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十九話「 夜間校内散策その⑤ 」

俺は嫌な汗を流しながら何度もドアノブをひねる。だが扉は一向に開くことはなかった。


「一体どうなってんだ。閉じ込められたとでも言うのか…。」


「ちょっと何、心霊現象?。」


馬鹿なことを言うな。ただ扉が開かないだけだ。でもおかしい、この部屋には鍵がかかってなかった。だから俺達はこの部屋に入れたのだ。


「ドア壊すわけにもいかないし、桜花ちゃん達に連絡とって迎えに来てもらいましょ。」


胸ポケットから携帯を取り出し、電話をかけようとする重松の表情が突然曇った。


「なによこれ……。」


俺も気になり重松に歩み寄ると携帯の画面を覗きこんだ。


「…圏外…だと?。」


それは本来ありえない事だった。ここはどこにでもある普通の県立高校の四階。電波が通じないわけがない。すかさず俺も自分の携帯を確認するが、重松同様圏外になっていた。


「これは本格的に心霊現象の可能性が出てきたわね。」


苦笑いしつつも、挑戦的な顔つきになった重松。こいつはどこまでチャレンジャーなんだ。俺は閉じ込められた現状で手いっぱいだというのに。


「まぁ、しばらくしても帰ってこなければ桜花ちゃん達も探しに来てくれるわよ。最悪の場合今日はここで泊って、明日になれば誰か助けてくれるわ。」


なんというポジティブ精神、前向きキラーなのだ。だが床に体育座りして壁にもたれかかる重松を見て、俺は一つの可能性を考えた。

校門の外で待機しているメンバーの中には成瀬先輩がいる。忍者である彼女ならすぐにでもこの場所を特定できるかもしれない。そう考えた俺は重松と同じように座り待つことにした。

教室ではなく狭い準備室。大人十人は入れそうだが段ボールなどの荷物で範囲は半分もなかった。


夜中に同級生の女子と一つ屋根の下。男子なら一度は夢みるシチュエーションかもしれないが、まさかそれが実現して、しかもその相手が重松とはな。


「重松とこうやって二人きりになるのは初めてだよな。」


「そう言われてみるとそうかもね。」


ただ無言の空間に耐え切れなくなった俺はこちらから話題をふる事にした。


「俺何度も聞こうと思ったんだけどさ、重松は何で新遊部なんて部活作ろうと思ったんだ?。」


少し間が空き、重松は口を開いた。


「あたしね、小さい頃にお父さんが死んだの。」


体育座りをしながらこちらを向いて重松が話をしだした。何か悪い事を聞いてしまっただろうか。


「昔ね?、お父さんはあたしに遊びに行こうって言ってくれた。でもそのときは遊びたくない気分だったから断ったたの、またいつでも遊べるからいいやと思って。でもそれは違ったわ。その次の日にお父さんは会社の帰り道で交通事故にあって死んじゃったの。もう二度とお父さんと遊べない、子供ながら考えたわ。人はいつでも死と隣り合わせにいる、だから私はいつ死んでも悔いが残らないように毎日全力で生きようって!。」


俺の見間違いかもしれないが、重松の目元にはうっすら涙が浮いていたような気がした。


「そうか…すまないな。辛いこと思いださせて。」


今まで厄介だと思っていた新遊部、その部長である重松の言動は無茶苦茶だったが、その覚悟は目を見れば本物だと分かった。


「別にいいけど、ひとつだけ言わせて貰いたい事があるんだけどいい?。」


ちょっと不機嫌?と思われる顔で俺をジっと見てくる。なんだよ?。


「さっきから重松重松って、苗字で呼ぶの止めてもらえる?。男っぽくて嫌いなんだけど。」


「じゃあ、俺はなんて呼べばいいんだよ、アダ名でもつけろってのか?。」


「別にそこまで要求しないわよ、名前で呼んでくれればいいわ。」


「名前って、もしかして下の名前か?。」


「他に何があるのよ。ほら試しに言ってみなさいよ?。」


なんてことを普通にさせるんだこの女は。俺が今まで下の名前で呼んでいた女性は生涯で一人だけ。つまりそれだけ俺の中ではハードルが高いんだ。


「あの、それは勘弁してくれないか…。」


「人の名前に対して勘弁してくれなんて失礼するわね。ただ名前呼ぶだけでしょ。」


このままいくと重松は俺が名前を呼ばない限り食い下がることはないだろう。しかもここは密室、逃げ場もない。恥ずかしながらも俺が折れるハメになった。


「し…茂美…。」


小声でそう言うと重松は自分が勝ったというような笑みでこう言った。


「よろしい!。」

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