第11話
召喚状を受け取ってから十日後、ルパート・カークランドは軍監府の大審問室に立っていた。
壇上には主席軍事法務官と三人の審査官。傍らの証人席にはマティアス・ハルデンベルクがいる。邸への侵入について証言を終えると、彼は審理席へ上がることなく退室した。
扉が閉じる。ルパートはその背を見送り、唇を噛んだ。あの男の私怨だと叫ぶつもりで用意していた言葉が、行き場を失った。
「第三小隊の会計について確認する」
法務官が書類を机へ広げた。謹慎中、ルパート自身も閲覧を許され、弁明を求められていたものだ。
「貴殿が小隊長に昇進して以降、一ヶ月間に提出した補給申請。その原案と、実際の提出書類が一致していない」
左にはエディスの細く整った字。右には、自分の署名がある。
「ペンデルトン嬢は、届け出済みの外部補助者として非機密の消耗品集計を行っていた。原案にある補助者名を、貴殿は提出時に削除している。加えて、必要数量を水増しした」
「け、計算違いです! 俺は新任で、書類に慣れていなくて!」
「では、納入されていない物資に受領印がある理由は?」
別の伝票が置かれた。アネットに押させた印だった。
「事務見習いに勝手に押されただけで――」
「納入商トーマスの帳簿には、差額を貴殿へ返した日付が残っている。店の会計係も立ち会っていたと証言した。貴殿の口座への入金とも一致する」
召喚を恐れて一度は逃げ出した商人は、倉庫を封鎖されて戻ってきていた。自分の罪を軽くするため、取引帳簿を差し出したのだという。
ルパートは書類を見つめた。数字を一つずつ増やす時には、簡単だった。原案をエディスが仕上げていたから、総計だけ書き直せばいいと思っていた。
「不正に払い出された公金は、金貨七十枚。うち二十枚はフォスター家への送金が確認され、差し押さえによって回収された。残り五十枚について、返還できる財産はあるか」
「実家が……父に頼めば、きっと……」
法務官は次の書面を示した。
カークランド子爵からの回答だった。身元保証の撤回。援助の拒否。貴族家族籍から外す届けの写し。
「あの仮誓約解除の通知を受けた後、父上は貴殿を呼び出しているな」
ルパートは頷けなかった。仕事が忙しいと使いを追い返し、その後の手紙も放置した。エディスさえ戻れば、父の機嫌も直ると思っていた。
書面の隅に、見慣れた父の筆跡があった。
『これ以上、家の名を盾にすることは許さない』
「待ってください! 会わせてくれれば、俺から説明します! 兄からも、取りなしてもらって……!」
「その要望はすでに先方へ伝えた。面会には応じないとの返答だ」
膝の力が抜けた。そばの憲兵に支えられて、ようやく立っていた。
「処分を言い渡す」
審問室に紙をめくる音がした。
「公金横領、受領記録の偽造、職務放棄、および住居侵入と暴行未遂。貴殿を近衛騎士団から懲戒除籍とし、帯剣を禁ずる。今後十五年間、北方警備部隊の監督下で労役に服すこと」
「じゅ、十五年……?」
「輜重部隊に付し、厩舎作業を命じる。期間中は無断で配属地を離れることを認めない」
十五年後には、三十八歳になっている。
ルパートは法務官の口元を凝視した。聞き違えたのだと、次の一言で訂正されるのだと待った。
「未回収の公金五十枚は、貴殿とフォスターが共同で返還する。どちらかから回収した分は、同じ残額から差し引く。酒場への私的債務三十枚は貴殿単独の負担だ」
「そんな金、厩舎でどうやって返せっていうんですか!」
「労役中の作業手当から、所定の額を充てる。未払い分は期間満了後も免除されない。食事、寝所、作業着は支給される」
机に置かれた返済表には、小さな額が延々と並んでいた。
アネットと一晩で空けた酒瓶。その一本分を取り戻すために、何日働かされるのか。数えかけて、やめた。
「佩剣を」
謹慎の際に預けさせられた剣を、憲兵が運んできた。鞘には、十八歳のエディスが選んだ飾り紐がまだついていた。
「それだけは……その紐だけでも、返してください」
憲兵が法務官を見る。頷きを受け、紐だけが外されてルパートの手へ渡った。
剣は戻らなかった。小隊長の徽章も、机の向こうへ持ち去られた。
「お待ちください! もう一度だけ、近衛で働かせてください! 今度は自分でやりますから!」
返事はなかった。次の書類が開かれ、憲兵が扉の方へ促した。
自分の処分は、もう済んだのだ。
護送の手続きを待つ前庭へ連れ出されると、別の審理を終えたアネットがいた。首元から、あの真珠が消えている。
彼女はルパートを認めるなり、手にした処分通知を握り潰した。
「ちょっとルパート!! どういうことよ、これええっ!!」




