第12話
「私まで労役ですって!? あんたの書類にハンコを押しただけじゃない!!」
アネットは処分通知をルパートの顔へ突きつけた。
受領記録の偽造と横領への加担により懲戒解雇。五年間、王都の軍用洗濯場で監督付きの労役に服する。横領金の未返還分についても、共同で弁済する責任を負う。
先ほど審問室で何度も読み聞かされたのに、紙を開くたびに同じことが書いてあった。
「数字なんて分からないって、ちゃんと言ったのよ! それなのに!」
「金は受け取ってたくせに、何を言ってる!」
ルパートは声を荒らげた。
「俺なんか十五年だぞ! 近衛もクビだ、家からも切られたんだ!」
「はあ!? じゃあ、借金は誰が払うのよ!」
「俺が聞きたいわ! お前も働いて返せよ!」
アネットの指先が、何もない首元を探った。真珠は差し押さえられ、売却後に返済へ充てられることになっている。
鏡の前で何度も角度を変え、一番似合う位置に留めていた首飾りだ。今朝まで、自分にはまだあれがあると思っていた。
「お父様まで、私を見捨てたのよ。送った金を取り返されて、もう家の敷居を跨ぐなって。あの時は、よくやったって褒めたくせに!」
フォスター男爵は、不正な金だとは知らなかったと申し立てていた。送金に添えた手紙も、娘から受け取った物も、求められるまま差し出した。
アネットを迎えに来る馬車はなかった。男爵家から届いたのは、古い服を詰めた鞄だけだった。
「トーマスはどうしたんだよ。あの酒場では、あいつがいいって言ってたじゃねえか!」
「自分も裁かれるから、それどころじゃないって! 私とは客と売り手だって、そう言ったのよ!」
ルパートが笑った。口元は笑っているのに、頬が引きつっていた。
「頼りになる男ばっかり選んでたんじゃねえのかよ」
「あんたに言われたくないわよ、この役立たず!」
アネットが胸ぐらを掴んだ。ルパートがその手を振り払い、彼女の肩を押す。靴が濡れた石畳を滑り、二人とも泥の溜まった縁へ倒れ込んだ。
「離せ! この寄生虫女!」
「私の人生、返しなさいよ!!」
憲兵が間へ割って入り、二人を引き離した。脇で護送を待つ者たちも、通用門を通る騎士たちも見ていた。
「あれがカークランドか」
「自分で選んだ女と、最後まで世話が焼けるな」
ルパートは顔を背けた。先月まで、自分が命令を出していた若い騎士がいる。目が合うと、相手は挨拶もせず通り過ぎた。
その日の夕方、カークランド家の家令が荷物を届けに来た。家が借りていた宿舎の私室は解約するという。ルパートは家令の袖を掴んだ。
「父上は、何か言っていたか」
「お伝えすることは、何も」
「母上は? 兄上でもいい、俺に……!」
家令は頭を下げただけだった。差し出された袋には着替えと、エディスに磨かせていた靴が入っている。金は一枚もなかった。
翌朝、ルパートは北方のベルクシュタイン国境砦へ向かう護送車に乗せられた。王都から馬車で半月かかると告げられ、窓の鉄格子を握った。
エディスへ一通だけ手紙を書きたいと頼むと、申請して出せと言われた。
何を書けばいいのか。自分の処分を知ったら、あの優しい女なら。
そこまで考え、昨日渡された飾り紐を握り締めた。
アネットが洗濯場に入れられたのも、同じ朝だった。
「これは取って。仕事中に引っかけるから」
監督役の女が、髪のリボンを指した。
アネットは泣いて頼んだ。代わりに別の仕事をする、身体が弱い、水仕事なんて一度もしたことがない。
「最初は皆、やり方を教わるんだよ。こっちへおいで」
甘えた声も涙も、作業を免れる役には立たなかった。
軍服の山から泥を落とし、湯へ浸し、重くなった布を持ち上げる。昼までに爪の紅が剥げた。塗り直すための瓶は、持ち込みを許されなかった。
夕方、疲れ切って寝台に座ると、面会の申し出があった者の名が呼ばれた。
自分の名は、最後までなかった。
「誰か、来てないんですか。フォスター家の者とか……」
「今日はないよ」
翌日も、その翌日も同じだった。仕事の難しさを笑って許してくれた男たちへ手紙を出しても、返事は来なかった。
五年。指を折って数えようとして、アネットは荒れ始めた手を見つめた。
あの真珠を買わせた時、嬉しくて何度も眺めた手だった。
護送の日から三週間後の初夏の朝、王都大聖堂の鐘が鳴った。
ハルデンベルク家とペンデルトン家の結婚式が行われる日だった。
門前には祝いに集まった人々が並び、近隣の子どもたちには焼き菓子が配られていた。
白い馬車が大聖堂へ向かう。花びらが窓の縁に落ち、花嫁の手がそれをそっと拾った。




