさんはそれでいいの?」
「うん、この人がいい。」
ならば、早速だ。私は指パッチンをして、精霊さん達を呼びだす。
「ぐるるる(どうしたの?)」
「じじじ(面白そうな気配。)」
「立会人としては充分よねー。」
獣人たちは精霊を神聖視している。神前婚ならぬ精霊前婚なんてものがあるくらいだ。まあ、呼び出したのは別の理由なんだけど。
「ドームを作るよ、ついでに暇な村人も全員集合で。」
「ぐるるる(OK)」
「じじじ(了解)」
そう宣言するやリビオンが埋まっている地面とその周辺に魔力を浸透させる。イメージは一辺10メートルの正方形の舞台と、逃亡防止の策。どうせなら少し高くしてみんなが見えるようにするか。
「ぐるるる(なるほど、分かった。)」
魔力で描かれたイメージ図を元に、クマさんファミリーが一斉に土魔法を発動して舞台を整い、段々になった客席が用意される。日々の積み重ねからか、私のイメージをもとに土魔法で形を作るのがすっかり得意になっています。
「お嬢、なにを。」
「ジレンさん、舞台へ。」
「うん、感謝。」
舞台で放り出されたリビオンに近づくジレンさんを確認して、さらに魔法を発動、鳥の巣のような柵で舞台を覆いつくし、逃げ道を塞ぐ。観客の視界を確保するために細い柵なので強度は怪しいが、逃げるためにワンアクション必要な状況を作れれば、後はどうにでもなる。
「聞いたぞ、リビオンのやつがプロポーズされって。」
「なんでも婚約を賭けて戦うんだろ。よく呼んでくれた。」
大事なのは、物理的ではなく精神的な逃げ場を無くすことだ。衆人環視のもと、逃げたとはっきりわかる行動はさすがにとれまい。まあ精霊さんたちも総動員した監視網を構築した今、いかにリビオンであってもそう簡単には逃げられない。
彼に残された道は。
「さあ、覚悟を決めて、戦いなさい。そして散りなさい。」
やっていることが悪役? いやいや、恋する乙女の味方なだけですよ。
整えられた舞台と観客と精霊たち。立会人は、ラジーバの王族であるマルクスとソフィアに、王国貴族である私。必要があるなら、メイナ様とスラート王子あたりからもらった紋章や、精霊王の威光もつかってやるぞ。これほど決闘という言葉が似合う場面もなかろう。名誉だ実力主義を掲げる獣人ならがここで、腹をくくるだろう。
「くっ、わかった。なら、この一度だ。一度だけ本気で相手をしてやる。それでだめなら諦めろ。」
「うん、わかった。」
ここまでお膳立てして、リビオンはやっと覚悟を決めた。ブチブチと拘束を引き裂き、立ち上がる。その視線は本気のそれで、身体も一回り大きくなっているように見える。
「獣人ってさあ、本気になるとサイズが変わるよねー。」
「じじじ(魔法?)」
「だろうねー。身体強化かなー?」
「うむ、獣人の魔法は、身体強化が基本だからな。筋力や骨格の強化だけでなく獣人としての特徴が強化されるのだ。リビオン叔父上の場合は狼の体毛と俊敏性が強化されて、物理攻撃が通用しない上に、目にも止まらない速さをもつラジーバでも最強の戦士となるんだ。あの性格ゆえ、滅多に本気になることはないが、本気を出した時は父上よりも強いとも言われている。」
「へー。」
やる気満々な姿をマルクスが興奮気味に解説してくれたが、私からするとふーんレベルだ。確かに強いよ、素の状態でも真正面から戦ったら私や村人の多くが転がされる実力者である。ただ魔法アリ、精霊さんの支援ありならなんとでもなるんだよねー。
「本気で行く。手加減できないくらい強くなってくれて師匠としてうれしいぞ、ジレン。」
「うん、負けない。」
対するジレンさんは落ち着いて構えている。その内面では魔力というか闘気的なものが渦巻いているが、もともと大柄なので変化は見られない。
その姿を見るリビオンは、気のいい兄ちゃんから、1人の男、いや戦士として態度を改めたのか、その密度をさらに増した。
「ジレン殿は確かに優秀な戦士だ。しかし、本気になったリビオン叔父上とは相性が悪すぎる、あの状態では、打撃では有効打にならないぞ。」
「たしかに、堅そうだね。それに痛そう。」
チクチクした体毛は針のように鋭くなり、どこぞのスーパーな戦闘民族のようである。思えば獣人の本気というのを見るのは初めてかもしれない。学園でマルクスに絡まられたときやマクベス王を殴り倒した時は、そんな暇も与えず圧倒していたし、旅をしているときは、体力の温存もあって本気の本気というのは見たことがなかった。
なるほど、充分な準備と心構えができるとこれほど強くなるのか。
「まあ、それでも、リビオンじゃ。勝てないよねー。」
色々と引っ張ったけど、勝負はあっさりと終わった。
開始の合図とともに突撃したリビオン。潜り込むような踏み込みからの顎を狙った必殺の一撃。並みの使い手なら、相手が視界から消えたように見え、動揺している間に脳を揺らされていただろう。
「ふん。」
だが、それを見切ったジレンさんは、首を動かしただけでその一撃を躱し、攻撃のために伸びきったリビオンの腹にカウンターのワンパン。残った右手でとっさにガードしたリビオンであったけど腕一本で防げるような威力ではなく、そのまま吹き飛ばされ柵へと激突した。
「えっ?」
多くの人には、試合開始と同時に策に激突したリビオンだけが見えただろう。そしてそこに突撃するジレンさんの姿。
「ふん。」
カウンターによるダメージと動揺によって動きが止まったリビオンだが、意趣返しとばかりにカウンターの拳を合わせたのは見事だった。
しかし、ジレンさんはその手を掴み、そのまま反転。地面が揺れるほどの踏み込みともにリビオンを投げつける。
試合時間はわずか10秒。決まり手は、一本背負いによるTKO。
「な、ななな。」
「まあ、驚くよねー。」
リビオンが弱いわけじゃない。恋する乙女となったジレンさんが強すぎるのだ。
何年も募らせ続けた恋を原動力に鍛え続けた日々に、私の知識チートによる最適化、何より精霊王へ旅路によるブートキャンプによって彼女は恐ろしく強くなっていた。
同じく旅をしていたロザートさんも一緒に切磋琢磨した結果、ゲームの知識を含めて、その実力はこの世界トップクラス、あの皇帝とだって渡り合えるかもしれない。魔法あり、精霊さんの支援ありの私だってたぶん勝てないレベルぞ。
「ぶくぶく。」
「うん、勝利。」
かくして恋する乙女は、愛を勝ち取り。愚かな中年男性は年貢の納め時となったのだ。
これはもうあれだな、このまま式をあげさせよう。村をあげてお祝いしてやれば、きっと楽しいし。
ストラ 「リビオンもハッサム式ブートキャンプでかなり強くなってますけど、ジレンさんやロザートさんたちには勝てません。」
マルクス「ラジーバの未来は安泰だなー。(震え声)」
なんだかんだ、関わった人達が人外レベルで強化される。これもストラクオリティ




