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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ14歳 ハッサム観光編

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195/199

190 一方そのころ王城では・・・。

 時間的にはストラが里帰りした直後のお話。お久しぶりのスラート王子視点です。

 貴族とは権限であり名誉である。そして役目である。その役目が大きければ報酬も立場も偉くなる。

 国王と王族が支配する王国内で、貸し与えられた土地や役目で功績をあげ、国に尽くす。王は貴族の働きを評価し、その意向をくみ取り相応しい地位と役目を与える。

 むろん、王の采配一つですべてが決まるわけではなく、一つ一つの判断には多くの議論や会議、検証が行われるし、その判断が間違っているなら、諫めるのが臣下である貴族たちの役割だ。それでも最終的に判断を下すのは国王であり、その権力は絶大なものである。

 だからこそ、王となるものは広く手と目を広げ、臣下の言葉に耳を傾けるべし。それは会議や仕事だけでなく、お茶会や夜会などといった機会も大事にする。

 それは王子であっても例外でもなく。とくに第二王子にして、次期国王であることがほぼ内定している私も例外ではない。忙しい公務の合間を縫い、招待状から選び抜いたお茶会に今日は顔をだしている。

 そして絶賛後悔中だ。たしか、学園OBが主催する軍事学の生徒主催の試食会だったか?


「いやはや、やはり、次期国王にはスラート様こそふさわしいですな。」

「生まれ持った気品も学園での成績も歴代で一番だとか、まことこの国の未来は明るいですな―。」


 揉み手と愛想笑いで自分をほめる貴族子息たちとその保護者達。予想していたとはいえ、席に着くなり、自分を持ち上げ、無駄についた肉を震わせて、勘違いと不快感を並べるだけの存在。ただでさえ気味が悪いのだが、一部の子息たちが丸坊主なせいで、全体にシュールすぎた。何がひどいって、丸坊主の子息たちの方が大人しく、礼をわきまえた態度をしていることだろう。王子である自分に対して臣下の礼をとったあとは、遠巻きに様子をうかがっている。こういう場ではホストでもない限りは立場が上な自分から話しかけるまでは自由にするか、あのように様子をうかがって待つものだ。

 そして、ホストの役目は招待客同士が交流をしやすいように、場を進行し、縁を繫ぎ、満足して帰ってもらうことなのだが。


「ああ、彼らですか。」

「実は先日、学園で、ちょっとありましてねー。」


 自分の視線に気づいたのか、ちらっとそちらに視線を向けるとそのホスト達はにんまりとほほを上げる。実のところ、俺は彼らがなぜ坊主頭になっているか知っている。なんなら身内とも言える少女がいろいろやらかした結果であり、自分も白紙委任状を渡したので共犯ともいえる。


「なんでも学園で女生徒相手に粗相をして返り討ちに会ったとか、全く情けないことで。」

「そうですねー、その女生徒も女生徒ですが、女子に負けるなんて。」

「まったくスラート様とメイナ様のように気高く、気品のある振る舞いができないものだでしょうか。」

 

 忌々しい。なにかと忙しい自分を呼び出してやっていることは、次期国王である自分への顔売りと媚び売り。あるいは、自分たちはスラート王子を支持していましたよというアリバイ作りだ。それでいて、他人の失敗を誇張して自分たちの有能さをアピールするのがうざい。


「し、しかし、あれですなー、さきの帝国の侵攻はもったいなかったですなー。」

「そうですねー、もう少し帝国が粘っていれば我が家の実力を示すことも叶いましたのに。」

「たしかに、平和なのもいいですが、戦う相手が居なければ手柄の立てようもありますまい。」


 そんなことを言って、当時は真っ先に逃げ出して自領に引きこもり、先の一件では、選抜メンバーにも選ばれなかった無能さで、選ばれただけなのに、よく言えたものだ。こいつらは当事者ですらない。


「それはつまり、諸君らは将軍や父の采配以上に活躍できたと?ならば、次の機会では、」

「い、いや、そんなことは。」

「我らは領地の守る役目がありましたゆえ。」


 世渡りと政治がうまいだけの見掛け倒し。だから、こうしてちょっと威圧すればすぐに慌てだす。すかすかなのに、身の程を知らないから礼儀もなっていない。

 薬師の少女がこの光景を見たら、ブチ切れて魔法で吹き飛ばしていただろう。いや、論破して精神的にぼこぼこにするだろう。なんならここに呼んで丸投げしたい。


「それよりも、今日は軍の糧食の試食会だと聞いていたが。」


 さすがに王太子である自分にはそんなことはできない。いや流石にしない。使えない人間リストにそっと名前を書いておくのが精々だろう。なので、さっさとメインを済ませて帰ろうと私は先を促した。


「え、ええっと。」

「そ、それはですね、ははは。」


 自分の機嫌を損ねたことに今更気づいたのか笑い方がぎこちなくなる。そして、キョロキョロと視線をさ迷わせて、口をパクパクとさせる。これは何も用意していなかったのだろうか。


「スラート様、こちらをご賞味いただきたく。」


 と思っていたら、坊主頭の1人が真剣な顔で一つの料理をテーブルへと運んできた。


「き、きさま、タイミングは。」

「うむ、良いタイミングだな。さっそく食べようじゃないか。」

「ありがとうございます。」


 テーブルに置かれた二つの大皿、坊主頭たちは一礼して、その蓋をとる。すると香ばしい香りが広がる、ものすごく腹が減った。


「これは?」

「はい、揚げ芋でございます。今回はこちらの料理を軍の糧食へ追加することへの提案と、味付けに関することでスラート様たち王族のご意見をいただきたく思いご用意させていただきました。」

「揚げ芋?これが?」


 真面目な顔、だというのにどこか誇らしげな坊主頭たちはそれぞれの料理を説明する。


「はい、最近、学園を中心に王都でも流行りだした揚げ物でございます。高温の油で煮ることで。」

「水分が飛び、食感は良くなり、保存も効くんだったな。だが、時間を置くと湿気るとも効くぞ。」

「おお、流石です。そこもご存じでしたか。すでに麺をあげることで、長期的な保存の研究が進められています。」

「食事はすべての基本だからな。」

「まったくもってその通りであります。」


 説明を先取りスラートに坊主たちが感嘆の声をあげる。一部の軍人は兵站や食事を軽く見ていることが多い。それこそ貴族などはお抱えの料理人を帯同させ魔道具を使って戦場でも豪華な食事を食べることができ、そのつけを末端の兵士に押し付けることがある。その上で、兵士なら気合でなんとかしろとか言うし、食事の文句を軟弱と切り捨てるのだからひどい。

 その実態に警鐘を鳴らしたのが先代のハッサムであり、ブチ切れて改善案を提案したのが次代のハッサムである。それこそ、なんども正座をさせられ、食の大切さを説教されたものだ。


「イモは美味しくないと言ったときはひどかったなー。」

「殿下?」

「いや、なんでもない。揚げ芋だったな。わざわざ揚げる必要があるのか、蒸す方が効率はいいと思うが。」

「ふふふ、それも理解されているとは、流石です。」


 一番ひどかったのは、イモを馬鹿にしたときだった。不味くはないが味気ないから残そうとしたらグーで殴られた。護衛もいるのに、その防衛線を蹴散らして思いっきり殴られた。

 と、いかん、色々と思い出が・・・今は説明を聞かなくては。


「はい、イモは腹持ちもいいですし保存が効きます。なんならキャンプ地に植えておけば増やすことも可能なので糧食として優秀です。ですがそのまま食べると固くおいしくない、焼いても淡泊なものです。そこで殿下のいうように、蒸して食べるという調理法が提案されました。あれもすばらしいと思います。」

「そうだな、イモを効率的かつ美味しく食べる方法は必要だ。」

「その通りです。」

 

 なんで、こいつはこんなにテンションが高いんだろうか。イモだよ、イモだよね?


「要塞や拠点ならばそれでいいでしょう、しかし行軍中に火や水は貴重なものであります。何より冷めたら味が落ち、保存も効きません。そこで、この揚げ芋なのです、揚げるでイモの味が増しますし、冷めても食感が残ります。」

「なるほど、そう言う利点があるのか。調理してすぐに食べられないこともあるからな。」


 軍は拙速が求められる。食事のたびに立ち止まっていてはいられない。必要があれば歩きながら、馬に乗りながら食事をすることだってある。昨晩や朝に造った料理を持ち歩き、それを食べるなんてこともあるだろう。固い干し肉や乾パンなどをかじりながら行軍訓練をしたことだってある。あれはつらかった。


「はい、揚げたてもおいしいですが、冷めても美味しいし保存が効くならば糧食として素晴らしいと思います。パンと違い調理も簡単なので現地で生産も可能です。」

「問題は油と火力の確保。ならいっそ専門の設備を作ってもいいかもな。要塞なら万が一の時の防衛手段となるかもしれん。」

「素晴らしい御慧眼です。」


 圧が強い・・・。

 すごくいい話だし、建設的だ。だが坊主頭が集団で詰め寄ってくるのはちょっと怖いぞ。ちなみに煮えたぎった油を壁から落とすという提案をしたのは、あいつだ。恐ろしいことを考えるものだと思ったが、廃棄する手間を考えるぐらいなら武器にすればいいと真顔で言っていたな―。


「で、今回は揚げ芋をより長持ちさせるために二つの提案があるのです。」

「しかし、コストを考えるとなるとどちらかに絞りたく。」

「殿下たちの意見をお聞きしたいのです。」


 と、ここで、二皿の料理に戻るのか。たしかに見慣れた揚げ芋のようで香りが違う。


「まずはチーズでコーティングしたものです。揚げたイモを溶かしたチーズにくぐらせることで水分が保たれる上に、栄養も充実します。」

「なるほど、チーズの濃厚さとイモの味が合うな。」


 普通に料理としてもうまいなこれ、。チーズは携行食として優秀でありパンとチーズを糧食していた時代もある。やや重たい気もするが行軍中なら手早く栄養が摂取できるのはいいかもしれない。


「こちらは、下味をつけずに揚げたイモをチョコレートでコーティングしたものです。」

「チョコレート、菓子なのか?」

「はい、甘味を強くしたものも美味しいです。」


 イモと言えば塩味と思っていたが、甘いのと合うのか?


「うま、これなんだ、うまいな。」

「でしょう、我々もおどろきました。」


 チョコレートのパリッとした食感と揚げ芋のパリパリ感が実に合う。


「チョコレートはそれ自体の栄養価が高く、携行食として注目されています。」

「ですが、輸入に頼っている手前、コストがかかる。そこがネックでした。」

「なるほど、そこはポテトでかさましを図ったと。それならば糧食として末端の兵士にまで配給できるといわけだな。」

「その通りです。このバランスを見つけるまでは苦労しましたが、それに見合うポテンシャルを感じております。」


 チョコレートの原料であるカカオ豆はラジーバからの輸入に頼っている。今後、ラジーバが豊かになれば流通量も増えることになる。その点も踏まえてチョコレートを使った料理は増えていくだろう。これ、糧食という以前に普通に料理としてもうまい。


「甲乙つけがたいな。」

「その通りです。だからこ殿下たちのご意見もいただきたいのです。」

「どちらがお好みでしょうか。」

「う、ううむ。」


 これは困った。どちらも美味しく、糧食としてのポテンシャルが高い。だが、彼らの言う通り、両方を同時に開発し、運用するのは難しいかもしれない。


「個人的にはチョコレートなのだが、兵士達にはチーズの方が好みな気がするな。」

「たしかに、ガルーダ様はチーズの方がお好みだとか。」

「ああ、あいつにも聞いたのか、いい判断だ。」

「恐縮であります。」


 あいつはバリバリの武闘派だからなー。そして、あいつにも意見を求めているあたり彼らの真剣さを感じる。ただ権威にすがるならば、自分や父上に真っ先に持っていただろう。

 正直、戦いや軍事的な政策に関してはガルーダやその友人達の方が詳しい。そのあたりを弁えて相談し、精査した上で、自分のところにまでもってきたのだろう。

 ならば、自分としては。


「ガルーダがチーズと言うなら、糧食として、優秀なのはそちらなのだろう。」


 というのが本音だ。それを聞いてチーズ派と思われる坊主たちは喜び、チョコレート派と思われる坊主たちは悔しそうに顔をうつ向かせる。


「しかし、どちらもポテンシャルは高い。ならば、地域や流通の状況に応じて使い分けるのがいいと思う。」

「えっ。」

「チョコレートのネックとなってくるのはカカオだが、ラジーバとの流通路がしっかりした地域ではこちらの方がコスパがいいだろう。チーズも保存性はいいが、やはり産地に近い方がコスパはいいだろう。」

「なるほど?」

「なにより同じ味ばかりでは飽きがくるかもしれない。各地で生産したものを糧食として共有する。すぐには難しいかもしれないが、最終的にはこの形が理想的だな。遠征のたびに新しい味と出会えるとなれば、兵士達の士気も高まるのではないか?」

 

 最優先の方針を決めつつ、理想を考える。これが自分の役割だろう。いやけしてチョコレートをこのまま没にするのが惜しいとかじゃないぞ。


「さすがです、スラート様。私達は王都での相場でのみ考えおりました。」

「己の視野の狭さを恥じ入るばかりです。」


 おお、なんか伝わったぞ。しかもいい感じに。

 とりあえず揚げ芋の糧食化と、そのための設備の開発は進めていいと思う。


「揚げ芋をベースに、各地で独自の味付けを考えもいいかもしれない。ビネガーなどで味付けして酸っぱめの味もいいかもしれんし、カレーのスパイスなどもありかもしれない。」

「殿下、詳しく。」

「う、ううむ。いや、思い付きだがな。」

「いえ、スラート様は天才です。我ら一同、一層の忠誠を王家とあなたに誓います。」

「そうか、励むように。」


 目をキラキラ、いやギラギラと輝かせて詰め寄る坊主頭たちの勢いに、ホスト達は小さくなって何も言えなくなっていた。

 そのまま、揚げ芋にあう味付けはなにか、いや糧食としてどのような工夫ができるか、彼らと熱い議論を繰り広げたのは楽しかったとだけ語っておく。

 なお、兵士達の携行食として、様々な味付けをされた揚げ芋が普及し、そこからイモと油の生産が各地で増え、ご当地揚げ芋が生まれてちょっとした地域活性化につながることになるのは、この数年後のことだ。

 そして、私と坊主たちが「揚げ芋の賢者」と後年の記録に残ることなることを、私は知らなかった。



スラート「王子っぽい仕事ができた。」

メイナ 「ご立派です。でもなぜでしょう、どこか馬鹿っぽいですわ。」

坊主たち「自分たちは、ストラ様にボコボコにされた軍事学の生徒です。」

 箸休め的なお話のつもりが、なんか長くなってしまった。

 次回はまた、ハッサム村へと戻ります。

  

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